すばらしい新世界

設定

　フォルムとしては、世間一般に広く知れ渡った架空生物や、実在する動物の特徴的な各部位を繋ぎ合わせた、オリジナルの怪物。性能しては、分厚い脂肪と毛皮が銃弾を弾く、新幹線よりも早く走れるなどの、誇張された身体機能を持つ。性質としては、あらゆる人間に対して無条件で攻撃的かつ凶暴。正当防衛が成立し、正義のためという名目を掲げられるならば、気持ちよく暴力が振るえるというわけだ。

　ただ、誤算もあった。ゴリラの腕力にプラナリアの再生能力、ドラゴンの火を吐く能力にガゼルの俊足、シロナガスクジラの巨体にワニの顎の強靭さ。長所と長所を繋ぎ合わせていった結果、敵が極めて強力になり、打ち負かすイメージを抱きにくくなったのだ。
　空想の上ではイナは神に等しいのだから、理屈の上ではどんな強敵であっても、赤子の手をひねるように倒せるはずだ。しかし、神の地位は所詮、反道徳的だが平凡の範疇に収まる小学六年生であるユン・イナの精神に拘束されている。イナが一度でも「無理だ」と感じてしまうと、それを覆すのはなかなか難しい。怪物を弱体化させるという手もあるが、それでは興ざめだ。

　熟考の末、自らの分身に討伐を委託するという、神がかり的な妙案を閃いた。
　性別は女性。年齢は二十歳。ショートヘア、長身、筋肉質な体型など、男性的な要素も積極的に採用した。体の線がくっきりと際立つボディスーツを制服に選んだのは、以前なにかのマンガでその衣装をまとった登場人物を見て、かっこいいと思ったから。常人離れした身体能力の持ち主で、ナイフを巧みに操る。

　主人公が決まると、世界観と物語も自ずと定まった。
　世界は異形の怪物が跳梁跋扈し、人類は絶滅の危機に瀕していた。原因は、フクシマで起きた原発事故によって外界に漏れ出した、大量の高濃度放射線。悪魔の光線であるそれは、多くの人間を死に至らしめただけではなく、既存の生物を突然変異させ、文字通りの怪物を大量に誕生させた。放射線の後遺症や怪物の歯牙の前に、人類はなす術なく、ただでさえ少なくなった総数をさらに減らしていく。

　そんな中、奇跡的に、放射線の悪影響をまったく受けずに生き残った者たちが、数は少ないながらも存在した。その一人が、リーフ。放射線を浴びた副作用により、驚異的な身体能力を獲得した彼女は、怪物を討伐する意を固める。

　世界に平和を取り戻すためではない。
　あくまでも、自らの命を守るために。