不都合な幻覚

阿波野治

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赤く蒼い星 四

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「口はつけずに、本体を割って中を確かめただけかもしれないぜ。食べたっていう根拠は?」
「見知らぬ犯罪者がかごに入れた商品を買うような変人は、食べたとしてもおかしくないわ」
「なるほど、いい推理だ。ていうか俺、君から見て変人っていう認識なんだ。君にだけには貼られたくないな、そのレッテルは」
「じゃあ、どうして話しかけてきたの」
「貸し借りなしにしたかったし、それ以上に君のことを知りたかったから。変人同士、惹かれ合うものを感じたのかもね。質問、二ついい?」
「内容によるけど」
「じゃあ、聞いて判断して。まず一つ目だけど、どうして売り物に針なんか刺したの? 動機を教えてほしいな」
「ストレス解消のため。そうせざるを得ないような暮らしを送っているから」

 まさか答えてくれるとは思わなかったので、俺は少々まごついた。返答に関しては、変人のわりに凡庸な理由だな、というのが率直な感想だ。
 器物損壊は歴とした犯罪。しかも気づきにくく、口内というデリケートな部位を傷つける可能性が高いのだから、悪質だ。
 たぶん、少女にのしかかっているストレスは尋常じゃないんだろう。
 どんな事情を抱えているのか、気にならなかったと言えば嘘になるけど、問い質すのは控えることにする。なぜって、これは第一の質問に対する回答を聞いて芽吹いた、当初予定していなかった第三の質問。質問は二つと約束したのだから、守るべきだと判断したわけだ。

「じゃあ、二つ目の質問。君の名前を教えて」
「あなたから名乗ってくれれば、尋ねられなくても答えたんだけど」
「この場面、ふざけて別人の名前を名乗るべきかな? どう思う?」
「どうぞご自由に」
「そのそっけない感じ、やめておいたほうがよさそうだね。俺は佐々晴太。君は?」
「赤星蒼」
「赤なのに蒼か。ちょっと面白くて、いい名前だね。蒼って下の名前で呼んでもいいかな?」
「ご自由に」

 少女――赤星蒼は俺に背を向けて去っていこうとしたので、反射的に呼び止めた。肩越しに振り向けられた無表情に向かって、
「また、会えるかな」
「質問、二つだったと記憶しているけど」
「質問じゃなくて確認だよ」
「詭弁ね」
「詭弁じゃなくて屁理屈さ」
「口がうまいのね」
「素直に褒め言葉だと受け取っておこうかな。で、君の回答は?」
「変人に絡まれたくらいで、行きつけのスーパーに行くのをやめたりしないよ。わたしに言えるのはそれだけ」

 蒼は今度こそ去っていく。俺との会話になんら影響を受けていなさそうな、淡々としていて無駄のない、アンドロイドの足運びで。
 俺は暗黙のルールを遵守して、遠ざかっていく背中を黙って見送った。
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