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第1章 爆裂令嬢、爆誕!!

第22話 クーリャ19:決闘開始! 卑怯なバカ貴族はぎゃふんと言わせるの!

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「早く始めろー!」
「あの騎士様、かっこよくない?」
「向こうの騎士は、なんかキザで嫌味な感じぃ」

 領境の関所町エモナ、ここは西側のキリキア公爵寮からは多くの鉱物資源、ウチからは食料が輸送時に通る町。
 そこで、今回の「決闘」が行われている。

「どうして、こんなに観客が来ているのかしら? お父様は、ご存じ?」

「いや、大事にはしたくなかったから領内には、関係者以外知らせていないぞ」

「皆様、イベントに飢えていらっしゃったのね。困りましたことですわ」

「奥様、姫様。くれぐれもお気をつけてくださいませ。あちら領の方々は、皆様を害しようとお考えでしょうから」

 決闘は、ひそかに行うはずだったのだが、町を上げての祭りになっている。
 キリキアからは領主一族の他、騎士団や警護役のゴーレムも来ている。

 片や、ウチもお父様、お母様、わたしの領主一族、御付のデボラ、カティ、先生、そして製作した刀を見届けたいゲッツ、警護役の獣族戦士達が来ている。
 そしてわたし達は、ゲッツらに組み立ててもらった天幕の下で、カテイに入れてもらったお茶を飲んでいる。
 因みに弟、ラマンはお留守番でメイド長に見てもらっている。

「姫様、あそこにいるのは本国のドワーフ達だ。こりゃ、酒の肴に見物に来やがったな。まったく困ったヤツラだ」

 ゲッツは群衆の中に同族の集団を見つけたようだ。

 ……あれ、どうして隣国まで情報が漏れているのかしら? まさか?

「ゲッツ。貴方、酒の席で同族の知り合いとかにお話しませんでしたか? 俺の作った刀が凄いんだって」

「う! そ、それが悪いのかよ、姫様! ドワーフ族が立派な武具自慢して、何が悪い!」

「もちろん、わたくしが関与した事は?」

「そんなの絶対言うかよ! 可愛い姫様、危険には晒さねーよ!」

 どうやら、ゲッツ。
 同族が集まる酒の席で自作の刀自慢をしちゃったらしい。
 彼は、わたしの追及に簡単に口を割った。

 更には今回の刀作り、農園で働く他の方々にも協力してもらったので、そこからも決闘の情報が流れたのだろう。

「ゲッツ。本当にクーリャの情報は漏らしてはおるまいな。もし、……」

「マクシミリアン様。俺は命にかけて、大事な姫様の事は守ります。なので、絶対に漏らしてはいません!」

 一瞬、強烈な殺気を放つお父様。
 それに対して、ゲッツは真面目に眼を逸らさずに答えた。

「ふぅ。それならイイよ。じゃあ、ローベルトが勝ったら、とことん、『自分』が刀を作ったと自慢しなさいね」

「はい!」

 お父様は、大きく息をついて殺気を消した。

 ……これで、ゲッツの名が売れたら、それもアントニーを地団駄踏ませられるよね。

「姫様、決闘前にご挨拶に参りました。今回は、姫様、そして皆様のおかげで自分は素晴らしい装備で戦う事が出来ます。本当にありがとうございました」

「ローベルト。礼は、アイツ倒してからにしてくださいませ。だいじょーぶ、わたくしが授けた剣技に刀は無敵ですの!」

「おいおい。領主の私は、ついでですか? まあ、クーリャが頑張ったのは事実だからね。ローベルト、恥ずかしくない戦いをしなさい。それとね、クーリャ、お口チャック!」

「あ! しまったのぉ」

 わたしは、決闘前の挨拶にきたローベルトと話していて、また迂闊うかつな事を話してしまう。

「姫様、お気をつけて下さいませ。あちらの視線、自分だけでなく、姫様にも向いていますので」

「ありがとう存じます、ローベルト。気をつけますわ」

 闘技場になる広場の東側に公爵一家と騎士達が居る。
 彼らのわたし達を見る視線は、バカにしたようでとても冷たい。

「では、私達はローベルトの勝利を祈りましょう」

「はい!」

  ◆ ◇ ◆ ◇

「ローベルト! 腰抜けのオマエなら逃げると思っていたぞ。しかし、そんな盾も持たない軽装備で私に勝てるとでも思っているのか!?」

「その言葉を貴君に返す、ヴァルラム! そんな重い装備で自分の動きについてこられるかな?」

 対峙する2人。
 その装備は、対照的に違っていた。

 ローベルトは、武器は日本刀のみ。
 盾を持たず、剣止めソードストッパーが付いている大型の金属製篭手と額当て、そして革製胸当てに軽めの鎖帷子チェーンメイルの軽戦士。

 片や、嫌味な騎士、ヴァルラム。
 フルヘルムにフルアーマー、マント。
 そしてヒーターシールドに魔剣と、如何にもファンタジー世界の騎士っぽい姿だ。

「では、私。王都より派遣されました司祭、アフクセンチーが審判をさせて頂きます」

 今回、「公」には公平な立場の審判として王都から高度な神聖魔法使いの司祭が派遣されてきている。
 これはキリキア公爵側からの指定。
 王都では無く、領境のエモナで戦うことを承諾する代わりに、高度な治癒が出来、更に「公平」な審判が出来る人物が必要だというのが、公爵の話す表向きな理由。

 ……間違いなく、公爵の『息』が掛かっているのよね。

 一見、好々爺に見える司祭。
 その実、何か仕掛けてくるかもしれない。

「クーリャ、ローベルトが心配かい? 審判も『向こう側』だから気にはなるよね。でも公衆の面前、ローベルトが正々堂々勝てば文句も言えないさ」

「ええ、クーリャ。貴方の騎士を信じなさい。貴方が鍛えたのでしょ?」

「はい!」

 わたしは、ローベルトを信じてカティと一緒に大声で声援をした。

「ローベルト! やっちゃえぇぇぇ!」
「ローベルト様、がんばれー!!」

「姫様、それはとても優雅からは程遠いです」

「はぁ、デボラさん。帰りましたら、わたくし姫様には更に教育致します」

「あ! やっちゃったのぉ! わ、わたくし、淑女ですものね。おほほほ……」

 デボラと先生は、わたしのバカな行動に頭を抱えてしまう。
 貴族令嬢らしからぬ、はしたない行動を笑って誤魔化すわたしである。

 ……ぐすん。帰ったら、また缶詰でお勉強の毎日なのね。爆裂令嬢ボンバーガールも先生には敵わないの。

  ◆ ◇ ◆ ◇

「あのナマイキなガキめ。今度こそ、俺の騎士がオマエの騎士をぶっ殺す!」

「アントニー。あの小娘が気に入らないのは分かるが、表向きには隠すのだぞ。貴族たるもの、隙を見せてはならぬ。確実に敵の力を削ぐのだ。そして、あの豊かな領地を我らのものにするのだ!」

 東側の天幕の下、公爵は次男をたしなめるように話す。
 その冷酷な眼は、敵騎士をじっと見る。

「しかし、あの剣は見覚えが無い形。てっきりアヤツが剣を貸すと思っていたのだがな?」

「では、試合開始!」

 司祭の声が広場に響いた。
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