悪魔の微笑み

工藤かずや

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23 取り調べ室

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本署へ向かう車の中で、
上重はアドバイスしてくれた。
「署の中にお前の味方は一人もいないと思え」

そうだ上重は私についていてはくれない。
堺殺しと拳銃強奪の捜査専班として忙しい。
署になどいられないのだろう。

「新署長と署員はみんなお前の能力は
疑っている。イカサマだとな」
「私は本当のことを言っていいの」

「もちろんだ!そのために行く!
連中は腰を抜かすほど驚く」
私はつぶやいた。

「あんまり気が進まないんだけど」
「さっきも言ったように、お前は白貴の
関係者だと見られている。司法取引などと言う
小手先のやり方ではなく、お前の力を見せつけ
どうしてもそれが必要だと思わせてやれ!」

警察にどうしても必要などと思われても迷惑だ。
「警察は殺し、盗み、騙し、暴力などを捜査する
経験何十年と言う職人芸デカの集団だ!
経験と知識が勘になり彼らは絶対の自信を持っている」

上重もその一人だ!
車が署へ着くと、上重は私を連れてまっすぐに
二階の取調室の隣の部屋へ連れて行った。

事情を知る署員たちはすれ違う私を
明らかに白い目で見ていく。
私は同僚刑事堺の死に関わる重要参考人なのだ。

入った部屋は以前の面通しの部屋と似ていた。
ひとり若い刑事がいた。
部屋の明かりは点けず、
開けたカーテンの間から隣の部屋が見える。

上重は私に若い男を紹介した。
「取調官の若槻君だ。お前の面倒を頼んだ」
若槻は鋭く私を見た。

挨拶はなかった。
私は無言で隣の部屋を見た。
容疑者の取調室であることがわかった。

窓の前に机があり、ドアを背にして取調官が座り
奥に容疑者が座っている。
ドアの横の壁にデスクがあり、記録係がいた。

上重が無言で部屋を出て行った。
若槻が小声で私に告げた。
「窓を背にしているのが容疑者だ。
上重警部補から指示されているのは
君があの部屋へ入って出てくる。それだけだ」

初老の容疑者の男は、俯いたまま顔を上げない。
「一般人の君にこんなことを許すのは
異例中の異例なことだ!だが、こう着状態のこの事件を
君は動かすと警部補は言っておられる」

こう着状態の事件!
私はとんでもないところへ放りこのまれたのだ!
取調官の声に、容疑者が顔を上げた。

それを見て私は、一瞬息を飲んだ!
なんと、一昨日品川で「三日月宗近」を鑑定させられた
あの屋敷で、茶室へ案内してくれた男ではないか!

「彼の容疑はなんですか!」
思わず私は若槻に聞いた。
「言えない!君は部屋へ入り容疑者を見る。
容疑者が君を確認したら出てくる」

私は男を凝視していた。
「何も話すな!余計なことは一切せずに出て来い」
指示通り私は部屋を出た。
若槻は、ここから私の動きを監視しているのだろう。

事件の予測は出来た。
恐らく私が鑑定したあの名刀で、
彼は人を斬ったのだ。老人の指示で。

一旦廊下へ出て、隣の部屋のドアをノックした。
「入れ!」
取調官の声が聞こえた。

私はドアを開けた。





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