僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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 求めている答えを得られないまま、僕は高卒認定試験に臨んだ。僕にとって大きなその課題は、ちっぽけな設問の集まりを解くにあたっての障害にはなり得なかった。
 結果は、受験した全科目で合格。
 レイに報告すると、彼女はほほ笑んで「おめでとう」と言った。大喜びするでも、淡々と受け流すのでもない。僕が理想としていて、期待していたとおりの喜びかただった。
 翌日にレイは、去年のクリスマスの三日前にショートケーキを買った店で、合格祝いとして、季節としては少し早いモンブランケーキを買ってきた。美味しかった。味のクオリティの高さはショートケーキを食べて知っていたが、大切な人が僕を祝福する目的で買ってくれたのだと思うと、喜びもひとしおだった。

 秋は九月に僕、十月にレイと、誕生日がある月が連続する。積極的に外出するのを好まず、記念日を大々的に祝う趣味もない僕たちは、買ってきたケーキを食べることでお祝いを済ませた。僕は合格祝いのモンブランが美味しかったということで、二回連続でそれを、レイは好物だというチーズケーキを、それぞれリクエストして食べた。
 単調だが幸福な日々にアクセントが加わると、単調さがまったく気になるくらいに幸福になれる。僕たちも例外ではなかった。
 しかし、幸福感の高まりは長続きしなかった。

 レイが曽我家を訪れる頻度が次第に低くなる不幸は、幸いにも、最悪でも週休四日、不動の休日である土日を含めて四日で歯止めがかかった。
 問題が生じたのは、僕の心。
 高卒認定試験というハードルを乗り越えたことで、次なるハードルである大学入学共通テストと向き合わざるを得なくなったのだ。

 僕としては進学に舵を切ったつもりはない。ただ、大学入学共通テストを受けなければ、進学するにあたって不都合が生じる可能性が出てくる。そのせいで、進学すると決めたわけではないのに勉強に専念しなければならないという、歪な状態に置かれてしまった。
 もちろん、大学入学共通テストの存在・必要性・重要性は、ずっと前から重々承知している。毎日、ないに等しいくらい少しずつではあるが、それ向けの勉強にも取り組んでいた。しかし、本格的に取り組むとなると、精神的な負担は段違いだった。また、両親、というよりも父親は、「高卒認定試験に合格したことで、ようやくスタートラインに立った」という認識らしく、いっそう激しく、あからさまにプレッシャーをかけてくるようになった。
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