僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

文字の大きさ
上 下
55 / 77

55

しおりを挟む
「先生にあてられても答えられないって……。なんか、大げさだな。加害者グループからプレッシャーをかけられるせいで、声を出しづらいということ?」
「いや、違うよ。他人の影響もあるけど、一番の問題は僕の心にある。進藤さんは僕と付き合いがあるといっても、同じクラスになったことは一度もないし、一週間に何回か登下校をともにしていただけでしょ。だから、僕のことを知っているつもりでも、一部しか知らないんだよ。さすがに、大人しくて、口数が少なくて、友だちも少なくて、くらいの情報は把握していると思うけど。
 ずばり訊くけど、進藤さんは僕をどういう人間だと思っているの?」
「えっと……」

 レイは上体を起こした。僕が切り出した話がシリアスなものだと気がついてから、寝そべる姿勢を是正したくてもできないそぶりをずっと見せていたので、ようやく念願が叶ったわけだ。

「だいたい曽我が言ったのと同じかな。でも、もちろんマイナス面ばかりじゃない。真面目で、優しくて、思いやりがあって……。とにかく、いいやつだって思ってる。陳腐で、面白味のない表現になっちゃうけど、一言で表すならそうなるかな。
 前からそう思っていたし、二人で過ごす時間を持つようになってからは、より強く感じるようになった。嘘じゃない。
 だってさ、考えてもみてよ。好感を抱いていない異性と、毎日のように同じ部屋で、一時間も一時間半もいっしょにいられるはずがないだろ」
「ありがとう。でも僕は今、僕の悪いところについて話しているんだ。
 進藤さんが挙げたプラスと、僕が挙げたマイナスを総合すると――そうだね。大人しくて、真面目で、地味で目立たない。気が強い生徒から不利益を被ることもあるけど、真面目だから教師やクラスメイトからは一定の信頼を得ている。そんなところかな」
「そうだね、そんな感じ。……違うの?」
「違うよ。全然違う」

 断言した僕の声は、少し震えた。

「さっきも言ったように、教師から解答を求められたり、クラスメイトから話しかけられたりしても、返事ができないことのほうが多くて。人よりもはるかに緊張しやすくて、緊張するとまったく声が出なくなるんだ。声帯に障害を抱えているからじゃなくて、心理的な問題から発声できなくなるわけ。
 そういう特性を持つ人間のさだめとして、毎年のようにいじめられていた。いじめてこない生徒からも低く見られて、ちょっと小馬鹿にしたような態度で接されて、みたいなことが多かったね。そんな学校生活が小学生のときからずっと続いていた。
 自分なりにがんばって耐えてきたつもりだけど、がんばりが足りなかったのかな。中二と高一のときの二回、不登校になって、それで逃げ癖がついてしまった。そのせいで二度目の高一のときは、誰からもいじめられていないのに学校に行かなくなった」
しおりを挟む

処理中です...