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第2章 ドワーフ王国動乱!

第1話(累計・第40話) クーリャ34:わたし、励んでいますの!

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「腕が訛ったな、ヴァ、いやマスカー!」

「お前こそ、姫様の武具に頼りきりだ、ローベルト!」

 冬から春になる頃、ニシャヴァナ男爵領中央部にあるカルカソンヌ砦。
 そこで2人の騎士が、競い戦う。

「まだ本調子では無いのですから、無理は禁物ですよ、マスカー!」

「いえ、姫様に拾って頂いたこの身、武芸でお返ししたく存じます」

 顔、眼元を仮面で隠した騎士マスカー、彼はわたしが与えた日本刀を手に自慢げに語る。

「おい! 姫様の騎士は自分の方が先だ! それに姫様から直伝の剣術も自分の方が先なのを忘れるなよ、ヴァルラム!」

「ローベルト! 何を言っているんですか? ローベルトはお父様の騎士ですよね。それにヴァルラムは死んでいますよ。今、そこに居るのは仮面の騎士マスカーです」

 ……バレバレでもお題目というものが世間にはあるのです、ローベルト。

 もはや隠している意味があるのか不明だけれども、仮面の騎士マスカーの正体はヴァルラム。
 彼は、わたし達を襲った罪で刑死した事に表向きはなっている。

 わたし達が返り討ちにした際に、脊髄損傷の大怪我で下半身不随となったヴァルラム。
 東隣のキリキア公爵の命でわたし達を襲ったものの、簡単に倒された彼は公爵から切り捨てられ、わたし達共々口封じする暗殺者まで送られた。

 ここに至り、誰に仕えるべきだったのか悟ったヴァルラムは、お父様にすべてを話し、そして彼の命を助けたわたしの騎士になると言ってくれた。

 後は、わたしが頑張る番。
 ヴァルラムの治癒には、ハウスキーパーのデボラによる上位治癒魔法<全快リフレッシュ>を行使する必要がある。
 その際に必要な術触媒は、お父様。
 そして大量に必要な魔力に関しては、わたしの作った水力発電ならぬ「水力発魔」を使った。

 冬に入ろうとしている頃、ヴァルラムに対する治癒魔法は行われ、無事に成功した。
 予め、わたしが前世記憶で脊髄の損傷箇所を予想していたのも良かったのだろう。

 そして萎えた足でヴァルラムは再び立ち上がり、涙を溢した。
 後は厳しいリハビリを行い、ヴァルラムは騎士として再起した。

 公爵からの邪魔は、お父様の策で暗殺未遂事件以降ピタリと止まっている。
 しかし、この先何があるかは分からないし、他の貴族達にヴァルラムの事が知られるのは不味い。
 なので、バレバレでも仮面をヴァルラムへは被ってもらっている。

「お約束というものが世界にはあるのです、ローベルト! 仮面を被っている相手の身元を詮索するのはルール違反。ましてや、本名で呼ぶのは絶対にダメなのです!」

 仮面キャラのお約束、中身は美形だとか、キズがあるとか、実はジジイだったとか。
 色々なパターンがあるものの、大抵仮面を被った経緯については誰も突っ込まない。
 それを突っ込むキャラは、何故か死ぬのだ。

 ……これってシャア様が最初じゃないよね、確か。

「姫様。そのお約束とは、何方とのお約束なのですか?」

「世界との約束なのです! この世界の創造主は『BLに腐ったオタク女子』、何を仕込んでいるか分かりませんですの!」

 ローベルトに突っ込まれたわたしは、叫ぶ。

 ……お姉ちゃんの事だもん。他に何フラグを仕込んでいるか分からないよぉ。

「姫様、意味不明な事をおっしゃられても自分もローベルトも困ります。他の方の眼が無いところくらいは、正体を明かそうとも別に問題ないかと」

「それが甘いのです、マスカー。障子にメアリーとも言うのです!」

 ……あれ、眼ありだったっけ?

「今日の姫様、いつも以上に意味不明なのぉ。先生、分かりますか?」

「いえ、カティ。もうこれはわたくし共には分からぬ『神』の世界の言葉なのですから」

 わたしの暴走に呆れる先生とカティ。
 春の訪れ、小さい花が咲き始めた砦は今日も平和だ。

「姫様、まもなくダンスのお時間でございます。それと後からデボラさんによる所作講座もあります」

「は、はぁぁい」

 先生の言葉で現実に引き戻されるわたし。

 ……前言撤回、今日もわたしの受難は続くの。ぐすん。

  ◆ ◇ ◆ ◇

「そうか。おめぇもオレの所から出た後、苦労したんだな」

「ああ、師匠。マクシミリアン様に拾ってもらわなきゃ、俺は野垂れ死にしてたかもな。あの時は俺もガキだった。師匠、すまねぇ」

「なにぃ、オレだって短気すぎたさ。お互い様だな」

 ドワーフ王国王都の小奇麗な飲み屋、そこに2人の鍛冶師が並ぶ。
 かたや、王国随一の鍛冶ゴットホルト。
 そして彼の弟子ゲッツ。
 久しぶりに出会った師弟は、杯を合わせた。

「しっかし、師匠。こんな店で最近は呑んでいるのかい? 小奇麗なのは良いけど、少し落ち着かないぞ」

「一応、王から王国御用達を貰っているからな。それなりには気を使うさ。それに、今日は弟子が出世して帰ってきたんだ。奮発もするさ!」

「ありがとう、師匠。喧嘩別れした俺のために……」

 ゲッツは度数の高い蒸留酒をあおり、涙ぐむ。

「まあ、今日は呑め。その代わり、明日にはおめぇが作ったという剣について教えてくれや」

「ああ、俺が伝えられる範囲でなら。そういえば、最近あまりいい話を聞かないが、王家はどうなっているんだい?」

 ゲッツはクーリャの顔を思い出し、彼女を守る為に自分が防波堤になる気だった。
 今回、帰国したのも師匠からの手紙があり、刀を作った事への賛辞、そして出来れば製作手法を教えて欲しいとあった。
 更には、過去懐いてくれた王族の娘が自分に会いたがっていると書いてあったからだ。

 ……師匠に頼まれちゃイヤとも言えねぇ。喧嘩別れしたのに、その事を責めもしねえし。それにダニエラ様はクーリャ姫様に、どっか似ているものな。

 ふと、今日ダニエラに会えていないのに気がついたゲッツは師匠に聞いた。

「そういえば、いつも鍛冶場に来ていたのに今日はダニエラ様はいなかったよな」

「それがな、少々厄介な事になっちまってな。それもあって、無理言ってお前を呼んだのさ。お前はロマノヴィッチ王国にツテがあるんだろ。最悪の場合、……」

「え! ダニエラ様を……。それは俺の一存じゃ決められない。一度持ち帰っての話になるけどイイよな、師匠」

「ああ、あくまで最悪の場合だけどな」

 ……マクシミリアン様や姫様に相談しなきゃ!

 ドワーフ王国の夜は更けていった。
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