33 / 89
リーフについての確信
しおりを挟む
リーフは再び看板を指差した。イナはその動きに釣り込まれて、再び看板の文字を凝視する。刻まれているのは相も変わらず『フクシマ帰還困難区域』の十文字だ。
いったいなにが言いたいのか、問い質そうとしたとき、看板に異変が起きた。『フクシマ帰還困難区域』の先頭である「フ」の一文字が、いきなり横方向に百八十度回転したのだ。
イナは双眸をしばたたかせた。変化が切れ目なく続いていなければ、説明を求める眼差しをリーフに送りつけていただろう。
反転した「フ」の字はさらに、時計の針が進む方向に三十度ほど傾き、二画目に当たる斜線の上部がほんの少し延長された。以上をもって変化は終了し、最終結果としてイナの目に映し出された文字列は、
「『トクシマ帰還困難区域』……?」
今度こそリーフを仰ぎ見た。眼差しを注がれたほうは平然と首を縦に振り、
「そう、トクシマ。イナが今まで『フクシマ帰還困難区域』と思い込んできた場所は、実際は『トクシマ帰還困難区域』だったのです。旧世界で展開した空想における『フクシマ帰還困難区域』、イナが現在身を置いている『フクシマ帰還困難区域』、そのどちらもが」
振り返ってみれば、リーフが快刀乱麻を断つ活躍を見せる舞台には、徳島県内に実在する場所が登場することも少なからずあった。それなのにイナは、リーフはフクシマで戦っているのだと思い込み、信じきり、一度として真偽を疑わなかった。間違いに気がつかなかった。
……ぼくはもしかしたら、フクシマとトクシマを取り違えていた以外にも、なにか大きな勘違いをしているかもしれない。
それがもし、自分の人生や命を左右するものだとしたら……。
込み上げてきた不安に、イナは眉をひそめてリーフへと視線を投げかける。
神なのに、他者にすがった――。
忽然と、子どものようにリーフに抱きついた数分前の過去を思い出した。
怪物から助けてもらったり、『フクシマ帰還困難区域』改め『トクシマ帰還困難区域』に関する説明を受けたり――リーフの登場以来、イナはすっかり神らしくなくなってしまった。
あの瞬間から、尹イナは破滅に通じる坂道を転げ落ち始めたのでは?
陰りゆく心に待ったをかけたのは、リーフが送り返してきた温かな眼差しだった。それを受けたとたん、イナが抱え持っていた諸々のネガティブな感情は、熱せられたフライパン上のバターのように見る見る融解し、あっという間に跡形もなく消えてしまった。
この現象を受けて、イナは確信する。
リーフは本質的にイナを助ける存在なのだ。大小の不可解をことごとく直視し、律義に思い悩むよりも、大船に乗ったつもりでリーフに委ねる。それがきっと正しい対応なのだ。
『神なのに他人の力を借りるって、どうなの?』
そんなもう一人の自分の声が聞こえたが、この場ではひとまず無視する。放っておけば、じきに忘れるだろう。そんな咄嗟の計算のもとに。
いったいなにが言いたいのか、問い質そうとしたとき、看板に異変が起きた。『フクシマ帰還困難区域』の先頭である「フ」の一文字が、いきなり横方向に百八十度回転したのだ。
イナは双眸をしばたたかせた。変化が切れ目なく続いていなければ、説明を求める眼差しをリーフに送りつけていただろう。
反転した「フ」の字はさらに、時計の針が進む方向に三十度ほど傾き、二画目に当たる斜線の上部がほんの少し延長された。以上をもって変化は終了し、最終結果としてイナの目に映し出された文字列は、
「『トクシマ帰還困難区域』……?」
今度こそリーフを仰ぎ見た。眼差しを注がれたほうは平然と首を縦に振り、
「そう、トクシマ。イナが今まで『フクシマ帰還困難区域』と思い込んできた場所は、実際は『トクシマ帰還困難区域』だったのです。旧世界で展開した空想における『フクシマ帰還困難区域』、イナが現在身を置いている『フクシマ帰還困難区域』、そのどちらもが」
振り返ってみれば、リーフが快刀乱麻を断つ活躍を見せる舞台には、徳島県内に実在する場所が登場することも少なからずあった。それなのにイナは、リーフはフクシマで戦っているのだと思い込み、信じきり、一度として真偽を疑わなかった。間違いに気がつかなかった。
……ぼくはもしかしたら、フクシマとトクシマを取り違えていた以外にも、なにか大きな勘違いをしているかもしれない。
それがもし、自分の人生や命を左右するものだとしたら……。
込み上げてきた不安に、イナは眉をひそめてリーフへと視線を投げかける。
神なのに、他者にすがった――。
忽然と、子どものようにリーフに抱きついた数分前の過去を思い出した。
怪物から助けてもらったり、『フクシマ帰還困難区域』改め『トクシマ帰還困難区域』に関する説明を受けたり――リーフの登場以来、イナはすっかり神らしくなくなってしまった。
あの瞬間から、尹イナは破滅に通じる坂道を転げ落ち始めたのでは?
陰りゆく心に待ったをかけたのは、リーフが送り返してきた温かな眼差しだった。それを受けたとたん、イナが抱え持っていた諸々のネガティブな感情は、熱せられたフライパン上のバターのように見る見る融解し、あっという間に跡形もなく消えてしまった。
この現象を受けて、イナは確信する。
リーフは本質的にイナを助ける存在なのだ。大小の不可解をことごとく直視し、律義に思い悩むよりも、大船に乗ったつもりでリーフに委ねる。それがきっと正しい対応なのだ。
『神なのに他人の力を借りるって、どうなの?』
そんなもう一人の自分の声が聞こえたが、この場ではひとまず無視する。放っておけば、じきに忘れるだろう。そんな咄嗟の計算のもとに。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる