少女と虎といつか終わる嘘

阿波野治

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交わる

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 一度トイレに行ったさいに廊下を通ったので、一階の間取りはおおむね把握している。
 目星をつけたドアを開けると、ダイニングに通じている。人はいない。その右隣のキッチンも無人だ。
 首をひねりながらリビングに目を移すと、ソファに人の姿があった。ぐったりと横になっている。

「咲子さん、大丈夫ですか? 寝ているところ悪いですけど、少し話が――」

 ある程度の距離まで歩み寄ったところで、息を呑んで足を止めた。裸だったのだ。服は上も下も、ソファの前に乱雑に脱ぎ散らかしてある。

「咲子さん? これはいったい――」

 顔を顔に近づける。垂れ下がった前髪に顔が隠れている。ベールをどかそうと手を伸ばすと、手首を掴まれた。力任せに引っ張られ、咲子の上に倒れ込む。背中へと素早く回された両腕にがっちりと囚われ、唇に唇が重ねられる。咲子の唇はチョコレートの香りがした。下敷きになった咲子の体が動く。真一の体ごと半回転し、床に転がり落ちる。二人の上下は入れ替わった。咲子が上体を起こし、前髪をかき上げて顔を出した。とろけたような表情をしていた。

「真一くん。私、あなたのことが好き。だから、だから――」

 指が真一のシャツの裾から内側へと侵入し、腹部を意味深長な軌道でさする。咲子は嫣然と微笑する。

「しよう? ね?」

 
* * *


「……やってしまった」

 二階の寝室のソファの縁に腰かけ、真一はシリアスな声でひとりごちた。
 咲子の寝室は女性らしいインテリアで固められ、落ち着いた雰囲気が漂っている。部屋に招かれた当初はなんとも思わなかったが、冷静さを取り戻したうえで改めて眺めてみると、殺風景だという印象を持った。こんな部屋で交わったのだから悪事だ、と思った。

 閉ざされたドア越しに水音が聞こえた。咲子は先ほど「冷えた」と一言言い置いてトイレに行ったばかりだ。用事を済ませ次第、寝室まで帰ってくるだろう。
 リビングで一回、寝室で一回、二人は肉体を交えた。能動的で情熱的な咲子と、徳島に来て以来セックスとは無縁だった真一は、激しく絡み合った。夢中になって肉体を貪り合い、貪り尽くし、果てた。

 咲子が戻ってきた。一糸まとわぬ姿で、真一からの視線を気に留めている様子はない。彼に柔らかく微笑みかけながら、粘性を感じさせる手つきで彼の背中を撫で上げ、ベッドに仰向けに横になる。肩越しに振り向いた彼の視線の先で、咲子はたぐり寄せたタオルケットを体にかけたが、二秒後には眉をひそめて蹴り剥いだ。そのさいに股間の茂みが垣間見え、彼は目を逸らす。

 二回目を済ませてからというもの、真一はこの場にいつづけることに苦痛を感じはじめていた。
 咲子は彼に対してどうしろ、どうしてほしいという要求はいっさい口にしない。そもそも無駄口を叩きたくない、事後特有の雰囲気に真一とともにただ浸っていたい、という無言の訴えを感じる。彼は異性との性交経験は人並みにあるが、この空気感は体験したことがなかった。
 その原因が咲子ではなく真一にあり、虎と嘘の問題が絡んでいるからなのは疑いようがない。

「一回なにかをさらけ出すと、なにもかもさらけ出したくなるよね。右乳がぽろんとこぼれちゃったら、慌ててしまうんじゃなくて、むしろ自分から左乳も出す、みたいな?」

 振り向くと、咲子は体ごと真一のほうを向いていた。同級生の男子をからかう女子生徒のように薄く笑っている。

「ようするにどういうことかというと、私は思い切って真一への思いを打ち明けたうえに、裸をさらけ出したでしょ。だからそのついでに、自分自身の過去についての打ち明け話をしたくなったの。さらけ出したからっていうか、セックスをしたからっていうか。まあ、どっちでもいいか」

 咲子はさもおかしそうに、しかし上品に小さく笑って、語りはじめた。
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