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760. 南方戦役7
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「わかった。下手に弁解しないのは好感が持てる。
だが忘れるな、アルフレート・フォン・エスターライヒ。
君の決断が人を死に追いやることを」
誠一はマリアンヌの言葉にまたも頷くに留まった。
幾らでも虚飾で飾った空疎な言葉を並べる事ができた。
しかし、誠一はまだ、語るべき言葉が心になかった。
そのためにマリアンヌの話を真摯に受け入れた。
「マリアンヌ殿、その位でいいだろう。
アルフレート君は十分にその責を理解しているさ」
ロジェが横合いから、マリアンヌの追及を遮った。
「ふん、貴様らがいつまでたっても甘やかしているから、
代わりに鍛えてやっているんだ」
「それは、わかったわかった。
ところでサリナ、その惨状を実際に目にしたのか?」
サリナにしては珍しく肩をすくめた。
「ええ、見てきたわ。気持ちの良いものではないわね。
一体、彼らが死んだ後もあれ程の辱めを
受ける程に生前、何をしたの。何もしてないでしょうよ!」
サリナしては珍しく語気を強めた。
キャロリーヌが優しく取り乱したサリナを包んだ。
少しサリナが落ち着いたように誠一には見えた。
「城まで伏兵はいなさそうですね。
これ見よがしに串刺しを見せつけて、動揺を誘うつもりか。
くだらない。本当にくだらない戦術だ。ヴェル、先頭を頼む!」
誠一は話しているうちに次第に声が大きくなってしまった。
「アル、落ち着いて。
怒りは最もだけど、冷静に対処しないと敵の思うつぼよ」
シエンナの指摘に軽く頷くと誠一は進軍を再開した。
先ほどののほほんとした雰囲気から一転、軍には緊張が走っていた。
「ちっ本当に見ていて気分のいいもんじゃねえな」
他の人より視力が格段に良いヴェルには
目の前に広がる残虐な光景が鮮明に映っていた。
上等な服に身に纏う者からごく普通の服を着ている者と
様々であった。
時節、吹く強い風が腕、脚、そして頭部を揺らした。
まるで生きていて、串刺しから逃れようとしているように
誠一たちには映った。
風は腐臭を誠一たちに運んできた。
それは串刺しにされた人々が最早、生きていないことを
誠一たちに悟らせた。
しかし、ひゅーひゅーという風の音が
串刺しにされた人たちの怨嗟や悲鳴に誠一たちには
聞えてしまった。
先日のジェームズ・バロン・デュプレの領地での
出来事と相まって、誠一の怒りは一瞬で噴き上がってしまった。
一瞬、息を呑むと、普段の誠一らしからぬ言葉遣いで罵っていた。
「くそったれ、こんなこと許されていい訳ないだろ!
