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秘められし心(2)
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ドアが大きく開かれ、聖吏が部屋へ入ってくるなり、優里を抱きしめた。聖吏の広くて、暖かな胸に包まれると安心した。気持ちが乱れた心が落ち着いてくる。
「優里…ごめん」
黙って首を横に振った。
「聖吏は悪くない。謝る必要なんて…全然ない」
「……」
「それにこれは俺と……俺の問題だし……俺が弱いから…はっきりしないから……。それに聖吏の言いたいこともわかってる。独占したいって気持ち…だから俺もう皇琥をーー」
「ーー違うんだ、優里……」
聖吏の腕に力がはいった。そして優里も腕を背中に回し抱きしめた。いまこの温もりを感じることができるだけで充分だと思った。
「優里、違うんだ……」
「え?」
「皇琥はお前のことを思って、……身を引いた」
「?! 俺を思って……、身を引いた?」
聖吏の言っていることが分からなかった。あの夜の皇琥は正反対のことを言っていたからだ。『俺はもうお前にも結婚にも興味ない』と、皇琥は優里にはっきり言った。それにさっき両親から聞いた許婚解消や寄付という名目の慰謝料も。
「あの夜……優里が部屋へ行った後、皇琥から見せてもらったんだ……脅迫状を」
「……脅迫状?」
「ああ」
聖吏の顔を見上げた。その表情から、口止めされていた事らしいと察した。普段の聖吏は、ほとんど表情を出さない。でもいまは余裕がないみたいで、眉をさげ、観念したような表情が出ていた。長年一緒にいる優里には、それが一目瞭然だった。
「優里との許婚を解消しなければ……」
「解消しなければ?」
「お前を殺すって」
「っ!」
一体、誰がそんなことを……。
「だから、皇琥は許婚を解消した。お前を守るために……」
まただ、また守られた。
「それと……」
「え、まだあるのか?」
「……優里は皇琥に好きだと言ったことあるのか?」
ぶんぶんと首を横に振った。
「なら優里、皇琥のこと…本当はどう思ってるんだ?」
「えっ……」
「あいつのこと好きなのか?」
「んっ……た…ぶん。……でも俺、聖吏のことも好きだから、だから…どうしていいか分かんなくて……二人も好きになっちゃダメだって思ってるし」
「俺のことは気にするな」
「でもそれじゃ!」
「俺は優里が好きな奴なら受け入れる。ただそれだけだ」
「でも…それじゃ、なんか……」
「それにもう悩む必要も、選ぶ必要もないだろ。複数と結婚できるんだから」
「あれは偶然で!」
「偶然じゃないって言ったら?」
「え?」
「あれは、皇琥の仕業だ。あいつ、本当にお前が好きなんだな」
「ちょ、ちょっと待って、あの法律が皇琥の仕業って…どういう意味だよ」
聖吏が皇琥のことについてざっくり教えてくれた。皇琥の家、宝条家は、昔からこの国や世界情勢を裏で支配している家柄であること。でもそれは決して表に出ることはないこと。
「まぁ、あいつの前世を考えれば、不思議じゃないんだけどな」
「皇帝…だっけ? あいつの前世? でのそれにしたって……」
「ああ、それも判明している歴史上の人物の比じゃないからな。だからあいつの史実がすっぽり抜けているのも、あいつにしか出来ないだろうな」
それを聞いた優里は身震いした。改めて、なんていうか、凄いやつと思うと同時に、少し怖いというか。
「でもそんな皇琥にも、唯一の弱点がある」
「え、なにそれ?」
聖吏の指が優里の鼻先に置かれた。
「お前だ、優里。ほんと、お前って大変な奴に気に入られたよな」
「っ!」
顔に熱が集まってきて、俯いた。
(まだ俺のこと…好きでいてくれるのかな…でもどうして俺なんか……)
「それにあいつ、相手からどう思われようと気にしないタイプだけど、優里は別らしい。案外ロマンチストかもしれない」
ロマンチストの声に思わず反応して、顔をあげた。
「ロマンチスト?」
「気にしてんだよ……お前から好きだって言われたことないって。前世も、今世もっ……」
「!?」
目をパチパチと何度も瞬きした。聖吏の言ったことを心の中で繰り返す。『気にしてんだよ……お前から好きだって言われたことないって…』顔だけでなく体中の血が沸騰するかと思うほど、体温が上がるのを感じた。
(あの皇琥が?! 世界を手中に収めるような、そんな奴が、そんなこと考えてたなんて。やばっ、可愛い……!)
