【完結】星夜に種を

はーこ

文字の大きさ
29 / 40
本編

*25* 星の羅針盤

しおりを挟む
 黄緑の光の粒子が身体に降り注ぐ。
 蛍とじゃれているような不思議と心地よい感覚の直後に、異変は顕著となる。

「あれっ、なにこれ、身体が軽いっ!?」

 中の下の下くらいの運動神経を持つあたしだ。
 一度くらい、風になりたいよ……と、運動会や体育祭の時期に枕を濡らすこともあったさ。

 だからって全然息苦しくもなく、流れるように景色が過ぎていくこの感覚は、あたしの願望が生み出した幻覚ではないと信じたい。
 タネ明かしは、鮮やかなオレンジの髪を風になびかせる、オリーヴが。

「ヴィオの風魔法よ」

「魔法も使えるんですか!? ヴィオさん!」

「これでも魔導騎士ですので。ただ、よくて中級、身体強化の補助魔法が扱える程度です。リアンほどではありませんよ」

「いやいや充分ですって!」

 昨日は魔法を使わず、モンスターを一掃していた。
 つまり、素であんだけ戦闘能力の高いヴィオさんが身体強化されてみなさい。それただのチートだから。
 しかもこれ、しれっと他人にも付与してるんだもんなぁ。

「マナに働きかけて抑制作用をもたらす催眠魔法とは違い、私の補助魔法は、肉体そのものを強化します。他者に使用しても拒絶反応は起きませんので、ご安心ください、マイ・レディー」

 ほらね、チートじゃん。

「読んで字のごとく、追い風ってやつですね! 長年の夢が叶いました、ありがとうございます、ヴィオさん!」

「お役に立てたなら、何よりです?」

 すごい、今のあたしなら、陸上の世界記録保持者にも余裕で勝てるよ。はぁあ~、走るのって楽しいんだなぁ!
 なんだなんだ、一応ピンチだってのに、全然怖くないぞ。
 無敵だな。すごいのはあたしじゃないけど!

「あとなんか知らんけど、ゼノが阿修羅のごとくモンスター狩っとる。ついさっきまでそんなんじゃなかったのに、どうして急に阿修羅に?」

「……不公平と、思いまして」

「主語と述語のセットでお願いします」

「私は、セリ様が、不公平だと、思います」

「サイドメニューに、修飾語はありますか!」

 詳細を求めたら、余計に混乱を極めただけだった。
 あたしが不公平って何? どういうことなの、ゼノさん!
 という旨を訴えてみたけど、意味深なカミングアウトをしたっきり、ゼノは黙り込む。 

 ヒギィ! 

 代わりに、ちょうど目の前にいたがためにぶった斬られたブタコウモリたちの潰れた悲鳴が響き渡る。
 うん、2匹まとめて……?

「従順な犬の皮をかぶった、とんだ暴れ馬だな。森を抜ける前に力尽きても知らんぞ」

「ご心配なく。私にはセリ様がいますので」

「ほう……当てつけのつもりか、絡繰風情が」

「人形は、可愛がってもらうものですので」

「抜かせ……!」

「ヒギィッ!」

「ギャンッ!」

「わー、ふたりとも絶好調だねぇ」

 めちゃくちゃ俊足で行ってしまったので、ゼノとヴィオさんが何を話しているのかは、よく聞こえない。
 ただ、凄まじい勢いで周囲のモンスターが倒されているのはたしか。息の合った連携プレーだ。
 仲良くなれたんだね、ふたりとも!

