あとのまつり

キャンドゥ

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長い夜の話

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 大粒の冷たい雨の中で僕は仏像のようにほとんど動かず突っ立っていた。
通り過ぎる人たちは、傘もささず全身ずぶ濡れの男を、一瞬見向きはするが、何も無かったかのように自分たちの道を歩いた。僕には誰もいない。冷たい雨がより深い孤独を感じさせた。でもさっきまで彼女と繋いでいた手だけはまだあたたかった。僕の道はまだ途絶えていない。
 彼女はとてもいい彼女だった。僕が疲れたと言ったら、「お疲れ様」と少し笑いながら僕の肩を揉んでくれた。僕が少しでも嫌悪感を示したものを察して、僕から離してくれた。一緒にいる時はいつも気分の高低差が激しい僕を、いつも変わらない笑顔で包み込んでくれた。美人でスタイルもいい。
僕が機嫌がいいと判断した時は甘えてきて、僕がどんなことをしても優しく受け入れてくれた。
僕は女性経験がなかった。その事を彼女に謝ると、「そこも魅力のひとつ」と微笑んで言ってくれた。
僕はそんな彼女を大切にしようと思った。すごく平凡な考え方なのかもしれないけど、恥ずかしがらず彼女を傷つけないようにしようと思った。そう思うことで自分も彼女をも傷つけることになるとは知らずに。
ある夜、僕はお酒を飲んだ帰りで、いつもよりテンションが高かった。そんな僕に彼女はいつも以上に甘えてくれた。僕は僕を抑えられなくなった。
彼女が触るすべての所が熱くなっている気がした。
僕は彼女を抱きしめた。彼女は優しく僕の手に腰を回してくれた。僕は彼女の肩を持ってゆっくりと彼女の顔を僕の肩から離し、ゆっくりとキスをした。
それが僕たちの初めてのキスだった。
でも、僕はそれで止まらなかった。何か枷がはずれたかのように、僕の舌を彼女の口の中に入れた。
彼女は少し驚いたが、彼女も同じように僕と舌を絡めあった。僕の理性はすでに死んでいた。僕は手を彼女の胸へと向けた。彼女はまた少し驚いて、でも熱いキスを続けた。僕は彼女のニットの中に手を滑らせた。初めて触れる彼女の部分は温かくて、想像してたよりも柔らかかった。興奮してる中でもこんなに冷静なことを考えるのかと自分を笑いたくなった。僕の手はゆっくりと胸を揉みながら、彼女の身体を沿ってズボンの中へと入っていった。指がよく入る場所を見つけた。ここが彼女と僕を繋げる場所だと分かった。そこに僕を入れた。
彼女の中はとてもあたたかった。心まで満たしてくれた。僕は不自然な形で腰を揺らし、彼女の中で果てた。彼女は僕の頭を撫でてくれた。
でも彼女の僕への熱は、この日から冷めていった。
僕が何を言っても簡単な返事しかせず、たまに返さなくなることも多くなった。僕が機嫌がいい日も前みたいにあまえてくれることもなくなった。僕から甘く絡もうとすると、少し嫌な顔をして寝室に逃げた。
僕は彼女にとって子供のような存在だったのかもしれない。無知な僕は彼女にとって興味の対象で、僕の知識が増えるごとに彼女の僕への興味はすり減っていたのかもしれない。
 そこからの僕は客観的にみてイタかった。彼女の気を引くために無知なフリをして彼女に挑んだりした。結果は惨敗だった。彼女はもう僕を好きではないのかもしれない。そんな不安も遮ったが、すぐに消して彼女が元に戻る方法を思案した。
 彼女は何かと理由をつけて外出することが多くなった。彼女は浮気をしているのかもしれない。というかほぼ確実にしているだろう。彼女は素直で隠すのが下手だったから。鈍感な僕にもそれは分かった。それでも僕は彼女の事が好きだった。彼女が僕に振り向くなら、彼女が何をしようと関係なかった。もうこの時点で恋だの愛だのは壊れていたのかもしれない。 
 雨足はより強くなって、僕の横を通る人の数もまばらになった。
「寒っ」
僕がこの場で立ちすくんでから初めて発した言葉だった。風邪で遠くに飛ばされた傘を取って、傘をさして一人雨の中帰った。
帰ってお風呂に入ると、ぬるま湯が身体にしみた。
その温かさは僕の目頭も熱くさせた。
我慢したかった。まだ現実として捉えたくなかった。お風呂から上がって、一人寝転んでテレビを見た。彼女がいつも通り「ただいま」と嬉しそうに帰ってくるんではないかとおもっていた。
そのまま時が経って、僕はいつの間にか寝ていた。
 ふと目が覚めた時、横に誰もいなくて、僕は泣いた。自分がこんなに涙脆い人間だとは思ってもいなかった。いつもの当たり前がこんなにも幸せだったことを僕は気づいていなかった。
彼女に会いたい。もう一度僕にチャンスをくれと神に祈ったりもしたが、そんなの来るはずもなく月日だけが過ぎていった。
 僕は沼に足がハマっているような日々を送った。
彼女から別れを切り出されてから何日も経っているのに、前よりもくっきりと別れの言葉が僕の頭に刻まれていた。もう諦めろよという考えととまだ彼女は帰ってくるという考えが頭の中で交錯していた。
明らかに前者が正しいのはわかっていた。分かっていてもなお、僕は諦めたくなかった。
 僕はしばらくサボっていた大学に行くことにした。自分を変えるきっかけが欲しかったのかもしれない。大学に行ったところで知り合いもいない僕は、教室の隅で授業を聞き、そこから公園のテーブルで座って一点を眺めていた。周りの目なんてとうでもよかった。多くのカップルが僕の目の前を通っていった。僕はふと叫びたくなった。走りたくなった。僕は突然ベンチから飛び出して、不格好に走り出そうとした。しかしすぐに転んでしまった。どこまでもダサいんだなと思った。立ち上がりたくもなかった。そのままでいようと思っていると、
「大丈夫ですか?」
と澄んだ声で僕に手を伸ばしてくれる綺麗な女性がいた。彼女の手を取ると僕の手は熱を帯びた。
彼女は僕を心配そうな目で見つめていた。
その目は僕の彼女のと似ていた。
僕は前の彼女の時は僕の色で彼女を染め切れなかったと考えていた。だから、今度はこの女性を僕で染め上げてしまおうと考えた。
僕の目は狂気狂乱の色をして、彼女を鋭くとらえていた。
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