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暗い空がますます暗くなったのも、満腹感が眠気を運んできたのも、昨日と変わらない。
異なっているのは、屋内でいること。そして、
「リーフ」
フローリング張りの床に横になったイナの呟きが、永遠にも似た沈黙に終止符を打った。呼びかけというよりも、独り言のような口ぶり。「こちらまで来て」の一言はあえて省略したが、そもそもリーフはもう一人の自分だ。意思を伝える手段は、必ずしも声や視線や身振りである必要はない。
部屋の隅、白い壁紙の壁にもたれて待機していたリーフは、何分かぶりに背中を自由にした。音を立てずに歩み寄り、イナに寄り添うように体を横たえる。首筋にかかるか弱い吐息が官能の香りをほのかに立ち昇らせ、窓外の夜陰は淡いピンク色を帯びる。
視界に映さずとも、イナにはリーフの姿が手にとるように分かる。黄昏時の窓辺で恋人に寄り添うときのような表情も。両腕に挟撃され、ボディスーツの内側で変形した胸も。今にもイナに触れそうな距離にある手指のしなやかさも。
「おっぱいのこと、夕ごはんのときに言ったじゃん?」
「はい、言いましたね。初期は大きさの設定が一定しなかったという」
「それもそうだけど、ほら、あれも話したよね。服が破れておっぱいが丸見えになったってやつ。あれ、やってみてよ。再現してみせて」
「わざとボディスーツに切れ目を入れて胸を露出させろ、ということですか」
「うん、そう。やってよ、リーフ」
「構いませんが、なぜですか?」
「おっぱい吸いたいから」
一拍を置いて、背後で衣擦れの音がした。リーフは視野の外で動いているが、イナはその様子を脳裏にありありと思い描くことができた。
リーフは右の太ももに巻きつけたベルトから、メスを思わせる形状のナイフを抜きとった。その刃先を自らの左胸に宛がう。鈍色が漆黒に食い込み、十センチほどの裂け目が生じた。ナイフを元の場所に戻した手で傷口を拡張し、内側から柔な肉塊を引っ張り出す。瑞々しい果実のように揺らいで、豊かな乳房が世界にさらけ出された。
イナは寝返りを打ってリーフに向き直る。頂点に薄桃色のつぼみをつけた姿は、想像に描いた通りだ。我ながら意外なのは、心が凪いでいること。
リーフは鷹揚な微笑を満面に浮かべ、たった一つの行為を待ち受けている。
接近するべく体を動かしたとたん、リーフが無音で両手を差し伸べ、イナに触れた。抱き寄せられる力を大義名分に、積極的に体をリーフへと運び、果実の先端に口をつける。唇で感じたその部位は、微熱を帯びている。
舌と喉が、無意識に液体を吸い出す動きをとっていた。動きに応じて、細々とした流れが口腔へと流入してくる。あるかなしかのほのかな苦みを孕んだ、濃厚な味わいのミルク。
リーフの片方の手がイナの頭部へと移動し、あやすような規則的な動きを見せる。それを合図に、遅まきながら返礼を贈るように、リーフの腰に両手を添える。リーフは、頭を撫でる片手の代わりとでもいうように、片足をイナの左ふくらはぎのあたりに引っかけた。上からも軽く圧力を加えられて、身動きがとれなくなる。それでいて、不愉快でも苦痛でもない。むしろ、選択肢が限定されたのは福音だと感じる。イナは確立されたリズムに忠実に、様態という意味でも無心という意味でも赤子のように、乳汁を摂取し続ける。
始めは断続的に、時間が募るにつれて規則性を獲得していく、打ち寄せる波のような睡魔が、やがてイナを遠い世界へと連れ去った。
異なっているのは、屋内でいること。そして、
「リーフ」
フローリング張りの床に横になったイナの呟きが、永遠にも似た沈黙に終止符を打った。呼びかけというよりも、独り言のような口ぶり。「こちらまで来て」の一言はあえて省略したが、そもそもリーフはもう一人の自分だ。意思を伝える手段は、必ずしも声や視線や身振りである必要はない。
部屋の隅、白い壁紙の壁にもたれて待機していたリーフは、何分かぶりに背中を自由にした。音を立てずに歩み寄り、イナに寄り添うように体を横たえる。首筋にかかるか弱い吐息が官能の香りをほのかに立ち昇らせ、窓外の夜陰は淡いピンク色を帯びる。
視界に映さずとも、イナにはリーフの姿が手にとるように分かる。黄昏時の窓辺で恋人に寄り添うときのような表情も。両腕に挟撃され、ボディスーツの内側で変形した胸も。今にもイナに触れそうな距離にある手指のしなやかさも。
「おっぱいのこと、夕ごはんのときに言ったじゃん?」
「はい、言いましたね。初期は大きさの設定が一定しなかったという」
「それもそうだけど、ほら、あれも話したよね。服が破れておっぱいが丸見えになったってやつ。あれ、やってみてよ。再現してみせて」
「わざとボディスーツに切れ目を入れて胸を露出させろ、ということですか」
「うん、そう。やってよ、リーフ」
「構いませんが、なぜですか?」
「おっぱい吸いたいから」
一拍を置いて、背後で衣擦れの音がした。リーフは視野の外で動いているが、イナはその様子を脳裏にありありと思い描くことができた。
リーフは右の太ももに巻きつけたベルトから、メスを思わせる形状のナイフを抜きとった。その刃先を自らの左胸に宛がう。鈍色が漆黒に食い込み、十センチほどの裂け目が生じた。ナイフを元の場所に戻した手で傷口を拡張し、内側から柔な肉塊を引っ張り出す。瑞々しい果実のように揺らいで、豊かな乳房が世界にさらけ出された。
イナは寝返りを打ってリーフに向き直る。頂点に薄桃色のつぼみをつけた姿は、想像に描いた通りだ。我ながら意外なのは、心が凪いでいること。
リーフは鷹揚な微笑を満面に浮かべ、たった一つの行為を待ち受けている。
接近するべく体を動かしたとたん、リーフが無音で両手を差し伸べ、イナに触れた。抱き寄せられる力を大義名分に、積極的に体をリーフへと運び、果実の先端に口をつける。唇で感じたその部位は、微熱を帯びている。
舌と喉が、無意識に液体を吸い出す動きをとっていた。動きに応じて、細々とした流れが口腔へと流入してくる。あるかなしかのほのかな苦みを孕んだ、濃厚な味わいのミルク。
リーフの片方の手がイナの頭部へと移動し、あやすような規則的な動きを見せる。それを合図に、遅まきながら返礼を贈るように、リーフの腰に両手を添える。リーフは、頭を撫でる片手の代わりとでもいうように、片足をイナの左ふくらはぎのあたりに引っかけた。上からも軽く圧力を加えられて、身動きがとれなくなる。それでいて、不愉快でも苦痛でもない。むしろ、選択肢が限定されたのは福音だと感じる。イナは確立されたリズムに忠実に、様態という意味でも無心という意味でも赤子のように、乳汁を摂取し続ける。
始めは断続的に、時間が募るにつれて規則性を獲得していく、打ち寄せる波のような睡魔が、やがてイナを遠い世界へと連れ去った。
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