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暗い部屋で
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まだ午後五時前だというのに、根鈴家の中は暗い。
両親はまだ帰ってきていない。玄関、廊下、階段と、凪は自分の手で明かりを点けながら移動し、自室に入る。
制服から私服に着替える。ベランダに干してある洗濯物を取りこみ、洗濯機を回す。買い置きのカップラーメンをすする。風呂掃除を済ませる。洗い終わった洗濯物を干す。干し終わったころには、外はすっかり真っ暗だ。
凪の両親は仲が悪い。社会科の授業で東西冷戦について習ったが、彼の両親はまさにそれと同じ状態だ。ただ、史実とは違うところが一つあって、二人はときどき、天地もひっくり返るような大げんかをくり広げる。
両親がこうなってしまったのは、浮気が原因だ。どちらが被害者でどちらが加害者、ではなくて、二人ともが加害者であり被害者。だからこそ、二人の争いはみにくくて、激しくて、終わりが見えない。
憎み合い、争うことに忙しい両親は、一人息子の凪に構おうとしないし、家事をおろそかにする。だから凪は、自分にとって必要なことはすべて自分でする。そのおかげで、同年代の男女と比べると、一人でできることは少し多いかもしれない。彼はその事実を、誇らしく思うのではなく、さびしいと感じている。
部屋に戻り、宿題を片づけてしまうと、やることは特にない。凪は無趣味だから、毎日時間をつぶすのにとても苦労する。考えても仕方がないことをだらだらと考えてしまい、気が滅入ることだって珍しくない。
しかし、今日はいつもとは違う。ベッドに仰向けになって、薄汚れたクリーム色の天井をぼんやりと見つめながら、下校途中に遭遇した出来事を思い返している。
中でも、少女の指が動いた映像は、何度も何度も脳内に甦らせた。
あんなにも大量の血を吐いたのに、あんなにも顔は青ざめていたのに、あんなにも体は冷たかったのに――それでも少女の指は動いた。
少なくとも、あの時点であの子は生きていた。
では、今は?
おもむろに、枕元の携帯電話を手にとる。
凪は赤髪の女性看護師に電話番号を教えたが、彼女は凪に連絡先を教えてくれなかった。病院に電話をかけるという手があるが、個人情報保護という高く分厚い壁が立ちはだかっているから、望んでいる情報が得られる保証はない。
凪に今できるのは、少女の無事を祈ることだけだ。
ため息をつき、携帯電話をもとの場所に置く。することがなくて退屈だが、気持ちは前を向いている。
凪は明日の放課後、T市民病院に行くつもりだ。
両親はまだ帰ってきていない。玄関、廊下、階段と、凪は自分の手で明かりを点けながら移動し、自室に入る。
制服から私服に着替える。ベランダに干してある洗濯物を取りこみ、洗濯機を回す。買い置きのカップラーメンをすする。風呂掃除を済ませる。洗い終わった洗濯物を干す。干し終わったころには、外はすっかり真っ暗だ。
凪の両親は仲が悪い。社会科の授業で東西冷戦について習ったが、彼の両親はまさにそれと同じ状態だ。ただ、史実とは違うところが一つあって、二人はときどき、天地もひっくり返るような大げんかをくり広げる。
両親がこうなってしまったのは、浮気が原因だ。どちらが被害者でどちらが加害者、ではなくて、二人ともが加害者であり被害者。だからこそ、二人の争いはみにくくて、激しくて、終わりが見えない。
憎み合い、争うことに忙しい両親は、一人息子の凪に構おうとしないし、家事をおろそかにする。だから凪は、自分にとって必要なことはすべて自分でする。そのおかげで、同年代の男女と比べると、一人でできることは少し多いかもしれない。彼はその事実を、誇らしく思うのではなく、さびしいと感じている。
部屋に戻り、宿題を片づけてしまうと、やることは特にない。凪は無趣味だから、毎日時間をつぶすのにとても苦労する。考えても仕方がないことをだらだらと考えてしまい、気が滅入ることだって珍しくない。
しかし、今日はいつもとは違う。ベッドに仰向けになって、薄汚れたクリーム色の天井をぼんやりと見つめながら、下校途中に遭遇した出来事を思い返している。
中でも、少女の指が動いた映像は、何度も何度も脳内に甦らせた。
あんなにも大量の血を吐いたのに、あんなにも顔は青ざめていたのに、あんなにも体は冷たかったのに――それでも少女の指は動いた。
少なくとも、あの時点であの子は生きていた。
では、今は?
おもむろに、枕元の携帯電話を手にとる。
凪は赤髪の女性看護師に電話番号を教えたが、彼女は凪に連絡先を教えてくれなかった。病院に電話をかけるという手があるが、個人情報保護という高く分厚い壁が立ちはだかっているから、望んでいる情報が得られる保証はない。
凪に今できるのは、少女の無事を祈ることだけだ。
ため息をつき、携帯電話をもとの場所に置く。することがなくて退屈だが、気持ちは前を向いている。
凪は明日の放課後、T市民病院に行くつもりだ。
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