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真一の説明
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残り時間がゼロ分になるまではあっという間だった。
今や総勢三十名ほどに膨らんだ来所者の全員が、真一に注目している。口元に握り拳を宛がって空咳をしたのは、自分自身に気持ちの切り替えを促すためだ。一同の顔を悠然と見回すという、たった今考えついたひと芝居を挟んでから、
「みなさま、本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。地区長の西島咲子さんからお知らせがあったと思いますが、これより虎退治に関する説明会を始めたいと思います」
マイクなしでも充分に声は響いている。一同の顔は適度な緊張に包まれ、顔の方向はもれなく真一。出だしは悪くない。
「人食い虎を必ずや退治してみせると豪語し、この自然美しい小毬に滞在して、今日ではや四日目。『退治のための力が溜まるには最低三日かかる』と、地区長を通じてみなさまには伝えられたかと思いますが、その期日が今日となります。単刀直入に言いますと、力を行使する準備は整いました」
言語化すれば「おおお」といったような、低いどよめき。少し前のめりの姿勢で真一を見つめていた咲子の双眸が、少し大きくなった。真一からは最も離れた場所で、ケンさんがまばたきもせずに壇上に注目している。
放置しておけば、いつまで経ってもやまないし、緩慢な速度ながらも着実に音量を増していきそうなどよめきを、真一はくっきりとした発音での「ただし」という一言で抑え込む。誰の口からも声が出ていないのを確認してから、小さく空咳を一つ。壇から近い場所に座っている、咲子を含む何人かの顔を一人ずつ見つめてから、
「ただし、私が持つ生命を破滅させる力は、充電が完了しただけでは効果は発揮されません。虎と相対し、虎に術をかける必要があるのです。術をかけた生物は、それがどんな生物であっても、七十二時間以内にその命が終わる。それが私の持つ力の概要です」
再びざわめきが起こったが、先ほど一喝するに等しい形で抑え込んだのがものを言ったのだろう。そう大きくはならないうちに歯止めがかかり、自然消滅した。
しかし彼らはその後も、隣の者と顔を見合わせるなどして、動揺の色を顕著に示している。真一が懸命に考えた嘘は、それほどの影響力を一同にもたらしたのだ。
問題は、その嘘をどう信じさせるか。
真一はもともと、綿密に計画を練って、それに忠実に人々をコントロールしていくタイプではない。一言一言に対する反応を見ながら、即興的に手段を講じることをくり返し、疑われようが訝しがられようが屁理屈と詭弁で押し通し、最終的には言いくるめる。そんなやりかたを得意としているし、好んでもいる。簡単な脳内原稿であれば一応用意してきているが、内容は殴り書きレベルで、詳細まで定まっているわけではない。
ここからがほんとうの勝負だ。そんな思いに、表情はますます凛々しさを増す。
今や総勢三十名ほどに膨らんだ来所者の全員が、真一に注目している。口元に握り拳を宛がって空咳をしたのは、自分自身に気持ちの切り替えを促すためだ。一同の顔を悠然と見回すという、たった今考えついたひと芝居を挟んでから、
「みなさま、本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。地区長の西島咲子さんからお知らせがあったと思いますが、これより虎退治に関する説明会を始めたいと思います」
マイクなしでも充分に声は響いている。一同の顔は適度な緊張に包まれ、顔の方向はもれなく真一。出だしは悪くない。
「人食い虎を必ずや退治してみせると豪語し、この自然美しい小毬に滞在して、今日ではや四日目。『退治のための力が溜まるには最低三日かかる』と、地区長を通じてみなさまには伝えられたかと思いますが、その期日が今日となります。単刀直入に言いますと、力を行使する準備は整いました」
言語化すれば「おおお」といったような、低いどよめき。少し前のめりの姿勢で真一を見つめていた咲子の双眸が、少し大きくなった。真一からは最も離れた場所で、ケンさんがまばたきもせずに壇上に注目している。
放置しておけば、いつまで経ってもやまないし、緩慢な速度ながらも着実に音量を増していきそうなどよめきを、真一はくっきりとした発音での「ただし」という一言で抑え込む。誰の口からも声が出ていないのを確認してから、小さく空咳を一つ。壇から近い場所に座っている、咲子を含む何人かの顔を一人ずつ見つめてから、
「ただし、私が持つ生命を破滅させる力は、充電が完了しただけでは効果は発揮されません。虎と相対し、虎に術をかける必要があるのです。術をかけた生物は、それがどんな生物であっても、七十二時間以内にその命が終わる。それが私の持つ力の概要です」
再びざわめきが起こったが、先ほど一喝するに等しい形で抑え込んだのがものを言ったのだろう。そう大きくはならないうちに歯止めがかかり、自然消滅した。
しかし彼らはその後も、隣の者と顔を見合わせるなどして、動揺の色を顕著に示している。真一が懸命に考えた嘘は、それほどの影響力を一同にもたらしたのだ。
問題は、その嘘をどう信じさせるか。
真一はもともと、綿密に計画を練って、それに忠実に人々をコントロールしていくタイプではない。一言一言に対する反応を見ながら、即興的に手段を講じることをくり返し、疑われようが訝しがられようが屁理屈と詭弁で押し通し、最終的には言いくるめる。そんなやりかたを得意としているし、好んでもいる。簡単な脳内原稿であれば一応用意してきているが、内容は殴り書きレベルで、詳細まで定まっているわけではない。
ここからがほんとうの勝負だ。そんな思いに、表情はますます凛々しさを増す。
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