上意討ち人十兵衛

工藤かずや

文字の大きさ
8 / 10

八 大手門武者溜まりの死闘

しおりを挟む
目付御用部屋から裏廊下を通り、お台所裏へ出る。
すでに神谷の一声で城内は厳戒態勢が敷かれている。
御作事番方の部屋が並ぶ前を抜け、
遠侍の間を過ぎる。

誰一人奥坊主とも侍とも出会わない。
城内は異様な静けさに包まれている。
十兵衛を見つけ次第斬れ!

断じて外へ出すでない!と言う神谷の厳命が出ているのだ。
御玄関横の通用口から外へ出る。
これから向かう大手門、冠木門の武者溜りが多分主戦場だ。

神谷は手練れの武士たちをここに集結させ、
十兵衛の出るのを一気に阻止しようとしている。
姑息な手を使って奥女中たちが使う吉橋門から
出るつもりは、十兵衛に毛頭なかった。

警護の武士たちの死人の山を築いても
大手門から出てやる。
最初からその覚悟だった。

大手門を出ると冠木門は硬く閉じられ
襷掛け袴の股立ちを取った
十数名の屈強な武士たちが十兵衛を待ち受けていた。

ここが自由へ出る戦いの場である。
十兵衛は無言で武士たちの正面へ向かって歩いた。
武士たちが散り、十兵衛を囲む態勢を取る。

見届け人の報告で十兵衛の手の内は、
すでに知られていると見た。

だが、父の遺言である後の先を変える
つもりはまったくない。
手向かってこないやつには刃を向けない。
受けて斬る後の先なら体力を温存できる。

武士たちは見事なまでに統率が取れていた。
立ちはだかる第一陣が一斉に抜刀した。
第二陣はその背後に構えを取って控えている。

まるで戦場の臨戦態勢だ。
十兵衛は躊躇することなく、
あくまで一直線に冠木門を目指した。

本間道場では竹刀ながら
門弟相手に二十人抜きをやっている。
父の教えを守れば真剣の十人相手でも
今の十兵衛は怯まない。

敵が攻めさえくれば勝てる。
後の先だ!こちらからは行かない。
先頭の二人が同時に斬り掛かって来た。

抜き打ちで一人を仕留め、
胴抜きで二人目も斬った。
それを合図のように乱戦になった。

左右前後から敵が斬りかかる。
止まってはならなかった。
前へ前へ移動しながら、
毛筋ほどの隙でも、斬れる相手は容赦無く斬った。

いつの間にか、第二陣を抜けていた。
素早く冠木門を背にする。
乱戦では思わぬ手傷を負う。

刀を構えて全身を意識したが、
傷を負っている気配はない。
左右から同時にいきなり来た。

右を斬り左を斬撃する。
正面から槍が繰り出された。
紙一重でかわし、相手の首へ一刀を放つ。

噴出する返り血をかわして移動する。
まだ十名近く残っている。
整然と間合いを詰めて来る。

こんな精鋭が、城のどこにいたのかと思う。
目付神谷の配下だ。
では、なぜこれらを上意討ち人に使わぬのか。

答えは明確、上意討ち人は捨て駒だからだ。
番方の精鋭こそが、
いざという時に表に立つ藩の切り札である。

この戦いは捨て駒上意討ち人対精鋭番方の
戦いなのだ。
そう気が付いて十兵衛は改めて、
取り囲む武士たちを見た。

なるほど、上級武士の者たちばかりだ。
なれば容赦は要らない!
遠慮無用で斬らせてもらう。

正眼につけた剣を斜めに上げ
誘いの隙を見せた。
鋭い気合いとともに、斬り手が殺到して来た。

柄を持つ両手の握りを密着し、
縦横に剣を振るった。
もう剣を合わせざるを得なかった。

鎬で相手の剣を弾き、一刀で倒して行く。
気が付いたら体中返り血を浴び、
冠木門を背に立っていた。

敵はすでに四名になっている。
何か合図があったのか、
突然、全員刀を引いた。

これ以上攻めたら、
皆殺しになるのがわかったのだ。
十兵衛は刀を手にしたまま、
左手で冠木門の閂を外して、外へ出た。

四人は追って来なかった。
次の襲撃は国境か!
十兵衛は古着屋を見つけて着物を着替えた。

ついでに台所で顔を洗わせてもらった。
返り血でとても町を歩ける状態ではなかった。
古着屋に有り金すべてを置き、
妙を追って十兵衛は川越を目指した。

もし、すでに居なければ信州上田へ向かうつもりだ。
どうしても、妙と祝言を挙げるのだ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

 神典日月神示 真実の物語

蔵屋
歴史・時代
私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。 この方たちのお名前は 大本開祖•出口なお(でぐちなお)、 神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。 この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。 昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。 その書物を纏めた書類です。 この書類は神国日本の未来の預言書なのだ。 私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。 日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。 殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。 本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。 日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。 そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。 なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。 縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。 日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。 この小説は真実の物語です。 「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」 どうぞ、お楽しみ下さい。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』

処理中です...