少女と虎といつか終わる嘘

阿波野治

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無力

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「馬鹿が。この僕に、お前ごときの言うことを聞く義務があるはずがないだろう。矮小なよそ者の馬鹿げた戯言を。いいか、沖野真一。どうやら忘れてしまったようだから、改めて言っておく。僕は小毬の住人に恨みがある。虎に生まれ変わったのは、憎き小毬の住人を皆殺しにするためだ。それを否定するというのは、僕に死ねというに等しい。……お前、それでも話し合えとほざくのか?」

 虎が言葉を発するたびに空気が震える。決して大きな声を発しているわけではないのに、力強い。錆びついてしまったような喉を無理矢理動かして唾を呑み込み、

「中後保。お前は虎になって以来ずっと殺しばかりしてきて、話し合いなんて一度もしたことがない。そうなんだな?」
「当たり前だ。それがどうしたというんだ」
「だったら、試しにやってみればいいだろう。案外、上手くいくかもしれないぜ。殺したい、殺したいと思ってやまないお前でも納得できるような、平和的な解決策が見つかるかもしれない。三日前みたいな凶行を、お前はこれまで何度も実行しているのに、目標はいまだに叶っていないんだろう? 小毬の住人を皆殺しにするという目標は。だったら、別のやりかたを試してみればいい。そうすれば、お前が満足できる結果を得られるかもしれないぜ」
「あいにくその気はないね。なぜなら、今回の襲撃で僕は悲願を達成するつもりだからだ。今回も失敗に終わるという証拠、なにかあるか?」
「あるよ。……俺がお前を阻止する、と言ったらどうする?」

 声は掠れた。のみならず、震えた。

 緊迫感のある沈黙が数秒間流れ、虎が悠然と歩み寄ってきた。
 真一は一歩後ずさりをした。虎は歩調を崩さない。その威風堂々とした足取りに、真一の体はフリーズする。

 虎は真一の目の前で足を止めた。彼はまばたきさえ封じられた目で虎を見返す。投射される視線を押し返すように、虎は彼へと顔を近づける。
 そして、咆哮。

 真一は「わっ」と声を上げて尻もちをついた。彼の体は震え出した。虎の口が少し開いて牙の白が覗く。

 真一は悟った。悟ってしまった。
 虎は、一人の人間の力ではとうてい手に負えない。腕力ではもちろん、言葉でも。
 舌先三寸で数々の人間を騙してきた力が、まったく通用しない――。

「間抜け面だな、沖野真一。その顔の滑稽さに免じて、ぎりぎり赦してやる。召使いは一人よりも二人のほうがなにかと便利だから、今回限りの特別サービスだ。僕がお前に言うことは、変わらない。黙って見物していろ。忠告するのもこれが最後だからな」

 虎は地を蹴って駆け出した。向かったのは、座り込む真一とは反対方向、人家が多く立っている方角。戸の隙間から虎と真一のやりとりをうかがっていた男性が、慌てて首を引っ込めた。虎はその家の戸に突進して体当たりし、木っ端みじんにした。野太い悲鳴。骨ごと肉が引き裂かれる音。
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