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第1章 爆裂令嬢、爆誕!!

第3話 クーリャ1:アタシ、異世界転生しちゃったの?

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「とりあえず、情報をまとめましょ。まずは、そこからね」

 大声を上げた後アタシは気絶してしまい、もう一度目を覚ますと深夜遅くらしく周囲は真っ暗だ。
 ベットの横には、椅子に座り転寝うたたねをしているメイドの子がいる。

「カティったら、風邪引きますわよ」

 アタシは、ベットから静かに下りてキツネ耳の少女メイドにずり落ちていた毛布を掛けなおした。

「とにかく幸いだったのは、『わたし』と『アタシ』の中身、魂が同一だった事ね」

 もう一度ベットに潜りなおして、アタシは持っている情報を繋げ合わせる。

「まず、第一定義。アタシは誰? 『今』のわたしは、クーリャ・マクシミリアーノヴァ・カラーシュニコヴァ。ニシャヴァナ男爵領主、マクシミリアンの長女。そして『前』のアタシは、日本の女子大学院生、くすのき かえで

 一番最初に定義するのは、自分の事。
 「アタシ」と「わたし」、ひと眠りした今は完全に融合している。

「まったく違う人と融合するのはイヤだけど、同じ人格同士の融合なら何も変わりないものね」

 「わたし」は「この世界」で創造主たる「姉」から産み出された時、「アタシ」のコピー、いや同一存在として生まれた。
 だから、どっちも自分だと思える。

「第二定義、『アタシ』と『わたし』。どっちが優勢? 今は、やや『わたし』成分多めかな?」

 肉体が10歳の幼い少女な「わたし」だから、感覚的に「わたし」成分の方が多いような気がする。
 この本来恐怖を覚える状況を楽しめる余裕があるのが、証拠。
 「わたし」は怖いもの知らず、いや知ってなお突撃して失敗する事が多い。

「いや、アタシも突撃して失敗すること多かったよね。うん、やっぱり同一人物なの」

 「アタシ」部分は分析をするも、「わたし」部分は状況を楽しんでいる。

「第三定義、記憶はどう? うん? どっちの分もあるみたい。『アタシ』の方が人生長いのと勉強した時間が長かった分、科学知識が多いの。恋愛、人生経験関係は、残念ながらさっぱりだけど」

 思い出そうと思うと、「わたし」の幼少期と「アタシ」の幼少期、どちらも思い出せる。
 キーとして「わたし」のか、「アタシ」のか、イメージすれば混ざる事は無いようだ。

「うん、これは便利。これで、この世界の科学技術を向上させられるの!」

「第四定義、どうしてこうなった? 『アタシ』は爆発事故で死んで、『わたし』に生まれ変わったらしい。そして『わたし』は、階段から落ちて、『アタシ』時代の事を思い出したのよね」

 「アタシ」の最後の記憶は、空気中二酸化炭素からのオレフィン類合成プラントでの爆発事故。
 可燃物と横の建物にある液体酸素が反応したのだから、すさまじい爆発になったに違いない。

「痛いと思う間も無かったのは幸いなのかな? アカネちゃん、アタシが盾になってたから助かってたら良いな。男の子達や教授も無事なら良いのに……」

 アタシは、つい両親と姉の事を思い出してしまう。

「おとーさん、おかーさん、おねーちゃん。先立つ不幸をゴメンね。も、もう会えないんだよね……。う、うわぁぁん!!」

 アタシは、涙が止まらなくなった。
 身体や脳が幼いからか、感情があふれ出したら止まらないのかもしれないと「アタシ」の部分は分析するけど、「わたし」は両親達に二度と会えないのが悲しくてたまらない。

「う、ううん……」

 アタシの泣き声で、少女メイドのカティが身じろぎをする。

 ……あ、カティを起こしたら大変な事になっちゃう!

