星夜に種を〜聖母になっちゃったOL、花の楽園でお花を咲かせる!〜

はーこ

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本編

*51* わっしょい!

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 いやぁ、盛り上がってますねぇ。
 月に1度開催される、女の子による女の子のためのブラッディフェスティバル(やさしい表現)にも引けを取らない大盛り上がりっぷりだ。

「……わっしょぉい……」

 オーナメントを飲み込んでから、尋常でない悪寒と吐き気に襲われた。

 すかさず額に手を当ててきたイザナくんが「わーお」と声を上げて、オリーヴにネモちゃん、リアンさん、そしてジュリにヴィオさんと、みんなに何やら指示を出していたのは何となく覚えてる。

「横になってるんだよ」とイザナくんまでも慌ただしく出て行っちゃったものだから、しんと静まり返った部屋にぽつんと残された。

「ビィ、ビビィ~!」

「あ、そこですそこそこ……ベストポジション……最高です、わらびパイセン……」

 撃沈したベッドで、毛布で何重にも巻かれたみのむし状態。
 これには天井を見上げて薄ら笑うしかないあたしを心配したわらびが、やってくれました。
 ちょこんとおでこに乗って、冷えピタの役目を買って出てくれたわけなんです。なんていいこ……

 お昼寝は大好きだけど、ベッドから1歩も出られないとなると話が違ってくるといいますか。
 まだ昼? それとももう夜? やたら日光がまぶしく思えてカーテンを閉め切ってもらったから、時間の経過がわかりやしない。

 そもそも出すほど食べ物がお腹に入っていない身体で、度重なる嘔吐は辛いってもんじゃなかった。
 視界が白く霞むくらいぐったりしているのが、自分でもわかる。つわりってこんなに即効性があるものなのか。

 何度もうがいはしてるはずなんだけど、口内から消えない酸っぱさに、行くところまでコテンパンに叩きのめされた気分だ。
 そんなあたしを映す、揺らめくこがねの瞳がある。

「……酷く、己が無力に思えます。いえ……実際にそうなのでしょう」

「ゼノ……」

「イザナ様のように薬草や医学の知識がなければ、ジュリ様やヴィオ様のようにマザーを支える立場でもない。剣を握ることしか能のない私は……あまりに無力です」

 ベッド脇に跪き、それこそかじりつくようにあたしの手を握った青年が、こんなにも悲痛な感情をあらわにするのは珍しい。

「……貴女の苦しみを、肩代わりできたらいいのに」

 あたしの苦しむ様子を見たくない。それはドールとして、騎士として、純粋な想いから来るものなんだろう。
 あたし以上に泣き出しそうなゼノを目にしたら、おかしくなっちゃった。

「あげないよ……これは、あたしのだもん」

 丸みを帯びたこがねは、その意味を理解しきれていないんだろう。
 追い討ちのごとく手を伸ばすと、案外簡単に頬へふれることができた。
 こうやって、いつもそばにいてくれてるんだよね、ゼノは。

「こどもを生むっていうのは……すごく辛いし、苦しいし、痛いことなの。あたしがいた世界でもそうだった……だから、今更なんだよ。わかってて、この選択をしたの」

 ごめんね。苦しみを分かち合いたい、肩代わりしたいって願いには、応えてあげられない。

「この子はあたしのこどもなの。命を懸けても、あたしが生まなきゃいけないんだ」

 ゼノは剣しか使えないって言うけどさ、あたしは剣も使えないよ。魔法もサッパリ。
 そんなあたしでもできること──あたしにしかできないことがあるなら。

「特別なことは何もしなくていい。そばにいて、あたしを見ていて」

 ──あたしが、母親でいる姿を。

 そっと紡いだ言葉は、静寂に溶けて消えた。
 これが、今のあたしが張れる精一杯の見栄。

 持ち上げるのが億劫になってきた右手を薄く笑って引っ込めようとすれば、ぐっと手首をつかまれた。
 はたと呼吸を止めた一瞬のうちに、追いすがるように絡められる指。
 物憂げにまつげを伏せた青年は、ごく自然に絡めた指を引き寄せ、唇をふれあわせる。

「お言葉ですが、その命には従いかねます」

 くすぐるように指先にキスを落としたゼノが、顔を上げる。

「そばで見つめるだけで、いいんですか」

「ゼノ……」

 夢中で名前を呼ぶ。今度はあたしが呆ける番だった。
 だってわからない。跪いていたゼノが腰を上げた意味も。
 ギシリと軋んだベッドのスプリングに、顔の両側でシーツに沈められた手のひら──あたしに覆い被さってきた彼が、何をしようとしているのかも。

「ただ見つめているだなんて、私は嫌です。……抱きしめるくらい、させてください」

 ……わかることが、あるとすれば。
 見たことないくらい熱っぽいまなざしのゼノに見下ろされていて。
 遅れてボッと発火したみたいに顔が熱くなって。
 それにびっくりしたわらびが、「ビヨンッ!?」と飛び上がった末に、空中で姿を消したことだ。

「……え、ちょ、わらびどこに……ゼノ、どうしたの、ゼノ……っ!?」

 せわしなく手足をバタつかせて、巻きついていた毛布を跳ねのける。
 突如見舞った熱のせいで、さっきまでの悪寒もふっ飛んだ。

 たまに添い寝とかおねだりしてきても、大きな猫が甘えてきたな、くらいにしか思っていなかった。
 けど、今は微塵もそんなシチュエーションじゃなかったよね。
 なんかこれ、ベッド上で睦み合ってる男女みたいな構図なんですが……いやある意味間違いではないですけどね!?
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