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689.ギルド2

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「おい、アル。さっさと何か言えよ。
俺が馬鹿みたいだろ」
ぶすっとした表情でヴェルが声を低くして、
誠一にだけ聞こえる様に言った。
勘違いを正す気にもならずに誠一は話を続けた。

「依頼は完了しました。ご確認を」

震える手で受付嬢は、『氷の雫』を受け取った。
「ギルドの職員により確認いたしますので、暫しお待ちください」

一人の年配の職員が鑑定眼を行使した。
瞬間、その職員は驚愕した。
「こっこれは。ギルドに保管されている雫に比べて、
これほどの高純度とは。
一体、アルフレート殿、如何してこの雫を手に入れました?」

逆に誠一は、どのようにして今まで
雫を手に入れていたか知りたくなった。

気難し気な表情の誠一に代わって、ヴェルが答えた。
「おう、氷竜が涙を流して、それで入手だ。
それとこれからそれを暫く得ることは出来なくなった」

冒険者ギルドに集まった冒険者たちのざわつきが静まった。
ヴェルの言葉に含まれる意味を理解したからだった。
しかし、誰も声を上げて、その事実を確認する者は現れなかった。
ギルドにいる冒険者たちは戦慄していた。氷竜が暫く現れない。

その事実が示すことは唯一つ。

誠一たちパーティが氷竜を屠ったか打倒したかであった。

コツコツと階段を降りてくる足音が静寂の広場に響いた。
「冒険者アルフレート、確かに『氷の雫』をギルドが受け取った。
して氷竜を打倒したというのは嘘か真か?」

 筋骨隆々の初老の男が誠一の前に立った。
そして、猜疑の目を誠一に向けていた。

誠一は臆さずにその男を睨み返した。

「ふん、若いくせにようやる。
しかし、お前を見るに到底、氷竜を打倒したようには思えん」

広間に集まる冒険者たちがざわついた。
ひそひそと話す声が誠一やヴェルの耳にも届いた。
大半は誠一の予想通りの内容であった。
伝説のS級、剣豪鬼谷十四郎、
そしてS級、神剣の担い手マリアンヌ、
この二人が氷竜を打倒したのではないか。
単に二人のおこぼれに与ったのではないか。
冒険者たちが内に持っていた疑惑が初老の男の一言で、
言葉の形として誠一たちに届いた。

誠一は十分に予想していたことであったため、
動揺することなく軽くため息をついた。

「噂には聞いている。
テルトリアでは数多くの魔物を屠り、
終いには上位魔人すら倒したとな」

ヴェルが初老の男を一瞥して、にやりとした。
それは年長者に取る態度ではなかった。
「あんた、ここのギルマスだろ。俺たちを見て、そう評するか!
ちょっと人を見る目を養った方がいいな」

初老の男が黄色く汚れた歯を剥き出して、笑った。
その笑いは微笑みなどというような生易しものでなく、
魔獣の咆哮のようであった。

「小僧、貴様は礼儀を学んだ方がいいようだな」

「小僧じゃねえ。
俺は、魔道槍兵ヴェルナー・エンゲルスだ。覚えておけ」

魔道槍兵、その称号の珍しさにざわつきは更に大きくなった。
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