上意討ち人十兵衛

工藤かずや

文字の大きさ
10 / 10

十 祝言

しおりを挟む
三日が過ぎた。
十兵衛は街道に面した旅籠「上州屋」に泊まっていた。
昼間は出歩くでもなく、二階の部屋の出窓から
街道を眺めている。

今にも妙と松江がやって来るような気がしたからだ。
三日目の早朝、街道の彼方に二人が見えた。
だが、十兵衛は動かなかった。

やはり!
二人には一町ほど離れて尾行が付いていた。
羽織袴姿の武士三人だ。

神谷の配下だ。
十兵衛は立ち上がって刀をつかんだ。
始末しなければならない。
妙は気がついていない。

旅籠の女中に裏口を聞き、そこから外へ出た。
路地を選んで、三人の後方へ出るように回り込む。
街道へ出ると、前方に三人の姿が見えた。

十兵衛は足を早めて三人に追いついた。
背後から声をかけた。
「お主たち、探しているのは俺であろう」

三人はギクリとして振り向き、
二、三歩退がって刀の柄に手をかけた。
「おっと、昼日中街道で刃物沙汰はまずい!
すぐに町方が飛んで来る」

「逃げるのか!」
三人の一人か叫ぶ。
「そうではない。望み通り立ち会ってやる」

十兵衛は背を向けて歩き出した。
「貴公らも場所を選べ!藩に迷惑がかかる」
顔を見合わせてその後について行く。

陵厳寺と言う寺の前へ来る。
境内へ行って行く十兵衛。
「寺の境内で斬り合いとは、
罰当たりだがこの際仏には目をつむってもらおう」

十兵衛を先頭に三人が参道を行く。
三人が苛立って刀の鯉口を切ろうとする。
「おっと、やめときな!寺は寺社奉行の支配だ。
煩い奴らがすっ飛んで来る」

舌打ちして鍔元から手を離す三人。
本堂裏へ移動し、十兵衛が広場で立ち止まると
三人は戦闘態勢で広がる。

一対三で対峙する四人。
「問答無用、狙いは俺を斬ることだ」
三人が一斉に抜刀する。

十兵衛は抜かない。
「ここで殺生は気が進まぬが、
売られた喧嘩は買う。参られよ!」

声が終わらぬうちに、
左右の二人が同時に斬りかかって来る。
十兵衛、動きが早い。

抜き打ちで、右の敵の出小手を斬り上げ
返す刀で左を斬り下げる。
右の男の右手が両断され、
柄を握ったままぶら下つている。

深手を負った二人は退がる。
残る一人がつぶやく。
「なるほど、やるな!」

刀を正眼に構える。
十兵衛も相正眼で迎える。
そのまま四半刻も動かない二人。

十兵衛が言う。
「どうされた。俺を斬りに来たのではないのか」
相手は左半身を見せ、ゆっくり脇構えに構えを移す。

一刀必殺の態勢である。
十兵衛、剣尖を上げ斜め正眼になる。
その瞬間を逃さず、
電光石火、相手の剣が十兵衛の首へ走る。

待っていたように、低い姿勢から斬り上げる十兵衛。
相手の狙った位置に、すでに十兵衛の姿はない。
十兵衛、得意の左逆袈裟で相手を斬り上げ、
さらに抜き胴で背後へ抜ける。

ゆっくりと崩れる相手。
十兵衛、残心体から刀身を血振りして振り向く。

素早くら納刀して境内を出る。
街道を行く妙と松江に追いつく。
妙、驚く。

「どこにおられたのですか」
「そこの上州屋に宿を取っていたが、
うるさい邪魔者を始末して来た」

妙、松江に二十両を渡す。
「これで十兵衛様の宿賃を支払い
あとはお前にあげます」

松江、絶句する。
「な、なぜ!」
「ここでお前と分かれます。
もう侍女を持つ身分ではありません。
長い間、仕えてくれて礼を申します」

呆然と立ちすくむ松江を後に
道を歩き出す十兵衛と妙。
松江、二人に頭を下げ
姿が見えなくなるまで見送る。

歩きながら十兵衛がつぶやく。
「上田へ着いたら、
二人だけの祝言を挙げよう」

妙、うなづく。
「あなたも私も父を失い、天涯孤独の身の上。
家族ができるのが嬉しゅうございます」

午下りの街道を行く二人。


                                           完
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

小日本帝国

ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。 大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく… 戦線拡大が甚だしいですが、何卒!

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

 神典日月神示 真実の物語

蔵屋
歴史・時代
私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。 この方たちのお名前は 大本開祖•出口なお(でぐちなお)、 神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。 この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。 昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。 その書物を纏めた書類です。 この書類は神国日本の未来の預言書なのだ。 私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。 日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。 殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。 本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。 日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。 そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。 なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。 縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。 日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。 この小説は真実の物語です。 「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」 どうぞ、お楽しみ下さい。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』

処理中です...