悪魔の微笑み

工藤かずや

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21 引き返せない戦い

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上重が戻るまで、真波は起きていようと思った。
どうしても話したいことがある!
自分が、今まで目をつむって逃げてきたことだ。

見えるのに見えないふりをして来たのだ。
でも、今の自分には殺人者の目の光だけでなく、
犯行に使った凶器まで見ることができる。

警察は証拠主義だ。
たとえ殺人犯と教えても、
その証拠がなければ何も出来ない。

いや、しないのだ!
捜査の人数と時間さえかければ、
必ずそれは見つけられるはずだ!

たとえどんな事情があっても、
人を殺した人間に罪を償わせず
野放しにしてはならない。

殺人者もも心の中で詫びるだけでなく、
社会に殺人者としてその身を晒し
亡くなった被害者に詫びるべきだ。

白貴と一緒にいた数日間で、
真波はそう思うようになった。
殺人者に罪を償う責任があるように、
それを知った自分にも、
社会に告発する責任があるのではないか。

そんな目を持って生まれた自分の不幸だ。
人の気配を感じて振り向くと、
上重がドアの前に立っていた。

「何か決心したのか」
彼はそう真奈美に言った。
「だから戻って来たんだろう」

上重は優しかった。
「聞いてもらえる?」
「もちろんだ!」

彼は真奈美の学習机の椅子にかけた。
「FBIはいない。明日の朝までかかっても、
話を聞く」

「また、パパの捜査についていきたい」
「堺の代わりに、本庁の相棒が一緒だ。
それでもいいのか」

「全然かまわない!
彼が断ると言っても
私はついて行く」

上重は苦笑いした。
「話したいことがあるんだろう。
言ってみろ!」

始めて上重が真奈美に見せる表情だった。
覚悟を決めて考えていた全てを、
彼にぶつけようと真奈美は決心した。

これから引き返せない戦いが始まる!




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