御刀さまと花婿たち

はーこ

文字の大きさ
7 / 29
第一章

*6* 莇

しおりを挟む
 雲行きがあやしい。
 瘴気しょうきは、北東からただよってくる。

うしとらの方角か」
「えぇ、鬼門きもんにあたります。あやかしたちの出入り口ですね」
「見事に人っ子ひとり歩いていないな。すばらしい危機管理能力だことだ」
「──『逢魔おうまの鐘』です」

 暗雲の立ちこめる町並みを、鈴蘭型のガス灯の上から鼓御前と葵葉が一望していたときだった。
 姉弟がいっせいにふり返ると、そこには人影がひとつ。
 浅葱あさぎ差袴さしこをはき、白衣びゃくえをまとった少年が、鼓御前らと同様に、ガス灯の上でたたずんでいた。

三度みたび打ち鳴らされる鐘は、〝ヤスミ〟の出現を知らせる警鐘なのです。この鐘の音がきこえたなら、島民はただちに屋内へ避難し、戸締まりをおこなう取り決めとなっております」

 年のころは葵葉とおなじ、十五、六歳ほどだろうか。生真面目そうな少年だ。
 す……と葵葉が常磐色の瞳を細める。誰何すいかのまなざしを受け、少年は深々と頭を垂れた。

「お初にお目にかかります、鼓御前さま、青葉時雨さま。わたくしは『典薬寮てんやくりょう』より派遣されました、あざみと申します」
「ふぅん。それも、本名じゃないんだろ?」
「神職ゆえ、真名をさらす行為は禁じられております。平にご容赦を」
「まぁ、賢明な判断だな」

 神に真名を明かすことは、命をにぎられることと同義。
 霊力をあつかう者ならば、それは常識として骨の髄まで染み込んでいることだろう。

「失礼ですが、『典薬寮』というのは?」
「〝ヤスミ〟に対抗するため、霊力者によって組織された特殊機関──これに属し、わたくしのように現場で任務をおこなう者は、かんなぎと呼ばれております」
「さしずめ、武装した神職者ってところか。あやかしとどっちが物騒なんだか」

 葵葉がそう揶揄やゆするに至ったのは、莇の腰に提げられたひと振りの短刀が起因している。

……付喪神はやどっていない刀のようですね」
「は。御刀さまと契りを交わすことのできる覡は、限られておりますゆえ」
「とはいえ、寄こされたからには、最低限穢れを祓う霊力は持ってるってことだな」

 ともすれば不遜にもきこえかねない言動だ。
 だが莇は葵葉に気を悪くすることなく、流暢に受け答える。

「お目覚めになられて間もなく、お付きの覡もいらっしゃらない御刀さまに申しあげることではないと、重々承知しておりますが……」

 表情を曇らせたのも一瞬のこと。意を決した面持ちの莇が、草履でガス灯を蹴り、鼓御前たちの前へでる。

「ご案内いたします。〝ヤスミ〟が確認されたのは、これより三キロメートル先、兎鞠郵便局でございます」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

亡き姉を演じ初恋の人の妻となった私は、その日、“私”を捨てた

榛乃
恋愛
伯爵家の令嬢・リシェルは、侯爵家のアルベルトに密かに想いを寄せていた。 けれど彼が選んだのはリシェルではなく、双子の姉・オリヴィアだった。 二人は夫婦となり、誰もが羨むような幸福な日々を過ごしていたが――それは五年ももたず、儚く終わりを迎えてしまう。 オリヴィアが心臓の病でこの世を去ったのだ。 その日を堺にアルベルトの心は壊れ、最愛の妻の幻を追い続けるようになる。 そんな彼を守るために。 そして侯爵家の未来と、両親の願いのために。 リシェルは自分を捨て、“姉のふり”をして生きる道を選ぶ。 けれど、どれほど傍にいても、どれほど尽くしても、彼の瞳に映るのはいつだって“オリヴィア”だった。 その現実が、彼女の心を静かに蝕んでゆく。 遂に限界を越えたリシェルは、自ら命を絶つことに決める。 短剣を手に、過去を振り返るリシェル。 そしていよいよ切っ先を突き刺そうとした、その瞬間――。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

処理中です...