レム

阿波野治

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眠気

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 他愛もない話をする。チョコレート菓子を食べる。折り鶴を折る。
 ただそうするだけの時間が、凪には歌い出したくなるくらい楽しい。七海も同じ気持ちらしく、笑顔が絶えないし、よくしゃべる。

 今日のところは、楽しく話をするだけにしよう。七海に関わる重要事項については、また別の機会に話せばいい。
 交わす言葉の数と、完成した折り鶴の数が増えるほど、凪の中でそんな思いが高まっていく。

 考えてもみろ。あと一か月も生きられない少女に、心にダメージを与えるような話を振るのが、人間として正しい振る舞いなのか?
 言わないでおこう。今はまだその時期ではない。もう一か月しかない、ではなくて、まだ一か月もある、と考えるべきだ。今はただ、七海とともに過ごす時間を味わい、噛みしめ、堪能しよう。

 いったんはそう結論した。
 しかし、気分は快晴からはほど遠い。

 ほんとうにこれでいいのか? 割り切れないものを内に秘めたまま七海と接する限り、七海と過ごす時間を心から楽しめないのだから、まずは問題解決に全力を注ぐべきでは?

 この前みたいに、僕が悩みを抱えていることを、七海が見抜いてくれればいいのに。
 そんな身勝手な心の嘆きに、七海はまったく気がついていないようだ。

 他愛もない話をしながら菓子をつまんでいるうちに、箱の中身は空になった。それを機に、二人は本格的に折り鶴作りに取りかかった。一羽、また一羽と、鶴が完成していく。

 七海と過ごす時間そのものは、文句なしに快いだけに、かえって苦しい時間となった。彼女に不愉快な思いをさせたくないので、できる限り感情は表にしないようにした。しかし、上手くこなせている自信はない。むしろ、下手くそな努力をしているのが災いして、滑稽な空回りを演じている気がする。
 それなのに、七海はなにも指摘してこない。

 なぜなのだろう、と考えて、すぐに気がつく。
 七海も、自分にとって重要な問題から逃げているのだ。自分の命があと一か月だという事実と向き合いたくないから、自分からは触れないようにいているのだ。中庭での告白は、例外中の例外。事実は伝えたからこれ以上触れないでね、という意味での告白だったのかもしれない。

 何食わぬ顔で会話を続けながらも、凪は深く安堵していた。
 七海が現状維持を望んでいるのだから、そうしよう。僕が見た夢のことは、打ち明けない。七海の病気や命の問題について、議論はしない。今はただ、二人で過ごす時間をめいっぱい楽しもう。

 これは逃げじゃない。七海が望んでいることだ。
 だから、これでいい。

 そう結論してしまうと、心が大幅に楽になった。とたんに眠気が襲ってきた。気を抜くとすぐにでも眠りに落ちてしまいそうな、強力な睡魔だ。
 凪は戸惑ったが、窓から射し込む日射しの温かさに気がつき、なるほどと納得した。今日は早めに家を出たので、日射しがいつもよりも強く、それが眠気を誘ったのだ。

 凪がうとうとしていることに気づいていないらしく、七海はしゃべりつづけている。彼女の明るい声は耳に心地よくて、眠気は転がり落ちるように悪化していく。

『わたしはしゃべりたいからしゃべるから、凪くんは眠りたいのなら眠ればいいよ』

 まるで、そう言ってくれているかのようだ。
 その言葉に甘えて、凪はまぶたを閉じた。
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