 アタシは布団に潜り込み、静かに泣いた。

  ◆ ◇ ◆ ◇

「ふぅ。沢山泣いちゃったから、少し落ち着いたの……」

 まだ、わたしの心は悲しみでいっぱいだけど、このまま泣いてばかりもいられない。

「おとーさん、おかーさん、おねーちゃん。アタシは、おねーちゃんが作った世界で生きていきます。もし、もう一度会えたら、今度はもっと孝行するね」

 心に一区切りを入れて、わたしは現状をもう一度まとめる。

「えっとお。今世で『わたし』が階段落ちしたのは、わたしの誕生会で大喧嘩したからだよね。アントニーがウチの皆を馬鹿にするから、わたしが怒ってアントニーを殴ったら、お返しに階段から突き落とされたの。いくらなんでも酷いよねぇ。一つ間違っていたら死んでいたんだもん」

 「わたし」が10歳の誕生日、誕生御祝いの会でわたしと同い年の西隣キリキア領主次男アントニー・イサーコヴィチ・ウシャコフとの婚約が発表された。
 でも、ワガママでイジワルなアントニーは、気に入らないわたしを馬鹿にした。

「父上の御願いが無ければ、オマエみたいなチンチクリンの穢れたオンナとなんて俺は婚約なんてやらない。俺や父上が欲しいのは、オマエ達が住む豊かな領地だ。そうじゃなきゃ、公爵家の次男が男爵家の長女と婚約なんてするかよぉ!」

 ここまでは100歩譲ろう。
 下心を先に言う分、バカだけど正直でもある。

 ……心の中を隠すべき貴族としては最低のバカだけど。

「しっかし、本当に貧乏だし、質素。イヤ貧乏臭くて貴族とも思えない。男爵夫妻ともあろうものが、領民なんかと一緒に農業や土木作業に従事するなんて信じられない! それに、なんだ。この汚い貧民共が。泥の臭いが移りそうだぞ!」

 わたしの両親は、貴族といっても男爵で下級貴族。
 そして領地があるといっても、精々20キロメートル四方の狭くて川がしょっちゅう氾濫をする土地。
 だから、両親は領民の方々と一緒になって治水工事や農地改良を行い、少しでも皆が幸せになれるように頑張ってきた。
 お父様とうさまは、王家に使える文官の家系、お母様かあさまは遠く東の国からやってきた亡国貴族の末裔。
 2人とも王国内では地味で異端な存在だ。

 領民の皆も、お母様の血筋の方々や中央から追い出されて来た人たち、北のドワーフ族などが多く住み、王国中央とはだいぶ違う。
 獣族と呼ばれるけものの力を使える人々の一部も、中央の迫害を嫌って住み着いても居る。
 そして皆、わたしをとっても大事にしてくれている。

「この地に住むのは、ヒトとは違う汚らわしい者達、ヒトすらも東方の黒い汚れた血が濃い。オマエも東方の穢れた血を持つ娘。誰が高貴な公爵家に入れたいと思うのか! 婚約だけして第三婦人、いやめかけ以下としてこき使ってやるさ!」

 わたしは、この一言で完全にブチ切れた。
 公爵家だろうと、許せない一言だ。

「アントニー! アンタはわたしの両親を、そして領民を侮辱したの! それは領主の娘として、ヒトとして許せない!」

「なんだ? その反抗的な目は? 俺に逆らったらどうなるか、知って……」

 わたしは、アントニーが嫌味に話している隙に、右フックをアントニーの顔にぶちかました。

「ぶったね!」

 そして今度は左フックもアントニーに打ち込んだ。

「二度もぶった! 父上にも、ぶたれた事ないのに!」

「そんなの知るかー!」

 アントニーの両頬は赤く腫れている。
 わたしは、アッパー気味の右パンチをダメ押しに叩き込んだ。

「ち、ちきしょ!!」

 体重も軽いわたしのパンチでは、アントニーを少しふらつかせるのがやっと。
 アントニーは、泣きながらわたしを突き飛ばした。
 小さくて軽いわたしは、ふわりと宙に舞う。

 ……しまったのぉ! ここ階段の踊り場だったのぉ!!

 そして、わたしは階段から真っ逆さまに転げ落ちた。

  ◆ ◇ ◆ ◇

「アレは今思えば、Gダムのパロディだったのね。姉さん、イイ加減にして欲しいの。わたしの運命がパロディで決められたら、たまんないよぉ!」

 「アタシ」の記憶から、二度ぶったシーンが某有名アニメのパロディというのが分かる。
 そして、これが長年続くアントニーとの因縁、わたしが悪役令嬢にならざるを得なかった「きっかけ」なのだ。
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