少女と虎といつか終わる嘘

阿波野治

文字の大きさ
115 / 120

真相⑥

しおりを挟む
 一同のあいだに動揺が走った。南那を除く、この場にいる人間全員の心が揺れたという意味だ。それはもちろん真一も例外ではなく、呼吸さえも忘れて語が継がれるのを待った。南那が述べた提案はこうだった。


* * *


 今後、わたしは中後さんの妻として暮らしたいと思っている。
 だから咲子さんは、中後さんを殺そうとするのをやめてほしい。その代わりに中後さんは、小毬の住人たちに対する復讐心をすっぱりと捨てて、襲って殺すのをやめる。

 中後さんが暮らす場所は、竹林の中のみ。食料は、中後さんが捉えた野生の動物の肉と、わたしが作った竹細工で得た収入で買った食料で賄うことにする。わたしは、住人たちを二度と襲わないという約束を中後さんが守るように、彼の野獣としての本能をなだめ、コントロールする義務を負う。

 竹細工を作るのに必要な道具一式は、手数をかけてしまうけど、みんなに竹林まで運びこむのを手伝ってほしい。竹ひごを持ってくるのと、完成品を持っていってふもとの町へ売りに行くのと、お店から受けとったお金で食料や日用品を買ってくるのは、これも手数をかけることになるけど、今までどおりケンさんの役目。商品をとりにくる場所が今宮家から竹林に変わっただけで、そう負担が増えるわけではないから、きっと彼も引き受けてくれると思う。

 わたしの義務について話したけど、中後さんと咲子さんも、もちろん義務を負わなければいけない。中後さんは、理性を保つのを心がけて、なにがあっても住人たちを襲わないようにすること。咲子さんは、住人たちに中後さんを刺激するような行動をとらせないように指導すること。
 三人が義務を守る意識を強く持つことができれば、誰も血を流さない、平和な小毬の日常がきっと戻ってくる。

 わたしの話を聞いて、難しいって二人は思ったかもしれない。だけど、わたしの考えだと、二人にとって義務を果たすのはそう難しい仕事ではない。
 だって、中後さんは住人たち、特に咲子さんに対する恨みからというよりも、咲子さんが好きだからこそ襲っていたのだから。中後さんは咲子さんが好きだけど、咲子さんは中後さんのことが嫌いで、構ってもらえなくて、それがさびしくて、住人を殺すという名目で小毬まで来ていたんだと思う。
 なぜって、今までに大規模なものから小規模なものまで、数えきれないくらい襲撃があったのに、中後さんから最も恨まれているはずの咲子さんは傷一つ負ったことがないでしょう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...