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静かなひととき(2)※

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 テラスのリクライニングに仰向けに寝っ転がりながら、優里も聖吏と同じようにガラス屋根を見つめた。

 降り注ぐ雨は、リズム良くパラパラとガラスを打ち続けている。もし天気が良ければ、ここからは星空が見えるのに。

 聖吏の様子が気になって、首だけ動かして視線を向けた。端正な横顔。そして意外と、まつ毛が長いことに気づいた。青い瞳は真っ直ぐに上を見ている。そして鼻筋から口元を見たとき、とっさに視線をずらした。少し半開きになった口元が色っぽく見え、昼間のキスを思い出したからだ。このままだと、あらぬことを事を想像すると思い、話題を振ってみることにした。

「なぁ聖吏…、なに考えてんだよ。さっきから雨ばっか見て……」
「ん? 別に大したことじゃない。ただ……」
「ただ……?」
「……」

 優里に向けた聖吏の顔が、少し赤いように見えた。何を考えていたのだろう。

「結婚式って来月だろ?」
「あ、うん。そうみたい…だね。2週間後だって……」
「なんか他人事だな」
「だって、実感なくて…」
「……つまり、来月って……その、だな」
「あれ?」
「ほら、よくちまたでいうだろ……って」
「結婚、来月、巷で言う、あれ……、って、あー!」

 気づいた瞬間に顔が沸騰するんじゃないかというくらい、熱くなった。

 来月は六月。そう、巷で六月に結婚といえばーー。

 ーージューンブライド。

「優里は……、その…六月の花婿……いや、花嫁…だな」
「は、花嫁って!」

 なぜか花嫁と言うパワーワードに気恥ずかしくなって、反射的に顔を反対方向へ振った。でも聖吏の様子が気になって、もう一度、首を聖吏の方へ向けると、すぐ真横に聖吏がいた。

 顔が近い。

 聖吏が髪を撫で、両手で優しく顔を包みこんできた。真正面には深い青色の瞳。

 目が離せない。

 高鳴る心臓と、雨がガラス屋根を打ち付ける音。その両方の音しか聞こえない世界にいるような感覚に陥った。

 その二つの音の世界にそっと入り込むように、聖吏が耳元でささやいた。

「優里……愛してる」
「っ!」

 こくっと優里が頷き、小さな声で答えた。

 「……俺も……愛してる」

 優しくチュッと唇にキスが落とされた。この人と結婚するんだ、という実感がじわじわと湧いてくる気がした。

 両腕を聖吏の首にまわし、ちょっと力を込めて頭を引き寄せる。優里も首を少し持ち上げ、唇が触れ合った。聖吏が優里の頭とリクライニングチェアの隙間に腕を滑らせ、頭を支えた。相手の存在を確かめるように、ゆっくりと顔の角度を変え、口づけを交わす。聖吏の舌が優里の舌先を絡めとる。

「んっ!……ん……、しょ…う……り」

 つい、声が出てしまった。このテラスの近くの居間では二人の両親が話していると言うのに。でもきっと彼らは結婚式や、もう一人の許婚のことで話が盛り上がっていて、優里と聖吏のことなど気に留めていないだろう。

 舌を絡ませながら、徐々に上体を起こした。手を首から背中へ移動させ、しっかり抱き合った。いまや上半身はピッタリと密着している。

 やばい。これは、やばすぎる。

 聖吏も同じことを思ったのか、ほぼ同時に唇を離した。口元からは互いを繋ぐ銀の糸が垂れた。

「はぁ……聖吏、俺、やばいっ……かも」
「ああ、俺もだ……」

 このまま部屋へ直行したい。でもーー。

「……部屋……行くか? それとも俺の家……」

 聖吏の家には、いまは誰もいない。けど、このタイミングで(両親たちの会話に参加してない二人)、家を抜け出すには、少々面倒になりそうだ。それに外は雨。

「……部屋、でいいよ」

 手を繋いで、テラスからそっと抜け出した。居間の前の廊下を静かに通り過ぎ、なるべく音を立てないよう階段をのぼった。そして優里の部屋へと滑り込むようにして入った。
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