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ゼリー
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気がつくと、凪は自室のベッドの上にいた。
有害な生き物がひしめく病室から脱出し、追いかけてくる炎から逃げ、暗い部屋で空っぽの棺を見たのは、すべて夢だったのだ。
あんなにも荒唐無稽で非現実的な現実を、僕はどうして現実だと思いこんでいたのだろう? ただの間抜けなやつじゃないか。
思わず苦笑してしまったが、すぐに真顔になる。棺は七海が入るものかもしれない、と疑ったことを思い出したからだ。
あの棺に、七海に直接結びつく要素はなかった。棺がかもし出す死の雰囲気が、大病をわずらい、死を抱えた七海と結びついたのだろうか?
気がかりなのは、広い意味で同系統の夢――すなわち、七海の死を予感させる悪夢を二回連続で見たことだろう。
悪夢を見せたのが岩永の仕業だとすれば、彼女はいったいなにを企んでいるのか。
岩永は無関係なのだとしても、悪夢が二回続いたのだから、不吉であることには変わらない。凪は予知夢も夢占いも信じないが、とても嫌な予感がする。
たとえば、七海の死期が近いとか……。
凪は七海のことをまだなにも知らない。雑談をする中で、プライベートについては断片的な情報を得ているが、病気に関する情報は皆無に近い。重い病気なのだろうと察しはつくが、現時点で詳しいことはまったくの不明だ。
僕はたぶん、なにはともあれ、病気について七海にたずねてみるべきなのだろう。
でも、それはとても勇気がいることだ。
もし不治の病だったら? 死に至る病だったら? そう考えただけで、体が震える。とても、とても、恐ろしい。
勇気を振り絞ってたずねてみるべきか。それとも、本人の口から説明があるまで待つべきか。
結論を出せないまま、凪は自宅を発った。
* * *
「凪くん、こんにちは」
七海はベッドの上から凪を出迎えた。表情は柔らかく、体調も機嫌も悪くないように見える。
今日は病室に岩永月夜の姿はない。
「ところで凪くん、そのレジ袋はなに?」
七海は凪が右手に提げているものを指差した。彼はそれを胸の高さまで持ち上げ、
「ゼリーだよ。桃のゼリー。コンビニで二人ぶん買ってきたんだけど、食べる?」
「うん、食べる! 凪くん、座りなよ」
凪は丸椅子に腰を下ろし、袋からゼリーの容器とプラスチックのスプーンを取り出して手渡す。七海はさっそく容器を開け、ひと匙すくって食べた。
「冷たい! おいしい! わたし、ピーチ味が好きかもしれない。ありがとう、凪くん」
「どういたしまして」
凪も自分のぶんを取り出し、容器のフタを剥がす。
「正直、病気で入院している人だからゼリーっていうチョイスが、なんとなく安直な気もしたんだよね。病院食でも普通に出るだろうから、ありがたみがそんなにないかな、と思ったんだけど」
「ううん、そんなことない。ゼリー、わたしはすごく好き。そもそも、凪くんがわざわざ買ってきてくれた時点で、それがなんであっても文句はないよ。ていうか凪くん、食べるの遅くない?」
「七海が早すぎるんだよ」
小さなスプーンをせわしなく動かし、夢中で食べる姿はほほ笑ましく、凪は幸せな気分になった。ただ、七海に注目する時間が長いせいで、自分の食事がおろそかになる。そのせいで、あっという間に自分のぶんを平らげた彼女に、物欲しそうな目で見つめられながら食べる羽目になった。
有害な生き物がひしめく病室から脱出し、追いかけてくる炎から逃げ、暗い部屋で空っぽの棺を見たのは、すべて夢だったのだ。
あんなにも荒唐無稽で非現実的な現実を、僕はどうして現実だと思いこんでいたのだろう? ただの間抜けなやつじゃないか。
思わず苦笑してしまったが、すぐに真顔になる。棺は七海が入るものかもしれない、と疑ったことを思い出したからだ。
あの棺に、七海に直接結びつく要素はなかった。棺がかもし出す死の雰囲気が、大病をわずらい、死を抱えた七海と結びついたのだろうか?
気がかりなのは、広い意味で同系統の夢――すなわち、七海の死を予感させる悪夢を二回連続で見たことだろう。
悪夢を見せたのが岩永の仕業だとすれば、彼女はいったいなにを企んでいるのか。
岩永は無関係なのだとしても、悪夢が二回続いたのだから、不吉であることには変わらない。凪は予知夢も夢占いも信じないが、とても嫌な予感がする。
たとえば、七海の死期が近いとか……。
凪は七海のことをまだなにも知らない。雑談をする中で、プライベートについては断片的な情報を得ているが、病気に関する情報は皆無に近い。重い病気なのだろうと察しはつくが、現時点で詳しいことはまったくの不明だ。
僕はたぶん、なにはともあれ、病気について七海にたずねてみるべきなのだろう。
でも、それはとても勇気がいることだ。
もし不治の病だったら? 死に至る病だったら? そう考えただけで、体が震える。とても、とても、恐ろしい。
勇気を振り絞ってたずねてみるべきか。それとも、本人の口から説明があるまで待つべきか。
結論を出せないまま、凪は自宅を発った。
* * *
「凪くん、こんにちは」
七海はベッドの上から凪を出迎えた。表情は柔らかく、体調も機嫌も悪くないように見える。
今日は病室に岩永月夜の姿はない。
「ところで凪くん、そのレジ袋はなに?」
七海は凪が右手に提げているものを指差した。彼はそれを胸の高さまで持ち上げ、
「ゼリーだよ。桃のゼリー。コンビニで二人ぶん買ってきたんだけど、食べる?」
「うん、食べる! 凪くん、座りなよ」
凪は丸椅子に腰を下ろし、袋からゼリーの容器とプラスチックのスプーンを取り出して手渡す。七海はさっそく容器を開け、ひと匙すくって食べた。
「冷たい! おいしい! わたし、ピーチ味が好きかもしれない。ありがとう、凪くん」
「どういたしまして」
凪も自分のぶんを取り出し、容器のフタを剥がす。
「正直、病気で入院している人だからゼリーっていうチョイスが、なんとなく安直な気もしたんだよね。病院食でも普通に出るだろうから、ありがたみがそんなにないかな、と思ったんだけど」
「ううん、そんなことない。ゼリー、わたしはすごく好き。そもそも、凪くんがわざわざ買ってきてくれた時点で、それがなんであっても文句はないよ。ていうか凪くん、食べるの遅くない?」
「七海が早すぎるんだよ」
小さなスプーンをせわしなく動かし、夢中で食べる姿はほほ笑ましく、凪は幸せな気分になった。ただ、七海に注目する時間が長いせいで、自分の食事がおろそかになる。そのせいで、あっという間に自分のぶんを平らげた彼女に、物欲しそうな目で見つめられながら食べる羽目になった。
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