「もうヴィオったら、はしゃぎすぎよ」

「オレたちを引き立て役にしないで、ゼノー」

 普段はクールで知的なゼノやヴィオさんも、いざ闘いとなるとアツくなりやすいらしい。
 騎士組が物理的に道を切り開き、魔術師組が死角からのモンスターを迎撃、援護する。

 そんな2組にサンドされて、森を駆け抜けるオリーヴとあたし。
 ヴィオさんの補助魔法もあって、しばらく走り続けていても、全然疲れないんだけど……

「浮かない顔だね、オリーヴ。ヒールだったよね、足痛いとか? 大丈夫?」

「ありがとう。足は平気。ただ……嫌な気配がするの」

「たしかに妙だよね。抜けるどころか、クサくなってきた。あ、ゼノ、ヴィオさん、足元と頭上注意」

 先頭を駆けていたふたりが、ジュリの言葉で弾かれたように反応する。

「そこか!」

「させません」

 きっさきを地面に突き立てるヴィオさん。
 剣を振り上げ、虚空を薙ぐゼノ。

「……ギシャアアア!!」

「うそっ……あれもモンスターだったの!?」

 目を疑った。ちょっと太い木の根だとか、少し垂れ下がった枝だな程度にしか思っていなかったモノは、木の姿をしたモンスターだったのだ。

 枝の腕を削ぎ落とされ、根の身体を貫かれたソレは、幹にぽっかりと開いた空洞のような目と口を浮かび上がらせ、断末魔を響かせた。
 と、うねる枝と枝が絡みつき、鋭利な先端を形成。あたしたち目がけ猛スピードで迫る。

 片っ端から斬り落とすゼノとヴィオさんだけど、その度に枝は再生し、四方八方から襲い来る。

「ちっ……小癪な」

「退いて、ヴィオ!」

「──!」

 とっさに横へ跳躍したヴィオさんのいた軌道を、突風が吹き抜ける。

「あれは……鷲? いや、ライオン!?」

 鋭い嘴に、枯れ葉の翼。
 樹皮の前足で猛然と地を蹴り、象をも凌ぐ巨体で木のモンスターに突進するそれは、上半身が鷲で、下半身はライオンの姿をした、モンスターならざるもの。

「グリフォン・ゴーレムです。実物には劣りますが、時間稼ぎなら充分に任せられます。ヴィオ、相手にするだけ無駄よ。迂回しましょう」

「了解した。ジュリ様、魔力探知をお願いできますか。後方は私とリアンが守ります」

 先ほどいち早くモンスターの気配を察知したことで、この場における一番の適任だとヴィオさんは判断したんだろう。

「オーケー、任せて」

 軍服を翻したヴィオさんがあたしたちの後ろへつく代わりに、ジュリが先頭へ立ち、同じような緑が続く森の中を駆ける。

「瞬く星たちよ、オレたちの道標を繋いで──『インターステラ・コンパス』」

 まばゆい光の羅針盤が、地面に浮かび上がる。
 針の代わりに、中心に立つジュリの足元からひと筋の輝く光が伸び、進むべき道を示した。

「あっちだね。みんな、ついてきて」

 ジュリの後に、ゼノ、あたし、オリーヴ、リアンさん、そしてヴィオさんが続く。

 この森に入ってからどのくらい経ったのか、もうわからない。たしかなのは、昨日ほど簡単には行かない、ということ。
 しばらく走ったところで、嘆息が聞こえた。

「うーん……」

「どうしたの、ジュリ」

「昨日リアンさんがさ、薔薇を目印に、出口までの道筋を残してくれてたでしょ? あれを辿ればもしかしたらって思ったけど、なくなってるんだよね」

「なくなってる……?」

「魔力のざんはある。ここは、昨日母さんやオレたちが通った道だ。でも掻き消されてる──ううん、厳密には、付け足されてる」

「付け足されてるって、どういう……」

「デタラメに紡ぎ、繋ぎ合わされた異空間。つまり、それこそ木のように成長する迷路に閉じ込められたってこと」

「そんな……! あたしたちを、どうするつもりなの!?」

「さてね。そういうのは、本人に訊いたほうがいいんじゃない?」

 ジュリの言葉を、すぐには理解できない。
 訊く? 何を? 誰に?
 あたしの混乱をよそに、ちらりとこっちを振り返るジュリ。

「ね、なんでオレたちをここへ連れて来たの? ──わらび」

 オニキスの瞳に捉えられたスライムは、このときあたしの肩の上で、何を思っていたのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...