塵埃抄

阿波野治

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逃亡の果て

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 一橋克也は、交際していた英国人女性を口論の末に殺害し、行方を眩ました。
 逃げ切るのは難しいだろうが、逃げられるだけ逃げてやる。そう覚悟を決めた上での逃亡だったが、予測に反して、数日が経過しても追っ手の気配は迫ってこない。指名手配のポスターが街中に貼られ、ニュースは連日事件の話題で持ち切りだったが、犯人に繋がる有力な情報は寄せられていないらしい。
 克也は油断大敵をスローガンに逃亡生活を続けた。ニュースでは、警察庁長官直々に捜査本部の職員を叱咤する映像も流れたが、事態の進展には繋がらなかった。事件がメディアに取り上げられる回数は次第に少なくなっていった。
 そんな折、警察庁職員による不祥事が明るみに出た。メディアは一斉に、警察組織の腐敗を、克也を未だに逮捕できない体たらくとセットで厳しく非難した。克也は通快だった。逃げ切れるのではないか、という淡い期待が胸に芽生えた。
 だがその翌日、克也は警察官に発見され、手錠をかけられた。彼が殺人を犯してから約半年後のことだった。
 克也は合点がいかなかった。逃げ切れるかもしれない、という手応えを持ったのは確かだが、気を緩めたわけでは断じてない。犯人に繋がる有力な情報が寄せられたわけでもないのに、仮にも半年間逃げ通した俺が、なぜこうもあっさり捕まったんだ?
 黙秘が続く取調室を一人の男が訪れた。克也はテレビで見たことがあったので、その人物が何者かを知っていた。警察庁長官だ。
 警察庁の最高責任者の登場に面食らっている克也に向かって、長官は冷ややかに言った。
「狭い日本、お前一人の居場所を、我々警察が把握できないと思うか? お前のような逃亡犯は、逮捕すれば大ニュース、世間の注目を逸らすには打ってつけの存在だ。一橋、お前は最初から踊らされていたんだよ」
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