113 / 120
真相④
しおりを挟む
でも、そんな日々が重なるにつれて、だんだん苦痛に感じはじめた。中後さんへの奉仕に終わりが見えないのがその理由。ギブ・アンド・テイクならまだしも、彼は卓郎を食い荒らした時点で自分の責任を果たしている。中後さんが住人を殺すことでわたしは留飲を下げているけど、彼は自分自身の恨みを晴らし、食糧の足しにする目的で殺しているのであって、わたしのためじゃない。
それとは別に、わたしの心を悩ませることがあった。それは、ほんとうのお母さんが心を許してくれないこと。
わたしのほんとうのお母さん――西島咲子は、地区長だった卓郎の死後しばらくして、選挙の結果新しい地区長に選ばれた。だから、養父亡きあとの生活について相談する、という名目で対話を目論見たけど、ことごとく門前払いに近い対応をされた。今になって考えてみれば、当たり前だよね。人食い虎と関係があると噂されているわたしは、地区長という立場の人間にとっては敵も同然。わたしが邪魔で吉行家に預けたのだから、そういう意味でも接近を許したくない相手でもあるし。
温もりを求めるたびに冷たくあしらわれて、わたしは傷ついた。孤独を感じた。中後さんはわたしの味方だけど、さびしさを消すための行動はとってくれない。眠って、殺して、食べて、たまに話をする。そんな生活に満足しきっていて、わたしにはなにもしてくれない。
さびしさを消してくれないという意味では、ケンさんも同じ。彼は竹細工作りを手取り足取り教えてくれて、わたしにお金を稼ぐ術を与えてくれた。竹を伐る、竹を竹ひごに加工する、竹ひごをわたしの家まで運ぶ。わたし一人では難しい仕事を無償で引き受けてくれたのは彼だけだし、仕事以外の面でも面倒を見てくれた。それ自体は感謝してもしきれないけど、でも、さびしさはどうにもしてくれなかった。ケンさんは生まれつき障害があるせいで、人の気持ちを汲む能力が不足しているから、仕方がないことなんだけど。
そんな日々を送るうちに、知らずに知らずのうちに悲観的になったわたしは、卓郎を殺したことを悔やむようになった。あの人は実の娘を穢したクズ中のクズだけど、果たして死に値する大罪を犯しただろうか? なにも殺さなくてもよかったのでは? 地区長として小毬の住人に貢献してきたのはたしかなのだし、情状酌量の余地くらいはあったのでは? そんなことを延々と考えて、ずっと悶々としていた。生きるという、中後さんを前に願った願いは叶えられたけど、でもそれだけの日々。
これは罰なのだ。卓郎を殺してしまった罰として、惨めな人生を送っているのだ。嫌でも、苦しくても、受け入れて生きていくしかないのだ。
そう自分に言い聞かせて、どうにか精神の安定を保ってきた。
それとは別に、わたしの心を悩ませることがあった。それは、ほんとうのお母さんが心を許してくれないこと。
わたしのほんとうのお母さん――西島咲子は、地区長だった卓郎の死後しばらくして、選挙の結果新しい地区長に選ばれた。だから、養父亡きあとの生活について相談する、という名目で対話を目論見たけど、ことごとく門前払いに近い対応をされた。今になって考えてみれば、当たり前だよね。人食い虎と関係があると噂されているわたしは、地区長という立場の人間にとっては敵も同然。わたしが邪魔で吉行家に預けたのだから、そういう意味でも接近を許したくない相手でもあるし。
温もりを求めるたびに冷たくあしらわれて、わたしは傷ついた。孤独を感じた。中後さんはわたしの味方だけど、さびしさを消すための行動はとってくれない。眠って、殺して、食べて、たまに話をする。そんな生活に満足しきっていて、わたしにはなにもしてくれない。
さびしさを消してくれないという意味では、ケンさんも同じ。彼は竹細工作りを手取り足取り教えてくれて、わたしにお金を稼ぐ術を与えてくれた。竹を伐る、竹を竹ひごに加工する、竹ひごをわたしの家まで運ぶ。わたし一人では難しい仕事を無償で引き受けてくれたのは彼だけだし、仕事以外の面でも面倒を見てくれた。それ自体は感謝してもしきれないけど、でも、さびしさはどうにもしてくれなかった。ケンさんは生まれつき障害があるせいで、人の気持ちを汲む能力が不足しているから、仕方がないことなんだけど。
そんな日々を送るうちに、知らずに知らずのうちに悲観的になったわたしは、卓郎を殺したことを悔やむようになった。あの人は実の娘を穢したクズ中のクズだけど、果たして死に値する大罪を犯しただろうか? なにも殺さなくてもよかったのでは? 地区長として小毬の住人に貢献してきたのはたしかなのだし、情状酌量の余地くらいはあったのでは? そんなことを延々と考えて、ずっと悶々としていた。生きるという、中後さんを前に願った願いは叶えられたけど、でもそれだけの日々。
これは罰なのだ。卓郎を殺してしまった罰として、惨めな人生を送っているのだ。嫌でも、苦しくても、受け入れて生きていくしかないのだ。
そう自分に言い聞かせて、どうにか精神の安定を保ってきた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
【短編集】こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる