ドラゴンリベレーション~夢と自由を追い求めて一人旅に出たら、進化とスキル合成のおかげで世界最強になっていく元社畜の話~

山田康介

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バックファイア

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 なので俺はレイオン達の戦いはそっちのけで、聖達の行方を追った。
 そもそも俺はレイオン嫌いだし……。
 セルティミアの事は気になるが、彼女の強さは訓練をつけてもらった俺がよく知っている。
 マリーとの模擬戦の時のような、不意打ちや初見殺しをされない限りは負けないだろう。
 ところで聖達だが、黒竜との戦闘があった地点から北西に行ったキャンプ付近に居た。

「そろそろ、キャンプなのだ。そこに行けば秘密兵器があるって伝言だったけど……あいつは何を考えているのか分からなくて、イマイチ信用できないのだ」

「ええと、レインちゃん? あの人……ダイアモンド大統領は一応自分の国の首相なんでしょ? 『あいつ』はやめましょうね」

 ダイアモンド大統領――聖達の所属するフォーク連邦国の首相であり、出身・経歴不明の謎の人物。
 今まででの会話やコルク村での村長の話から、高いカリスマを持っている事だけが判明している。
 だがそんな得体のしれない奴よりも、気になるのは秘密兵器の事だ。

「秘密兵器。大統領がそう言ったのなら、それはきっと独……あの黒竜を倒せる何かだ」

 聖がまっすぐ、遠くに見えるキャンプから立ち上る煙を見ながらそう言った。
 レインも絵里もそんな聖の様子に違和感を感じたようで、お互いに顔を見合わせる。
 
 ああ、そうだ。
 聖はそんな奴じゃない。
 こんな場面で聖が言う事といったら、こうだ。

『ダイアモンド大統領か……。何があるにしても、王国の人達が来てくれて良かったよ。戦場に居た皆も避難できたようだし、僕達も一度態勢を立て直したら、また戦いに行こう』

 強大な敵よりも、近くで戦う仲間や後ろの守るべき人を身近に感じる。そういうタイプの男だったはず。
 それが敵や兵器の事に気を取られるのは、やはり今までにない程の強大な敵だからか、それとも……。

「絵里が聞かないなら、私が聞くのだ。ヒジリ……あの黒竜を倒す決意はできているのだ?」

「何の話――」

「とぼけないで欲しいのだ。アレがこの前のヒトゥリとかいうヤツなのは、もう我達も気付いてるのだ」

 レインは先に進み続ける聖の手を引っ張った。
 レインと聖の目が交差する。
 らしくない。
 あの聖の顔がまるで能面のように無表情だ。

 黙り込んだ聖から顔をそらし、レインは反対の手に握られた【紐】を引っ張る。
 その先にはレインのユニークスキルである『神縛之紐』に縛られ、空中に浮遊させられたまま運ばれる竜輝がいた。
 黒竜の麻痺毒の作用か、まだ気絶から目覚めていないようで、身じろぎ一つしない。

「このリューキってヤツもモスワ皇国の勇者、敵なのだぞ。油断して後ろから刺される前に、いつかは先に殺さなきゃいけない相手なのだ」

「でも」

「同郷だって言いたいのは分かるのだ。でもこいつはヒジリの事を本気で殺そうとしているのだ。ヒジリが戦いたくないとか! 殺したくないとか! 和解したいとか! そんな事考えていても殺しに来るのだ! だから先に殺さないと――」

 レインの口は素早くヒートアップしていく。
 手にも力が入り、手を握られている聖の顔も段々苦痛に歪んでいく。
 それでもレインは止まらない。
 気付いてない。

「レインちゃん」

 絵里がレインを後ろから抱きしめる。
 頭を撫でられ正気の戻ったレインは、自分が聖を傷つけかけていた事を知って慌てて手を離す。

「ご、ごめんなのだ! ヒジリ、わ、我は……」

「大丈夫、分かってるよ」

 聖は慌てふためくレインの頭に手を置いて、優しく獣耳と髪をなぞる様に動かした。
 落ち着きを取り戻したのか、顔に微笑みが浮かぶ。どちらの顔にも。

「やらなくちゃいけない事は分かってる。独も竜輝も。僕が倒さないと、仲間が沢山死ぬ。そんな事は絶対にさせない」

 いつもの聖の顔だった。
 温和でしかし、緊急時には頭で考えるより体が先に動く、そんないつもの明るくて行動的な聖の表情だ。
 顔に決意はみなぎっていたが、根本には変わらない。
 それを表情に表していた。

「なら、いいのだ。……右手は大丈夫なのだ? 怪我とかはしてないのだ?」

「ああ、これくらいでもう怪我はしなくなったよ。それに怪我をしても絵里が治してくれるし……」

「ちょっと聖先輩。治せるからって怪我はしないに越したことはないんですよ! こっちはいつも心配してるんですから!」

「あはは、ごめんごめん。絵里がすぐ治してくれるのに慣れちゃったから、つい……」

 真面目な話は終わり。
 戦闘と戦闘の間の少しの安らぎの時間が始まった。
 その光景は一見、3人の心が平常である様に見せかけた。
 しかし未来から覗いていた俺には、聖が陰で呟いた言葉ははっきり聞こえてしまった。

「あれはもう邪竜のヒトゥリなんだ。地球の、人間の独じゃない。……化け物だ」

 『化け物』。
 自分の心に反響させる様に、小さくしかし力強く唱えられた呪詛。
 その言葉の意味はしっかり伝わったぞ、聖。
 お前はもう、俺を見限ったんだな。
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