すばらしい新世界

阿波野治

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昼下り

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 昼下がりの住宅街を、イナはいらいらした気持ちで歩いている。

 十月にしては異例ともいえるほど気温が高い。イナは今日もお気に入りの黒のフード付きパーカーを着ていて、少し暑いくらいだ。遠くで響く甲高いクラクション。民家を横切るたびに漏れ聞こえる物音。さらには、秋晴れの空の文句をつけようがないのどかさ。
 思い通りにならない日はいつもこうだ。なにもかもが束になって神経を逆撫でにする。

 イナはつい十数分前、国語の授業中にカッターナイフでアマガエルを解剖しようとした。カッターは常に持ち歩いるもので、カエルは直前の休み時間、校庭の隅の植え込みの葉の上で発見し、捕獲した個体だ。
 しかし授業中だったため、国語科教師である権藤にあえなく見つかった。叱られたうえ、カッターナイフを没収された。
 イナは腹いせに、カッターとともにいつも持ち歩いている、百円ライターで机を燃やそうとした。しかしこれも阻止され、ライターまでも取り上げられてしまった。
 逆上しつつも最低限の冷静さは手放さないイナは、丸腰では男性教師には勝てないと判断。隣席の女子児童・速水の胸ポケットにアマガエルを押し込み、教師に悪罵を吐きつけて教室を去った。

 そんな小事件があったからこそ、いらいらしながら住宅街を歩いている現在のイナがいる。

 イナは脳内で、大切な二つの武器を強奪した権藤を中心に、気に食わない他の生徒や教師も巻き込んで、想像力が許す限りの制裁を加えていく。殴打し、切り刻み、撃ち抜き、蹴り飛ばし、締め上げ、轢きつぶし、喰いちぎり、八つ裂きにする。
 想像の中でならば、百メートル先の標的にヘッドショットを決められたし、長大な青龍刀を自由自在に振るえたし、怪物のような大型トラックを軽快に暴走させられた。ちっぽけな小学六年生のユン・イナとしてではなく、超人のユン・イナとして振る舞えた。

 狂気を放出している間は、時間の流れが極端に遅く感じられる。濃密に経過していく直線的な流れが、溜め込んだ鬱憤を堅実に蒸発させていく。それが通例だ。
 しかし今日は、なぜなのだろう。幾度となく切り裂き、捻りつぶし、殴りつけても、溜まっているものが減らない。一向にいらいらが退勢する気配がない。

「……なんでだよ」

 目が極限まで細くなり、顔面は醜悪を通り越して凄惨な様相を呈する。その自覚が、ただでさえ芳しくない精神状態を奈落へと向かわせる。
 もしまた不愉快な出来事が起きたら、ぼくは取り返しがつかない真似をしでかすかもしれない。
 そんな暗い予感が、平らな胸の内側の深い場所で蠕動している。
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