FOXMACHINA

黄昏狐

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第1話 自狐推定

 自分がどうしてそこに倒れていたのか、記憶を辿ってみても原因に思い当たる節はない。

 森の奥でうつ伏せに倒れていたらしい。

 体を起こして立ち上がって、手で服に付いた葉っぱやら土やらを払う。

 払う手を見つめて──驚愕した。

 指の数は4本だけ、各々の指は太めで短い。そして何より、人体でいう手首から先だけが自分の意志に従って宙に浮いていた。手からの触覚はあれど手首から二の腕までの感覚は無く、和服の袖だけのようなものが代わりに追従して動いていた。

 ふと見ると、足も同じように足首より先だけが胴体から離れてそこにあり、やはり太腿から足首に当たる部分が存在しないのだが、自分はしっかりと大地を踏み締めて立っていた。変な浮遊感などはない。

 見下ろしているのは自分の体だというのに、イマイチ実感がない。胸の真ん中に青い宝石のようなものが有ったが、アクセサリーその他とかではなく、胴体に埋まっているようだった。

 頭と胴体は繋がっているので、想像するに浮遊ハンド付きコケシのような状態なのだろうか?



 鏡や水源などの反射率の高い物が近くに無いため全身像がまだわからないが、どうやら自分は人に近い形の人外らしい。

 自分について認識した所で、また意識を周囲に向ける。

 先ほど見た通り、背の高い木々が生い茂る森の深部のようだ。葉に遮られてはいるが、近場は見える程度の光量が降り注いでいる。

「グルルルルルルルル……!」

 背後から獣の威嚇が聞こえたので頭だけを180度回転させ真後ろを見る。先ほど人外だとは認識したが、実際ありえない体の構造をしていると呆れた。人間の首は通常動いても正面から左右に90度くらいなものだろう。

 人型の頭があり得ない方向を向いたものだから、獣だって体をビクッと反応させて驚いている。

10mほど離れた位置に、銀色の毛並みが美しい狼のような生き物がいた。

 頭の向きに合わせて体の向きを変え、狼に正対する。浮遊ハンドその他諸々が体の向きに倣ってふよふよと空中を漂いながら、人間であればそこに来るであろう位置に自動的に移動した。

 狼はその動きを敵対行動と見なしたのか、それともこちらを食い出がある餌として認識したのか、4つ足で駆け出した──。

 自分は人外ではあるが、この狼の攻撃に耐えられるとも思えないと瞬間的に考え、防衛行動に出ることにした。

 ガードするか、それとも攻撃に出るか。その前に自分は何ができるのかわからない。とりあえず、一直線に向かってくるので、右の浮遊ハンドを強く握り、グーパンチを振り抜いてみることにした。

 狼があと3mまで迫ったところで、停止状態から予備動作なしに最高速度で拳を振り抜くと、拳が柔らかい物を貫き、ついでに硬い物を押し出すようにして、反対側へ飛び出した。

 スプラッターよろしく、狼の胸から背中に掛けて大穴が開き、中の臓物と一緒に紫色に輝く石のような物が飛び出すのが見えた。

 石を遠くへ吹っ飛ばす前に握り拳を解いて指を開き、石をキャッチする。

 20mほど高速で飛んだ浮遊ハンドがピタリと動きを止め、逆再生するように器用にぶち抜いた狼の体の穴を通って手元まで戻ってくる。

 臓物をぶちまけたはずなのに、浮遊ハンドの手の甲側は汚れていなかった。くるりと返して手の平を広げると、そこには少し血に汚れた紫の石が確保されていた。

 浮遊ハンドに運動エネルギーを相殺されてその場に足を止めた狼──その体から石が抜かれたことを自覚しながら息絶え、亡骸が力なく崩れ落ちた。

 指先で石を摘んで光に透かすと、わずかに向こう側が透けて見える。ばっちぃのでついでに石を高速で振り払って遠心力で付着していた血をその辺に吹っ飛ばした。

 そのタイミングで、使っていなかった左の浮遊ハンドが地面に落ち、足が縺れたかと思うと胴体も地面に落ちて擱座した。先ほどまでが嘘のように手足が鈍くなっていて動かなかった。

 右の浮遊ハンドは辛うじて先ほどまでと同じ高さで浮いていた。指で摘まんでいる石を見上げ、どうしようかと思索する。

 ゆっくりとだが確実に右の浮遊ハンドの高度が下がって来ている。

 擱座していた胴体が、何かの弾みで仰向けに転がってしまった。後頭部を強打すると思ったが、何かもふもふする塊に頭が沈む。尻尾のようなものだろうか?

 浮遊ハンドが高度を落とし続け、最後には力が入らなくなり、偶然にも石が口の中に落ち込んだ。

 自分は人外なので呼吸しているのか怪しいが、窒息する訳にも行かないので一か八か石を舌で転がして上下の奥歯で挟み、力を込める。

 先ほどの瞬速パンチで砕けなかったのだから咀嚼などできる訳がないと思ったのだが、まるでスナック菓子を食べるようにシャクシャクと嚙み砕けた。虚無の味がするが、とりあえず飲み込んでみる。体がいつもそうしていたと覚えている気がする。

 ゴクリと嚥下する。

 すぐに反応があり、力なく転がっていたボディーパーツが再び自分の意思で動かせるようになった。

 腹筋は無いが、腹筋の要領で手で勢いをつけて起き上がり、足を体の側に寄せて立ち上がる姿勢を意識すると、胴体が地面から浮き上がった。

 再び動かせるようになった浮遊ハンドで付いた土や葉っぱを払い、とりあえず思索する。

 先ほどの紫の石は獣の体内にあり、自分はその石をエネルギー源として活動しているのだ。認めたくないのだが、正しく人外その物の代謝である。その思索が正しいと言わんばかりに、先ほど石を食べてから頗る機嫌が良い。

「……我は人間でありたかった……」

 ふと思った心の声が漏れた。

 たった今気が付いたが胴体を取り巻く浮遊パーツの中にもふもふ尻尾のようなものが2つあった。これ、我のパーツだったんだ???

 予想するに頭頂部に獣耳が有ろうと思うので浮遊ハンドでぺたぺた触ってみる。

 少し尖った獣耳──と、もふもふの尻尾とくれば、「狐」か?
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