9 / 18
赤く蒼い星 四
しおりを挟む
「口はつけずに、本体を割って中を確かめただけかもしれないぜ。食べたっていう根拠は?」
「見知らぬ犯罪者がかごに入れた商品を買うような変人は、食べたとしてもおかしくないわ」
「なるほど、いい推理だ。ていうか俺、君から見て変人っていう認識なんだ。君にだけには貼られたくないな、そのレッテルは」
「じゃあ、どうして話しかけてきたの」
「貸し借りなしにしたかったし、それ以上に君のことを知りたかったから。変人同士、惹かれ合うものを感じたのかもね。質問、二ついい?」
「内容によるけど」
「じゃあ、聞いて判断して。まず一つ目だけど、どうして売り物に針なんか刺したの? 動機を教えてほしいな」
「ストレス解消のため。そうせざるを得ないような暮らしを送っているから」
まさか答えてくれるとは思わなかったので、俺は少々まごついた。返答に関しては、変人のわりに凡庸な理由だな、というのが率直な感想だ。
器物損壊は歴とした犯罪。しかも気づきにくく、口内というデリケートな部位を傷つける可能性が高いのだから、悪質だ。
たぶん、少女にのしかかっているストレスは尋常じゃないんだろう。
どんな事情を抱えているのか、気にならなかったと言えば嘘になるけど、問い質すのは控えることにする。なぜって、これは第一の質問に対する回答を聞いて芽吹いた、当初予定していなかった第三の質問。質問は二つと約束したのだから、守るべきだと判断したわけだ。
「じゃあ、二つ目の質問。君の名前を教えて」
「あなたから名乗ってくれれば、尋ねられなくても答えたんだけど」
「この場面、ふざけて別人の名前を名乗るべきかな? どう思う?」
「どうぞご自由に」
「そのそっけない感じ、やめておいたほうがよさそうだね。俺は佐々晴太。君は?」
「赤星蒼」
「赤なのに蒼か。ちょっと面白くて、いい名前だね。蒼って下の名前で呼んでもいいかな?」
「ご自由に」
少女――赤星蒼は俺に背を向けて去っていこうとしたので、反射的に呼び止めた。肩越しに振り向けられた無表情に向かって、
「また、会えるかな」
「質問、二つだったと記憶しているけど」
「質問じゃなくて確認だよ」
「詭弁ね」
「詭弁じゃなくて屁理屈さ」
「口がうまいのね」
「素直に褒め言葉だと受け取っておこうかな。で、君の回答は?」
「変人に絡まれたくらいで、行きつけのスーパーに行くのをやめたりしないよ。わたしに言えるのはそれだけ」
蒼は今度こそ去っていく。俺との会話になんら影響を受けていなさそうな、淡々としていて無駄のない、アンドロイドの足運びで。
俺は暗黙のルールを遵守して、遠ざかっていく背中を黙って見送った。
「見知らぬ犯罪者がかごに入れた商品を買うような変人は、食べたとしてもおかしくないわ」
「なるほど、いい推理だ。ていうか俺、君から見て変人っていう認識なんだ。君にだけには貼られたくないな、そのレッテルは」
「じゃあ、どうして話しかけてきたの」
「貸し借りなしにしたかったし、それ以上に君のことを知りたかったから。変人同士、惹かれ合うものを感じたのかもね。質問、二ついい?」
「内容によるけど」
「じゃあ、聞いて判断して。まず一つ目だけど、どうして売り物に針なんか刺したの? 動機を教えてほしいな」
「ストレス解消のため。そうせざるを得ないような暮らしを送っているから」
まさか答えてくれるとは思わなかったので、俺は少々まごついた。返答に関しては、変人のわりに凡庸な理由だな、というのが率直な感想だ。
器物損壊は歴とした犯罪。しかも気づきにくく、口内というデリケートな部位を傷つける可能性が高いのだから、悪質だ。
たぶん、少女にのしかかっているストレスは尋常じゃないんだろう。
どんな事情を抱えているのか、気にならなかったと言えば嘘になるけど、問い質すのは控えることにする。なぜって、これは第一の質問に対する回答を聞いて芽吹いた、当初予定していなかった第三の質問。質問は二つと約束したのだから、守るべきだと判断したわけだ。
「じゃあ、二つ目の質問。君の名前を教えて」
「あなたから名乗ってくれれば、尋ねられなくても答えたんだけど」
「この場面、ふざけて別人の名前を名乗るべきかな? どう思う?」
「どうぞご自由に」
「そのそっけない感じ、やめておいたほうがよさそうだね。俺は佐々晴太。君は?」
「赤星蒼」
「赤なのに蒼か。ちょっと面白くて、いい名前だね。蒼って下の名前で呼んでもいいかな?」
「ご自由に」
少女――赤星蒼は俺に背を向けて去っていこうとしたので、反射的に呼び止めた。肩越しに振り向けられた無表情に向かって、
「また、会えるかな」
「質問、二つだったと記憶しているけど」
「質問じゃなくて確認だよ」
「詭弁ね」
「詭弁じゃなくて屁理屈さ」
「口がうまいのね」
「素直に褒め言葉だと受け取っておこうかな。で、君の回答は?」
「変人に絡まれたくらいで、行きつけのスーパーに行くのをやめたりしないよ。わたしに言えるのはそれだけ」
蒼は今度こそ去っていく。俺との会話になんら影響を受けていなさそうな、淡々としていて無駄のない、アンドロイドの足運びで。
俺は暗黙のルールを遵守して、遠ざかっていく背中を黙って見送った。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる