鏖の季節

阿波野治

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「さて、なにを話そうかな。意欲はあるんだけど、話題がないね。もっぱら小屋の中とその周辺で暮らしていて、出会いというものがあまりないから」
「じゃあ、わたしから質問いい? ぱっと思いついたものが二つあるんだけど」
 どうぞ、というふうにうなずいたので、真理愛は遠慮なく言葉に甘えることにする。

「砂時計はなんのために使っているの? 工作をしていて時間を計る必要になる場面、あるの?」
「計る目的では使っていないよ。少し休憩したいときにひっくり返して、砂が落ちる模様をぼーっと眺めるんだ。暇つぶしになるわけではないし、癒されるとも少し違うんだけど、なんとなくそうするのが好きで」
「へー。そんな意味があったんだね」
「やっぱり、変かな」
「ううん、いいと思うよ。わたしはいいと思う」
「時間が有限であることや、人生の短さを肝に銘じるために、目が届く場所に置くように心がけているのかもしれないね。僕はほら、近い将来に自殺しようと考えている人間だから」
「そっか……。でも、わたしは逆かな」
「逆?」
「砂時計を見ると、わたしは永遠っていう言葉を連想する。だって、ひっくり返しさえすればまた時を刻むでしょ。返す人間さえいれば、半永久的に」
「なるほど。それは鋭い視点だね。湯田さんの意見を聞いたことで、僕の認識も今後変わってくるかもしれない」

 多分変わらないんじゃないかな、と真理愛は思った。トモノリは穏やかな性格だが、その実頑固で、自分の考えを曲げない印象が彼女の中では強い。

「二つ目の質問だけど、この小屋の中にはなにが置いてあるの?」
 建物を肩越しに一瞥しての問いかけだ。

「置かれているものの内訳は、食品、調理器具、日用品、寝具、工具、資材――そんなところかな。もともと工具類の保管庫として使用されていたから、比率としては工具がもっとも多いね。空間の占有率でいえば資材が一番かな。資材に関しては、必要に迫られて新規に購入したものもいくつかあるけど」
「ドア越しに何回か中の様子を見たけど、やっぱり工具が多いんだね。具体的にはどんなものがあるの?」

 トモノリは口頭で説明する。金槌や糸鋸など、たちどころに映像が浮かび、使用法もわかるものもあれば、名前すらはじめて聞くものもある。

「実際に見てもらったほうがわかりやすいかな」
 トモノリは小屋の中からいくつかの工具を持ち出し、二人の前の地面に広げた。この道具の正式名称はこうで、使いかたはこうで、といった解説が述べられる。

「暑い季節だったのかな。ねじり鉢巻きをして上半身裸の僕のおじいちゃんが、大きな木材に鉋がけをしているんだけど、面白いくらいに出てくる鉋屑を見て、削り節みたいだと言ってはしゃいだ記憶があるね。あんな単純なことで盛り上がるなんて、子どもという生き物は無邪気なんだなって思うよ。それとも、僕が年齢の割に幼かったのかな。小学校に入るか入らないかのころのエピソードだったと記憶しているけど」

 一目で使い込まれているとわかる鉋を眺めながら、トモノリは語る。
 彼は感情をめったに表に出さないし、出したとしても表現は控えめだ。目元に浮かぶ懐古の微笑は、微笑とは呼べないようなささやかさだが、鉋にまつわるエピソードについて語っているあいだずっと消えなかった。
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