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ブランコはすでにびしょ濡れだ。雨宿りできそうな場所は近くにはない。店主と相合傘をしながら話を聞いてもらうという、客観視すれば滑稽以外のなにものでもない形になる。
もともと誰にも話すつもりはなかった。脳内原稿など用意していなかったが、そのわりには簡潔に、理路整然と話せた。今は足が遠のいているが、大学でライティングについて学び、自分の考えを他者に伝えるトレーニングをこなした経験が多少役に立ったのかもしれない。
店主は物静かに話に耳を傾けた。相槌すらも打たないので、不安になって顔を上げると、調理中のように真剣な顔が視界に飛び込んできた。だから、安心して話を進めることができた。
* * *
「こういう言いかたもなんですけど、俺と西崎さんはしょせん、他人同士じゃないですか」
状況の説明が終わり、その状況についてどのような考えを持っているのか、それを一輝は述べる。
「どんな悩みや問題を抱えているかは分からないけど、他人でしかない俺が首を突っ込むのはどうかと思うんですよ。ぶっちゃけ、首を突っ込むだけの勇気もないし。仮に西崎さんが相談してくれたなら、もちろんそれに応えるつもりではいるんだけど、現時点ではそれもないわけだから」
雨は降り続いている。一輝はもっとも言いたかったことを告げる。
「だから、せめて、とびきり美味しいチャーハンを作って、西崎さんに食べてもらって、困難に立ち向かう勇気と元気を持ってもらえればって思っているんです。せっかくこうして、うってつけの人と話ができたこの機会に、ぜひ教えてください。どうすれば西崎さんを満足させられるチャーハンが作れますか?」
「人間には能力の限界がある。自分の力量以上のものを生み出そうとしても、そんなことはできやしない。私が客を満足させるレベルのフランス料理を作れないようにね」
まるで事前に質問を教えられていて、あらかじめ用意していた答えを述べるかのように、店主はすらすらと言葉を連ねていく。
「君が提供した中で、西崎のお嬢さんがもっとも喜んだチャーハンはどれだ? それをもう一度、彼女に提供する。そうするしかないし、そうするべきだと私は思うよ」
「西崎さんが一番喜んでくれた……」
これまで作ってきたチャーハンを振り返ってみる。使用した食材を完全には思い出せないほどたくさん作ってきたが、一番好評だったのは――最初に食べてもらったチャーハンだ。
「でも、店主さん。一番喜んでくれたのは、残りものを適当に入れただけのチャーハンでしたよ。そもそもそれは、自分一人で食べるつもりで、成り行きで西崎さんに食べてもらっただけで。そんなに美味しいものだとは思えませんが」
「その人にとっての一番があるということだ。チャーハンよりも美味い食べものなんて、世の中にはいくらでもあるぞ。それなのに、君はなぜその料理ばかり作る? 私はなぜ中華料理を作り続けている? ――これ以上しゃべる必要はないな」
店主は一瞬白い歯をこぼし、傘の持ち手を一輝に託す。そして、傘の下から出て公園の出口へ。
一輝は遠ざかる背中を呆然と見送る。店主は道に出る直前で振り返り、
「今度来たときはサービスするよ。傘を返しにきたとしても、手ぶらだったとしてもね」
一輝は傘を大きく傾けて空を仰いだ。黒い雲が広がっていたが、雨はやんでいる。
顔を戻すと、すでに店主の姿は消えていた。
もともと誰にも話すつもりはなかった。脳内原稿など用意していなかったが、そのわりには簡潔に、理路整然と話せた。今は足が遠のいているが、大学でライティングについて学び、自分の考えを他者に伝えるトレーニングをこなした経験が多少役に立ったのかもしれない。
店主は物静かに話に耳を傾けた。相槌すらも打たないので、不安になって顔を上げると、調理中のように真剣な顔が視界に飛び込んできた。だから、安心して話を進めることができた。
* * *
「こういう言いかたもなんですけど、俺と西崎さんはしょせん、他人同士じゃないですか」
状況の説明が終わり、その状況についてどのような考えを持っているのか、それを一輝は述べる。
「どんな悩みや問題を抱えているかは分からないけど、他人でしかない俺が首を突っ込むのはどうかと思うんですよ。ぶっちゃけ、首を突っ込むだけの勇気もないし。仮に西崎さんが相談してくれたなら、もちろんそれに応えるつもりではいるんだけど、現時点ではそれもないわけだから」
雨は降り続いている。一輝はもっとも言いたかったことを告げる。
「だから、せめて、とびきり美味しいチャーハンを作って、西崎さんに食べてもらって、困難に立ち向かう勇気と元気を持ってもらえればって思っているんです。せっかくこうして、うってつけの人と話ができたこの機会に、ぜひ教えてください。どうすれば西崎さんを満足させられるチャーハンが作れますか?」
「人間には能力の限界がある。自分の力量以上のものを生み出そうとしても、そんなことはできやしない。私が客を満足させるレベルのフランス料理を作れないようにね」
まるで事前に質問を教えられていて、あらかじめ用意していた答えを述べるかのように、店主はすらすらと言葉を連ねていく。
「君が提供した中で、西崎のお嬢さんがもっとも喜んだチャーハンはどれだ? それをもう一度、彼女に提供する。そうするしかないし、そうするべきだと私は思うよ」
「西崎さんが一番喜んでくれた……」
これまで作ってきたチャーハンを振り返ってみる。使用した食材を完全には思い出せないほどたくさん作ってきたが、一番好評だったのは――最初に食べてもらったチャーハンだ。
「でも、店主さん。一番喜んでくれたのは、残りものを適当に入れただけのチャーハンでしたよ。そもそもそれは、自分一人で食べるつもりで、成り行きで西崎さんに食べてもらっただけで。そんなに美味しいものだとは思えませんが」
「その人にとっての一番があるということだ。チャーハンよりも美味い食べものなんて、世の中にはいくらでもあるぞ。それなのに、君はなぜその料理ばかり作る? 私はなぜ中華料理を作り続けている? ――これ以上しゃべる必要はないな」
店主は一瞬白い歯をこぼし、傘の持ち手を一輝に託す。そして、傘の下から出て公園の出口へ。
一輝は遠ざかる背中を呆然と見送る。店主は道に出る直前で振り返り、
「今度来たときはサービスするよ。傘を返しにきたとしても、手ぶらだったとしてもね」
一輝は傘を大きく傾けて空を仰いだ。黒い雲が広がっていたが、雨はやんでいる。
顔を戻すと、すでに店主の姿は消えていた。
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