なんなんだよ、ジェルミラ家の奴らは!あり得ないだろ」
激発した誠一は、右手のメイスに過剰なまでの魔力を込めた。
メイスを空に掲げると凄まじい風の気流を作りだした。
「鋭き風よ、全てを斬り尽くし、世界を切り崩せぇーエアチャージ」
風の気流が誠一を包み込んだ。
「アル、待て!ちょっと待てって」
ヴェルの叫びが誠一を止めた。
「ヴェル、何故、止める」
ヴェルの眼が串刺しにされている人たちを凝視していた。
誠一は一旦、魔術を解いた。
「ヴェル、君の目には何が見ていている」
「ああ、くそたっれ。
今ほどこの目の良さを呪ったことはないな。
アル、この距離で彼らを鑑定できるか?」
誠一はぎょっとした。デュプレの館でのことを思い出した。
誠一は思い当たる節があり、嫌だったが鑑定眼を展開した。
「嘘だろ。嘘に違いない」
誠一は震えた。誠一の脳に浮かび上がるは、生存。
彼らは虫の息だったが、生存していた。
串刺しは致命傷だったが、即死に至らずに
じっくりと刺された人間の生を奪っていた。
だが忘れるな、アルフレート・フォン・エスターライヒ。
君の決断が人を死に追いやることを」
誠一はマリアンヌの言葉にまたも頷くに留まった。
幾らでも虚飾で飾った空疎な言葉を並べる事ができた。
しかし、誠一はまだ、語るべき言葉が心になかった。
そのためにマリアンヌの話を真摯に受け入れた。
「マリアンヌ殿、その位でいいだろう。
アルフレート君は十分にその責を理解しているさ」
ロジェが横合いから、マリアンヌの追及を遮った。
「ふん、貴様らがいつまでたっても甘やかしているから、
代わりに鍛えてやっているんだ」
「それは、わかったわかった。
ところでサリナ、その惨状を実際に目にしたのか?」
サリナにしては珍しく肩をすくめた。
「ええ、見てきたわ。気持ちの良いものではないわね。
一体、彼らが死んだ後もあれ程の辱めを
受ける程に生前、何をしたの。何もしてないでしょうよ!」
サリナしては珍しく語気を強めた。
キャロリーヌが優しく取り乱したサリナを包んだ。
少しサリナが落ち着いたように誠一には見えた。
「城まで伏兵はいなさそうですね。
これ見よがしに串刺しを見せつけて、動揺を誘うつもりか。
くだらない。本当にくだらない戦術だ。ヴェル、先頭を頼む!」
誠一は話しているうちに次第に声が大きくなってしまった。
「アル、落ち着いて。
怒りは最もだけど、冷静に対処しないと敵の思うつぼよ」
シエンナの指摘に軽く頷くと誠一は進軍を再開した。
先ほどののほほんとした雰囲気から一転、軍には緊張が走っていた。
「ちっ本当に見ていて気分のいいもんじゃねえな」
他の人より視力が格段に良いヴェルには
目の前に広がる残虐な光景が鮮明に映っていた。
上等な服に身に纏う者からごく普通の服を着ている者と
様々であった。
時節、吹く強い風が腕、脚、そして頭部を揺らした。
まるで生きていて、串刺しから逃れようとしているように
誠一たちには映った。
風は腐臭を誠一たちに運んできた。
それは串刺しにされた人々が最早、生きていないことを
誠一たちに悟らせた。
しかし、ひゅーひゅーという風の音が
串刺しにされた人たちの怨嗟や悲鳴に誠一たちには
聞えてしまった。
先日のジェームズ・バロン・デュプレの領地での
出来事と相まって、誠一の怒りは一瞬で噴き上がってしまった。
一瞬、息を呑むと、普段の誠一らしからぬ言葉遣いで罵っていた。
「くそったれ、こんなこと許されていい訳ないだろ!
なんなんだよ、ジェルミラ家の奴らは!あり得ないだろ」
激発した誠一は、右手のメイスに過剰なまでの魔力を込めた。
メイスを空に掲げると凄まじい風の気流を作りだした。
「鋭き風よ、全てを斬り尽くし、世界を切り崩せぇーエアチャージ」
風の気流が誠一を包み込んだ。
「アル、待て!ちょっと待てって」
ヴェルの叫びが誠一を止めた。
「ヴェル、何故、止める」
ヴェルの眼が串刺しにされている人たちを凝視していた。
誠一は一旦、魔術を解いた。
「ヴェル、君の目には何が見ていている」
「ああ、くそたっれ。
今ほどこの目の良さを呪ったことはないな。
アル、この距離で彼らを鑑定できるか?」
誠一はぎょっとした。デュプレの館でのことを思い出した。
誠一は思い当たる節があり、嫌だったが鑑定眼を展開した。
「嘘だろ。嘘に違いない」
誠一は震えた。誠一の脳に浮かび上がるは、生存。
彼らは虫の息だったが、生存していた。
串刺しは致命傷だったが、即死に至らずに
じっくりと刺された人間の生を奪っていた。
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