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言いたくないこと
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「うるさいなー。なんでいちいち報告しなきゃいけないんだよ。そんな義務ないだろ」
「義務教育サボってるやつが言うセリフかよ」
「義務教育じゃないのにサボってるやつに言われたくないんだけど」
「そう突っかかるなよ。ていうかさ、かたくなに俺の質問に答えようとしないけど、そんなに悲惨な目にあったわけ? 言うのも恥ずかしいような失敗をやらかして、その結果が、平日の真っ昼間にほっつき歩いている今ってこと? それ、だせぇな。マジでだせぇ」
「はあ? なに早合点してんだ、低能。間抜けなのはぼくじゃなくて、理解力がない教師やクラスメイトたちだ。だってあいつら――」
昂る感情のまにまに真実を捲し立てようとして、はっとして息を止める。
言いたくない、と思ったのだ。
イナにとって教室で反社会的な行為を働くのは、日常茶飯事だ。それを見た教師が注意するのも、クラスメイトが眉をひそめるのも、同じく日常。
ただ、あそこまで厳しいお咎めを食らったのは、あれが初めてだ。手厳しく叱られるだけではなく、持ち物を没収されるというのは。
イナはそもそも、私物を取り上げられる、という形式の制裁を受けた経験がなかった。ただし、取り上げられそうになったことは何度もある。
そんなとき、イナは断固として持ち物を死守しようと努めた。仮に奪われたのだとすれば、即座に奪い返そうとした。展開によっては暴力を振るうのもいとわない覚悟で。
しかし今日、国語教師の権藤にカッターナイフを奪われたイナは、奪い返されまいと彼がそれを高々とかざした時点で、色濃い諦めムードに支配された。イナは同年代の同性と比べても身長が低い。成人男性としては平均的な身長の持ち主の権藤に、身長差を活かした防御態勢をとられた時点で絶望だった。
権藤の腹部に拳を叩き込む。権藤は体を折る。高度が下がった両手から奪い返す。
そんな成功イメージを描いたが、実行には移さなかった。丸腰だったからだ。身長だけではなく体力や腕力も教師に劣っているから、相当上手くやらない限り、いっさいの反撃を受けずに目的を遂行するのは不可能。そう咄嗟に判断し、攻撃をくり出すのではなく、ライターの炎で机を燃やすという一手に切り替えた。
しかし、結局は百円ライターも没収された。
手持ちの武器は尽きた。怒りと戦意はありあまるほどあっても、発散する方法がない。イナは負け惜しみの捨てゼリフを置き土産に退室するしかなかった。
当時は頭に血が昇っていたのでなんとも思わなかったが、今になって振り返れば、小物丸出しの惨め極まる振る舞いだった。
惨めなのは退場の仕方だけではない。
武器を二つとも奪われた。彼我の腕力の差を埋める手段がなくなった以上、権藤から奪い返せる可能性はないに等しい。今日のところは諦めて退散するのが賢明だ。
イナの頭脳は瞬時にそう判断したが、なぜその考えに盲従してしまったのか。
ある意味、カッターとライターを奪われるよりも屈辱的なのではないか。
潔く諦めるなんて、ださい。泥臭く食らいつき、意地でもその場で武器を奪い返すべきだった。
生まれ持った小さな体のせいで、選択肢が実質的に制限される。
生まれ持った合理的な頭脳のせいで、理には適っているが、己の心を満足させられない行動をとらざるを得ない。
意のままに展開できる空想の世界と比べて、なんと息苦しいのだろう!
「義務教育サボってるやつが言うセリフかよ」
「義務教育じゃないのにサボってるやつに言われたくないんだけど」
「そう突っかかるなよ。ていうかさ、かたくなに俺の質問に答えようとしないけど、そんなに悲惨な目にあったわけ? 言うのも恥ずかしいような失敗をやらかして、その結果が、平日の真っ昼間にほっつき歩いている今ってこと? それ、だせぇな。マジでだせぇ」
「はあ? なに早合点してんだ、低能。間抜けなのはぼくじゃなくて、理解力がない教師やクラスメイトたちだ。だってあいつら――」
昂る感情のまにまに真実を捲し立てようとして、はっとして息を止める。
言いたくない、と思ったのだ。
イナにとって教室で反社会的な行為を働くのは、日常茶飯事だ。それを見た教師が注意するのも、クラスメイトが眉をひそめるのも、同じく日常。
ただ、あそこまで厳しいお咎めを食らったのは、あれが初めてだ。手厳しく叱られるだけではなく、持ち物を没収されるというのは。
イナはそもそも、私物を取り上げられる、という形式の制裁を受けた経験がなかった。ただし、取り上げられそうになったことは何度もある。
そんなとき、イナは断固として持ち物を死守しようと努めた。仮に奪われたのだとすれば、即座に奪い返そうとした。展開によっては暴力を振るうのもいとわない覚悟で。
しかし今日、国語教師の権藤にカッターナイフを奪われたイナは、奪い返されまいと彼がそれを高々とかざした時点で、色濃い諦めムードに支配された。イナは同年代の同性と比べても身長が低い。成人男性としては平均的な身長の持ち主の権藤に、身長差を活かした防御態勢をとられた時点で絶望だった。
権藤の腹部に拳を叩き込む。権藤は体を折る。高度が下がった両手から奪い返す。
そんな成功イメージを描いたが、実行には移さなかった。丸腰だったからだ。身長だけではなく体力や腕力も教師に劣っているから、相当上手くやらない限り、いっさいの反撃を受けずに目的を遂行するのは不可能。そう咄嗟に判断し、攻撃をくり出すのではなく、ライターの炎で机を燃やすという一手に切り替えた。
しかし、結局は百円ライターも没収された。
手持ちの武器は尽きた。怒りと戦意はありあまるほどあっても、発散する方法がない。イナは負け惜しみの捨てゼリフを置き土産に退室するしかなかった。
当時は頭に血が昇っていたのでなんとも思わなかったが、今になって振り返れば、小物丸出しの惨め極まる振る舞いだった。
惨めなのは退場の仕方だけではない。
武器を二つとも奪われた。彼我の腕力の差を埋める手段がなくなった以上、権藤から奪い返せる可能性はないに等しい。今日のところは諦めて退散するのが賢明だ。
イナの頭脳は瞬時にそう判断したが、なぜその考えに盲従してしまったのか。
ある意味、カッターとライターを奪われるよりも屈辱的なのではないか。
潔く諦めるなんて、ださい。泥臭く食らいつき、意地でもその場で武器を奪い返すべきだった。
生まれ持った小さな体のせいで、選択肢が実質的に制限される。
生まれ持った合理的な頭脳のせいで、理には適っているが、己の心を満足させられない行動をとらざるを得ない。
意のままに展開できる空想の世界と比べて、なんと息苦しいのだろう!
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