「意外だろ?」
「…うっ、うん……意外過ぎてびっくりした。クソかわじゃん……」
プッと笑った聖吏を見て、つられて優里も笑った。そして二人で声を出して笑った。
「だから、次に会ったら、ちゃんと言ってやれよ」
「え、でも聖吏さっき独占したいって……」
「だからもういいって言っただろ。それに俺は、お前の笑ってる顔のほうが大事だから」
「……」
「あいつが好きなんだろ?」
聖吏の顔を見上げると、いつにも増して深い青が優しく見つめ返していた。
「うん、好き…だ」
「でも俺のことも好きでいてくれるよな?」
「当たり前だ!」
優しく髪をかきあげ、両頬を聖吏が包んでくる。あったかい大きな手。
「優里……愛してる」
「俺も聖吏のこと愛してる」
そっと瞳を閉じると、柔らかい唇が頬に触れ、そして口元へ。甘いキスが降り注いだ。
「優里…ごめん」
黙って首を横に振った。
「聖吏は悪くない。謝る必要なんて…全然ない」
「……」
「それにこれは俺と……俺の問題だし……俺が弱いから…はっきりしないから……。それに聖吏の言いたいこともわかってる。独占したいって気持ち…だから俺もう皇琥をーー」
「ーー違うんだ、優里……」
聖吏の腕に力がはいった。そして優里も腕を背中に回し抱きしめた。いまこの温もりを感じることができるだけで充分だと思った。
「優里、違うんだ……」
「え?」
「皇琥はお前のことを思って、……身を引いた」
「?! 俺を思って……、身を引いた?」
聖吏の言っていることが分からなかった。あの夜の皇琥は正反対のことを言っていたからだ。『俺はもうお前にも結婚にも興味ない』と、皇琥は優里にはっきり言った。それにさっき両親から聞いた許婚解消や寄付という名目の慰謝料も。
「あの夜……優里が部屋へ行った後、皇琥から見せてもらったんだ……脅迫状を」
「……脅迫状?」
「ああ」
聖吏の顔を見上げた。その表情から、口止めされていた事らしいと察した。普段の聖吏は、ほとんど表情を出さない。でもいまは余裕がないみたいで、眉をさげ、観念したような表情が出ていた。長年一緒にいる優里には、それが一目瞭然だった。
「優里との許婚を解消しなければ……」
「解消しなければ?」
「お前を殺すって」
「っ!」
一体、誰がそんなことを……。
「だから、皇琥は許婚を解消した。お前を守るために……」
まただ、また守られた。
「それと……」
「え、まだあるのか?」
「……優里は皇琥に好きだと言ったことあるのか?」
ぶんぶんと首を横に振った。
「なら優里、皇琥のこと…本当はどう思ってるんだ?」
「えっ……」
「あいつのこと好きなのか?」
「んっ……た…ぶん。……でも俺、聖吏のことも好きだから、だから…どうしていいか分かんなくて……二人も好きになっちゃダメだって思ってるし」
「俺のことは気にするな」
「でもそれじゃ!」
「俺は優里が好きな奴なら受け入れる。ただそれだけだ」
「でも…それじゃ、なんか……」
「それにもう悩む必要も、選ぶ必要もないだろ。複数と結婚できるんだから」
「あれは偶然で!」
「偶然じゃないって言ったら?」
「え?」
「あれは、皇琥の仕業だ。あいつ、本当にお前が好きなんだな」
「ちょ、ちょっと待って、あの法律が皇琥の仕業って…どういう意味だよ」
聖吏が皇琥のことについてざっくり教えてくれた。皇琥の家、宝条家は、昔からこの国や世界情勢を裏で支配している家柄であること。でもそれは決して表に出ることはないこと。
「まぁ、あいつの前世を考えれば、不思議じゃないんだけどな」
「皇帝…だっけ? あいつの前世? でのそれにしたって……」
「ああ、それも判明している歴史上の人物の比じゃないからな。だからあいつの史実がすっぽり抜けているのも、あいつにしか出来ないだろうな」
それを聞いた優里は身震いした。改めて、なんていうか、凄いやつと思うと同時に、少し怖いというか。
「でもそんな皇琥にも、唯一の弱点がある」
「え、なにそれ?」
聖吏の指が優里の鼻先に置かれた。
「お前だ、優里。ほんと、お前って大変な奴に気に入られたよな」
「っ!」
顔に熱が集まってきて、俯いた。
(まだ俺のこと…好きでいてくれるのかな…でもどうして俺なんか……)
「それにあいつ、相手からどう思われようと気にしないタイプだけど、優里は別らしい。案外ロマンチストかもしれない」
ロマンチストの声に思わず反応して、顔をあげた。
「ロマンチスト?」
「気にしてんだよ……お前から好きだって言われたことないって。前世も、今世もっ……」
「!?」
目をパチパチと何度も瞬きした。聖吏の言ったことを心の中で繰り返す。『気にしてんだよ……お前から好きだって言われたことないって…』顔だけでなく体中の血が沸騰するかと思うほど、体温が上がるのを感じた。
(あの皇琥が?! 世界を手中に収めるような、そんな奴が、そんなこと考えてたなんて。やばっ、可愛い……!)
「意外だろ?」
「…うっ、うん……意外過ぎてびっくりした。クソかわじゃん……」
プッと笑った聖吏を見て、つられて優里も笑った。そして二人で声を出して笑った。
「だから、次に会ったら、ちゃんと言ってやれよ」
「え、でも聖吏さっき独占したいって……」
「だからもういいって言っただろ。それに俺は、お前の笑ってる顔のほうが大事だから」
「……」
「あいつが好きなんだろ?」
聖吏の顔を見上げると、いつにも増して深い青が優しく見つめ返していた。
「うん、好き…だ」
「でも俺のことも好きでいてくれるよな?」
「当たり前だ!」
優しく髪をかきあげ、両頬を聖吏が包んでくる。あったかい大きな手。
「優里……愛してる」
「俺も聖吏のこと愛してる」
そっと瞳を閉じると、柔らかい唇が頬に触れ、そして口元へ。甘いキスが降り注いだ。
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