春日遅々

阿波野治

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学食

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 雲と風が殆どないせいか、外は思ったよりも温かかった。コートを脱ぐか否か。少し迷ったが、着たままで目的地へ向かう。

 K芸術大学には十分ほどで着いた。学生食堂のドアを開けると、先客が五・六人いた。全員、エミルと同年代に見える。在学生に違いない。

 十一時までは日替わりのモーニングセットしか用意されていないので、メニュー選びに悩まなくて済む。今日は和食の日だ。注文カウンターで注文すると、テーブルに着いて待つまでもなく、料理が載ったトレイが差し出される。今日の献立は、白いご飯、焼き鮭、出汁巻き玉子、青菜の胡麻和え、ジャガイモと玉葱の味噌汁、沢庵。

 エミルが選んだのは、堂内のほぼ中央に位置する、二人掛けの席。出入り口からも、窓からも、注文・返却両カウンターからも離れた場所にある。

 窓際の席にいる男子二人組が、しきりにエミルに視線を投げかけてくる。

(エミルって、そんなに学食が似合わないキャラかな? 一週間に一回は来てるんだけど)

 割り箸を割り、食べ始める。
 食事の際、エミルは主食を平らげることを最優先に食べ進めていく。なにか信念があるわけではなく、癖のようなものだ。炭水化物は後で食べた方が太りにくい、という話は聞いたことがあるが、エミルは幼少時から現在に至るまで、ほっそりとした体型を維持している。

 K芸大の学食の味噌汁のジャガイモは大きく切られている。エミルの口は特別小さいというわけではないが、それでも一口では食べられない大きさだ。

(もう少し小さく切ってしてほしいんだけどな)

 心中で不平をこぼしつつ、椀の中のジャガイモを箸でカットする。汁が跳ねないよう、作業は慎重に行わなければならない。

 エミルはジャガイモの味噌汁を食べるたびに、母方の祖母のことを思い出す。
 両親の実家で暮らしていた時、朝食を作るのは母方の祖母の役目だった。ご飯とパン、割合は半々で、ご飯の場合によく出てくる一品が、汁物でいえば、ジャガイモが入った味噌汁。ジャガイモに限らず、祖母が作る料理の具材は総じて小さかった。家族が食べやすいように配慮した結果なのか、それとも単に癖のようなものなのか、それは定かではない。

 茶碗が空になった。窓際の男子二人組のうちの一人は、相も変わらずエミルを気にしている。客観的に見れば、顔立ちは端正な部類に入るだろう。しかし落ち着きのなさ、自信のなさ、といったものが滲み出ていて、その点で大分損をしている印象を受ける。

 先に二人組が食べ終わり、席を立った。返却カウンターに至る最短ルートに当たる関係から、二人はエミルの真横を通った。通り過ぎる際、彼らはエミルの顔をいささか図々しく凝視した。

(声をかけてくるかな……?)

 身構えたが、杞憂に終わった。

 それから十分ほどでエミルも食べ終わった。トレイを返却カウンターに返却し、「ごちそうさま」と告げて学食を出る。食事をしていた半時間ほどの間に、気温はさらに上昇したらしい。着ようか止めようか、中途半端な気持ちで胸に抱いていたコートをしっかりと小脇に抱え、帰途に就いた。
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