ドラゴンリベレーション~夢と自由を追い求めて一人旅に出たら、進化とスキル合成のおかげで世界最強になっていく元社畜の話~

山田康介

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 マリーの言葉を聞き間違えたかと、布袋の中身に向いていた視線を上げてもう一度聞き直そうとするが……。
 その表情で俺の聞き間違えではないと分かった。

「ソリティアさんは貴方が消えた直後にドラゴンが現れたから。勇者レイオンがそう主張していたのだから、前々から疑ってはいたみたいね。そしてセルティミアさんは貴方との戦闘後に、勇者ヒジリと勇者レイオンから直接聞かされたらしいわ」

「待った……なんでそれをマリーが知っているんだ? マリーはずっとこの難民達と一緒にいたはずじゃ?」

「2人から手紙が送られてきたのよ。書いてある事は2人とも大体同じ。『王国、連邦国、皇国にヒトゥリの手配書が出回るまでは時間がある。庇いきる事はできないから、その前に他の国に逃げる様に』って感じね」

 確かにマリーから渡された手紙には、そんな感じの事が書いてある。
 それぞれのニュアンスは違うけどな。
 
 ソリティアは『フィランジェット家の力で、できる限り情報が広がるのを抑えている間に逃げてください。これまでの恩は忘れません』だ。
 対してセルティミアは『貴公とは様々な縁があったが、この裏切りは許せん。友人としての慈悲で今回だけは見逃すが、次会った時は殺す。覚悟しておくがよい』。
 ソリティアはこれからも影から援助して貰えるかもしれないが、セルティミアはもう連絡を取らない方が良さそうだ。
 せめて暴れてる時の俺に理性があったら、ここまで嫌われる事は無かったろうに……。

 ともあれ、バレた物は仕方がない。
 元々王国からはそろそろ離れるつもりだったし、良い機会かもしれない。
 
「うん、まあそうか。それならこれから、王国じゃなくて他の国に行くか」

「随分落ち着いてるわね。貴方にとってかなりの痛手じゃない。あの人達にも立場があるから、これからは個人的な仕事の斡旋や旅の手助けは望めなくなるのよ?」

 ソリティアは王国の貴族そしてセルティミアは騎士団長。
 ただドラゴンであるという事実だけならば、ドラゴンを国の守護者として崇める風潮のある王国なので、まだこれまでの関係は保てたかもしれない。
 しかし、俺は王国と対皇国の同盟を結んでいる連邦国の兵士を大量に殺してしまっている。
 三国の国境で暴れた俺は王国、連邦国、皇国から普通のドラゴンではなく、害を為す邪竜としての認定を受けている事だろう。

「そうだとしても、俺はそもそも地球に戻る方法を探す為に東へ行くつもりだったからな。ここ西の文化圏での情報は聖が集めているだろうし……。心残りがあるとすれば、マリーの探しているドラゴンを探せてないって事なんだが」

「フラウロス……」

 マリーの旧友、そして俺と同種であり、なおかつ『欲望の繭』を持っていた存在。
 彼女がどこにいるのか、何をしているのか、俺達はまだ何の手掛かりも手に入れられていない。
 マリーは休みの日に時間を見つけてはドラゴンに関する文献を読み漁っていたようだが、それでもフラウロスの名前はどこにも見つけられなかった。
 帝国が滅んだあと、彼女がどこに行ったかさえ分からない今、東に行って彼女の痕跡があるかは……。

「今フラウロスと言ったか?」

「えっ、知ってるのかフェイ……じゃない、ミュウか」

 振り返ったそこには立っていたのはフェイの体を借りたミュウだった。

「あ、貴女知ってるの? フラウの事! だったら教えて、あの娘は今どこにいるの?」

「これでも長年生きておるのでな。如何に極北の大地に引きこもっていたとはいえ、あれだけ大きな事件は嫌でも耳に入る。汝が聞きたいのは大虐殺を引き起こした邪竜フラウロスの事じゃろう? しかし、妾も詳しく知っているわけではない――」

「ちょ、ちょっと待って! 邪竜って……それは本当に私の知ってるフラウなの?」

 マリーがミュウの言葉を遮る。
 マリーの中に存在している記憶の中のフラウロスは、きっと邪竜とは程遠い優しいドラゴンだった。
 それはダンジョンになっていたマリーの研究施設の真上に建てられた、石碑による書置きを見た俺も同じだ。
 あの文には友人への想いが溢れていた。
 少なくとも彼女は無差別に大虐殺するようなドラゴンじゃない。

「……『欲望の繭』か」

 あれさえなければ。

「そうじゃ。『欲望の繭』が羽化した者は【よこしま】に進化する。たとえマリーがフラウロスと旧友だったとしても、もはや別物に成り代わっている事じゃろう」

「でも俺は元に戻ったぞ、フラウロスも元に戻ってるんじゃないのか?」

「汝は特例じゃ。おそらく勇者に受けた砲撃に何か特殊な効果でもあったんじゃろ。兎に角、旧友だからと言って油断はせん事じゃ。邪竜は基本的に全生命の敵じゃからな。それでも会いたいのならオーラに聞け。あいつなら自分の娘の場所ぐらい知っとるからな」

 そう締めくくり、ミュウはフェイに体を返した。
 マリーは何も言わずに、黙り込んでいる。
 
 邪竜となり全生命の敵と言われるフラウロスに、マリーを会わせて良いのだろうか。
 これでも親友と道を違える辛さは分かっているつもりだ。
 そんな辛さを味わせるのなら、会わない方がマリーにとって幸せなのかもしれない。
 あるいは、マリーがフラウロスに同調してしまった時は……。
 俺はマリーと敵対する事になる。
 
 俺も邪竜として虐殺してしまった身だが、だからこそこれ以上誰かの人生を壊したくはない。
 ……ここで考えても無意味か。
 いざとなればマリーに聞けばいい。
 どうするのか、と。
 それが仲間という関係なのだろう。
 おそらく。

「あれ? そういえばミュウもエクシードスキルを持ってるッスよね? それじゃあミュウも『欲望の繭』を羽化させて進化したんスか?」

「……さあ? どうだったかの。妾には古い記憶がない故に、昔の事を聞かれてもな」

「あー! またミュウはそうやって自分の過去を隠すッスね。秘密のある女は美しいとか言ったって、秘密があり過ぎるとただ怪しいだけッスよ!」

「いや本当に記憶がないだけじゃよ」

 これからこの4人で旅をするのか……騒がしくなりそうだな。
 主にフェイのせいで。
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