嘘つきと口なし

阿波野治

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解決篇5

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 詩帆は唇を閉ざしたままだ。美澄は待ってみたが、十秒を超えても沈黙は続く。膠着状態は探偵の発言によって破られた。

「ニセモノが詩帆さんである証拠はどこにもありません。あなたは探偵の真似事なんてした覚えがないと白を切ることもできますが――詩帆さん、どうせ言葉数を費やすのなら、別の目的のために費やすことを断然おすすめしますよ」
「……どういう意味でしょう」
「詩帆さん、せっかくの機会ですから、ぜひとも私に洗いざらいお話しください。あんなにも長い日記を、わざわざ他人のふりをしてまで書いたくらいだから、理由があるのでしょう? 事情があるのでしょう?」

「でも……」
 詩帆はあからさまに眉根を寄せる。
「なにかご不満でも?」
「依頼の報告を受けている最中なのに、依頼者のわたしが話をするって、どうなんでしょうか」
「私はいっこうに構いませんよ。もう忘れましたか? 長谷村探偵事務所は相談無料、話をするだけならタダですから」
「あ……」
「相談なんてなくてもいいんですよ。相談したいことがあったけど切り出しづらくて、長々と雑談をしているうちに忘れてしまった、それでいいんです」
 美澄は再び肩をすくめてみせ、背中をソファの座面に預けるとともに腕組みをした。

 詩帆は視線を再び自らの膝頭に落としている。探偵は今にも鼻歌を歌い出しそうな表情で目をつむっている。
 詩帆がおもむろに顔を上げ、真っ直ぐに長谷村の顔を見つめた。なんらかの強い意思が瞳に宿り、爛々と輝いている。突き刺さる視線が刺激となったとでもいうように、探偵はぱっちりと目を見開いて腕組みを解いた。
 詩帆は口元に微かな笑みをたたえて唇を動かす。

「ご厚意に感謝します、長谷村さん。長谷村さんの言うとおり、日記を書いたのは弟ではなくて、わたしです。
 なぜ書き手を偽ったかというと、これも長谷村さんの推理どおり、あの子の無念を晴らしてあげたかったから。
 長谷村さんの推理で間違っていることが一点だけあって、わたしが聞き取り調査をもとに日記を書いたということ。それだけを参考にしたわけじゃなくて、聞き取り調査は参考資料の少なさを補うためのおまけ。
 弟は、駿は、日記を遺していたんです。内容を見れば遺書の代わりなのは一目瞭然の日記を」

「……ほう」
 探偵は少し身を乗り出した。
 詩帆は大きなため息をついた。それを機に、詩帆の口調から敬語が抜けた。
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