僕は君を殺さない

阿波野治

文字の大きさ
25 / 66

25

しおりを挟む
 僕も人付き合いは得意ではない。九条さんのような極端な対応をとることこそないが、不得手という意味では似た者同士だ。空気のように存在感が薄いのだから、なにを言おうがなにをしようが、他人にとってどうでもいいことでしかない。そう頭では分かっているのに、他人の目を気にしすぎてしまう。他人に嫌われたくないという思いは、人よりも強い。

 しかし、変化は着実に起きつつある。他者と接することの難しさ、怖さ。それと背中合わせの、楽しさ、奥深さ。それらは全て、九条さんとの付き合いの中で学んだことだ。
 気の置けない人だからこそ、共に過ごすのが楽しい。当たり前といえば当たり前の理屈だが、それを自らの体験を通じて確かめた意味は小さくない、と僕自身は思っている。

 僕は十代の若者にうってつけの遊び場には詳しくない。なおかつ、百点満点か零点かのリスキーな選択よりも、確実にヒットを狙える道に心を惹かれる。だから、世間からは定番と見なされている場所や店や施設を候補に上げた。その中から、三度目の行き先として僕が選出したのは、

「遊園地?」
「そう、遊園地」
 九条さんが確認を求め、僕は肯定する。夜の八時過ぎ、電話を介しての会話だ。

 九条さんはスマホで文章を打つのが遅い。本来であれば電話オンリーにしたいところだが――現在のところ、やりとりに費やす時間の割合は、テキスト形式と電話が半々となっている。詳しい事情までは聞いていないが、九条さんいわく、家族が帰宅したあとは通話が難しいらしいのだ。

「そっか。九条さんは転校してきた人だから、知らないんだね。この町の郊外に、そこそこ大きめの遊園地があるんだけど、そこへ行こうかなと思って」
「存在自体知らない。新しい町のことには、あまり関心がないから」
「……ああ」

 転校が多い、という事情の影響で間違いないだろう。しかし、今はそのことに触れるべき場面ではない。

「有名なテーマパークと比べるとさすがにクオリティは落ちるけど、充分に楽しめると思う。だから九条さんも、ぜひ」
「人出は? 私、人が多い場所は好きじゃないんだけど」
「混雑してるイメージはないかな。もう長いこと足を運んでいないけど、客が急増したっていうニュースは聞いたことないし、大丈夫だと思うよ」

 最期の一言が効果的なひと押しとなったらしく、九条さんは承諾の返事をしてくれた。


* * *


 構内か外かの違いはあるが、駅で待ち合わせるのは三回連続。九条さんの方が先に待ち合わせ場所に来ていたのも、三回連続。喪服じみた黒衣を着てきたのも、これで三回連続だ。

「今日も九条さんが先だったね。早めに来たつもりなんだけど」
「予知能力があるから。遠藤くんが来るよりも絶対に早く、待ち合わせ場所に来られるの」

 九条さんはさらりと言ってのける。昨日は何時に寝て今日は何時に起きたとか、朝食にはなにを食べたとか、そういった些細な事実を気軽に申告するように。思わず見つめ返した顔に、読みとれる感情や思いは一つもない。

「そういえば、早い時間帯に待ち合わせをするのは初めてだよね。予定を決めるときは異論は出なかったけど、朝はどうなの? 起きるの、つらくなかった?」
「見ての通り、平気。スタートが午前中ということは、たくさん遊べるということでしょう。だから、別に苦では」
「おっ。九条さんにしては珍しく、素直に思いを口にしたね」
「私はいつだって素直だけど。バス、もうすぐ出発する時間だから、停留所まで移動しよう」

 頷きながら、図星をつかれて少し慌てているのかな、と頭の片隅で思う。無表情の仮面の下から、微弱な感情の揺れ、というよりも揺れの兆候のようなものを察知したことは、これまでにも何回かあった。

 九条さんが本当の意味で素直に、感情や思いを表現してくれるようになるまで、どれくらいの時間がかかるのだろう?
 現状を客観視すれば、あまりにも遠すぎる。それでいて絶望感を微塵も覚えないのは、目の前のイベントが楽しみだからというのもあるが、それだけではない。着実に距離を縮められている手応えがあるからだ。

 僕が歩んでいる道のりは、縮まることはあっても長くなることはない。だから、一歩ずつ着実に歩みを重ねていけば、いつか必ず辿り着ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

処理中です...