嘘つきと口なし

阿波野治

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解決篇17

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「無罪だと私は思っていますよ。私が自力で嘘を暴いたその時点で」
 探偵は微笑んでクライアントからの眼差しと言葉を受け止めた。
「じゃあ、話に付き合ってくれたのは? 嘘がばれたあとのわたしの話、無理に聞く必要はなかったよね」

「ありますよ。だって種明かし、気になるじゃないですか。日記を投げつけるように返却して、『あなたのせいで一週間を無駄にした、二度と来ないでくれ』だなんて怒鳴って追い出すようでは、面白味がないですからね」
 探偵は微笑みを崩さずに、少し弾んだような声で滔々と話す。
「詩帆さんは私の長たらしい推理を聞いてくれたから、そのお返しの意味からも聞くべきだと思ったし。それに――」
「それに?」
「探偵の仕事は人助けですから。労力もお金もかかるので、かかった場合はお金をいただいていますが、ちょっとのあいだ話を聞くくらい喜んでやりますよ。表の看板にも明記してあるとおり、相談するだけなら無料ですから」

「人助け、か……」
「甘っちょろいことを言っているように聞こえましたか? ……表情を見たかぎり、どうやら図星のようですね。でも私から言わせてもらえば、そう感じたのは詩帆さんがまだまだ未熟な証拠です。大人になれば、人間を動かしているのは損得勘定ばかりではないことが理解できますよ。探偵という職業に従事しているからこそ理解できた、ではなくてね。もちろん、若いうちはそれが当たり前なので、気になさる必要はありませんよ」

 詩帆は小さく頷き、テーブルに置いてあるノートに視線を転じた。おもむろにそれを手に取って表紙をじっと見つめ、ていねいな手つきでトートバッグにしまい、静かに腰を上げる。
「少し長居してしまったけど、求めていたものは得られたので帰ります。ありがとうございました」





 長谷村探偵事務所を後にした詩帆は、きびきびとした速足で寂れた通りを西へ向かう。肩から提げたトートバッグの肩紐を掴む右手には力がこもっている。まばたきの少ない双眸は進行方向を真っ直ぐに見据えてぶれることがなく、現在視界に映っていないなにかを捉えているかのようだ。
 角を曲がると、百メートルほど前方の左手にビターチョコレート色の屋根の小さな建物が見える。
 詩帆はさらに足を速めた。双眸は建物に釘づけだ。人気のない道には彼女の靴底が奏でる音だけが響いている。
 詩帆がある程度近づいたところで、店頭に置かれた椅子に座っていた少年が立ち上がった。彼女は駆け足になって彼との距離を詰める。
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