ドラゴンリベレーション~夢と自由を追い求めて一人旅に出たら、進化とスキル合成のおかげで世界最強になっていく元社畜の話~

山田康介

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空から来たる者

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 姿は消え、しかし衝突はしなかった。
 空から叫びが響いた。
 足を止めた2人の狭間に、水音を伴って丸い物体が地面に激突する。

「……人?」

 離れた場所から通る絵里の声が、聖の視線を空に持ち上げた。
 
「ドラゴン? ……なんでこんな所に!」

 一方、竜輝は地面に落ちた皇国兵の遺体を剣で転がす。
 兵士にしては太った腹とたるんだ顔。

「この男……何処かで見た覚えがあると思ったら、南に居た『略奪者』のフルードか」

「言ってる場合か竜輝! 降ってくるぞ!」

 そして上から黒竜が降ってくる。
 黒い翼で空を切り、流れる風がサイレンの音のように鳴り響く。
 俺だ。

 聖と竜輝が飛び退いた場所が、竜の牙によって削られる。
 黒竜は口の中にもう仕留めた獲物しかない事に気付くと、それを吐き出して再び上空に登った。
 上空で逡巡するように旋回し、やがて頭を下げ地上へ飛ぶ。
 その先には両軍が入り乱れる戦場だった。

「な、なんだ……?」

「早く逃げろ! ドラゴンが来たぞ!」

 1人2人と自らの元へ急接近する危険を察知し、空を見上げる。
 同時に聖の叫びが投げかけられ、すぐさま混乱に包まれる。
 皇国軍も連邦軍も散り散りに逃げる。

 顎で大軍を噛み砕こうとしていた黒竜は、ひと口でそれらを全て飲み込めないと知ると大きく息を吸った。
 そして口内から抑えきれない黒い霧が溢れ出す。

「ブレスだ……」

 大軍の中の誰かが走り逃げるのを諦め、呟いた。
 呟きに答える様に吐かれた毒霧のブレスが兵士を悉く灼く。
 崩れた肉が塵積もり、金属で出来た武器防具だけが残った。
 それを見下して黒竜は笑う様に、口から溢れる霧を飲み込んだ。
 再び毒を吐こうと黒竜が口を開く――。
 
「やめろおおおおお! 『属性魔法・天雷放逐ライトニングノヴァ』」

 その口に地上から放たれた雷光が突き刺さった。
 
「グギャアアアアアアア!」

 黒竜は空中でのたうち回り、やがて翼による制御を失い、地上に落ちた。
 その姿を雷片手に見ていたのは聖だ。

「おい聖、あいつの標的がまたこっちに移ったぞ。何か考えがあってやったんだろうな?」

 それを黒竜の作ったクレーターの反対側から、竜輝が咎める。

「あるわけないだろ、そんなの。仲間が死にそうになってるのに、見過ごせるわけないから撃ったんだ」

「考えなしかよ……クソが。もう戦争だの言ってる場合じゃねえ。あのドラゴンを先に殺す。お前は後だ」

「力を貸してくれるんだね。正直僕は、君が逃げると思ってた」

「お前があいつに手を出さなきゃ逃げるつもりだったぜ。あのドラゴンがどれだけの力を持ってるのか分からねえのか?」

 怒りを込めて睨む竜輝に、聖が何か言い返そうとしたのを絵里が止める。
 てっきり聖の援護をするのかと思ったが、彼女の顔を見る限りどうやら違うようだ。

「私も竜輝さんと同じ意見ですよ、聖先輩。見過ごせなかったのは分かりますけど、あのドラゴンは私達が今まで戦ったどの魔物よりも強いです。あの樹海のドラゴンよりも」

「同じだ」

「え?」

 聖が絵里の言葉に反論した。
 その反論を絵里に聞き返され、聖は口をつぐむ。
 どうやら無意識に出てしまった言葉らしい。
 それ以上説明するつもりもなさそうだったが、やがて2人の視線に諦めて聖は口を開く。

「同じなんだよ。あの樹海のドラゴンと。……肩にある傷跡は僕があの時に矢を射ってつけた傷だ。同じ個体だよ」

 ああ……。
 聖にはあの虐殺を行った黒竜が俺だと、分かってしまったようだ。
 正確には俺じゃなくて欲望に体を支配された俺だが、聖にはそんな事情伝わってないだろうな。

「聖先輩、それじゃああのドラゴンが……!」

「へえ、それはいいじゃねえか! 俺の右腕を奪った分をここで償わせてやる!」

 口を滑らせかけた絵里の声を、竜輝の怒声が遮る。
 危ないな。
 人間のヒトゥリがドラゴンだと知っているのは、聖とその仲間だけだ。
 それ以外の人間に知られると、俺が社会で生きていくのが不可能になる。

 聖達も装備を整えたり魔法による強化をしていたので、何もしていない訳ではないが、この機に攻撃するとか考えなかったのだろうか?
 戦闘や魔物退治の経験は聖達の方が多いから、俺が知らないセオリーとかあるのかもしれないけど悠長だな。
 ほら、体勢を立て直した黒竜が獲物を食おうと一気に飛び出してきた。

「――『神縛之紐グレイプニル』」

 飛び出した黒竜の頭を、白銀の何かが踏みつける。
 建物が倒壊したかのような轟音と煙が収まり、そこにはレインの手から伸びる透明な紐によって動きを止められた黒竜がいた。
 
「ヒジリッ! エリーッ! 今のうちに攻撃するのだ!」

「誰だか知らねえが、よくやったァ! 『怒髪帝剣・嵐どはつていけん』!」

 竜輝が剣を振りかぶり飛び込んでいく。
 
「絵里! 魔法で攻撃を! 全力で畳みかける!」

「はいっ『天体魔法・結晶彗星クリスタルコメット』!」

 荒れ狂う風を纏った宝剣が。
 結晶の如く強く固められた魔力球が。
 そして。

「ヒトゥリ本気で行くよ……『属性魔法・天雷劫火』」

 天の雷と大地の熱の力を宿した一太刀が。
 それぞれの渾身が黒竜を打ち砕こうと迫る。
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