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再演
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様々な物体が積み上げられ、高さ七・八メートルほどに達している。形状は不格好な塔を思わせる。構成物は、錆びついたママチャリ、不動産屋の立て看板、縁が欠けた煉瓦製の植木鉢――ようするにガラクタだ。
市道のほど近く、おとといイナが昼食を食べた公園に雰囲気が似た小さな児童公園に、破壊ショーのための観覧席を設けたことに、深い理由も込み入った事情もない。強いて言えば、なんとなくそうしたい気分だったから。
寝泊まりした家から最も近い過去の戦闘現場だった、田宮運動公園へ向かいながら、イナはリーフと出会う前によくしていたように、視界に入った間近な物体を壊していた。その生まれたてのガラクタを利用して、即席の観覧席を拵えたのは、911の再現の再現をリーフに見てもらいたかったからに他ならない。
イナを襲った怪物を倒してくれたり、『トクシマ帰還困難区域』についていろいろと教えてくれたりした返礼、ではない。911の再演は、イナが神となってから実行した破壊の中で、最も派手で大規模なものだった。早い話が、もう一人の自分に自慢したかったのだ。
小さな誤算は、ガラクタを積み上げるために使おうとした力が不発だったことだろう。
テレキネシスの要領で、手を使うことなく縦方向に重ねていってバベルの塔を築く、という青写真を描いていたのだが、可能だったのはせいぜい地面から十センチほど浮かせるか、数秒間低速で引きずるかするくらい。結局リーフに働いてもらい、高さ七・八メートルの塔に妥協した。
その頂点に君臨する、民家の庭に置かれていたものを拝借した、デッキチェアの座面。その上に今、ガラクタ塔を踏破したリーフが腰を下ろした。戦闘的で男性的な要素を持った人物でありながら、古典美の一言が連想されるしとやかな座りかたをしたのは、イナの好みが反映されたからに他ならない。
リラックスした表情が見据えるのは、はるか前方にそびえる高層ビル。昨日イナが911再現ごっこで破壊したのと同じビルだ。ディティールを問わないならば、出現させることと同じく、復活させることもイナは得意としている。だから、創造するのではなく復活させた。
「それじゃあ行くよー」
呼びかけて、イナはビル近くの虚空に眼差しを定める。
その一点に、忽然と旅客機が現れた。ビルに近づきすぎているようにも、余裕を持っているようにも見える位置だ。出現を号砲に、旅客機はビルの側壁へと突き進む。911の映像を既視の者だけが視認可能な、空中に引かれた線をなぞる驀進だ。衝突した瞬間、ビルの近くにいる者だけが感受できる衝撃波めいた風圧を、衝突する前からイナは体感している。体が対象物に吸引される感覚。視界に占める外壁の面積が驚異的な速度で広がり、宇宙空間を連想させる艶やかな黒へと塗り潰され、衝突。脳髄に封じ込められていた爆音が解き放たれ、内から外へ向かって轟く。濛々たる黒煙が、さながら具象化された祝砲のように曇天へと打ち上がる。
市道のほど近く、おとといイナが昼食を食べた公園に雰囲気が似た小さな児童公園に、破壊ショーのための観覧席を設けたことに、深い理由も込み入った事情もない。強いて言えば、なんとなくそうしたい気分だったから。
寝泊まりした家から最も近い過去の戦闘現場だった、田宮運動公園へ向かいながら、イナはリーフと出会う前によくしていたように、視界に入った間近な物体を壊していた。その生まれたてのガラクタを利用して、即席の観覧席を拵えたのは、911の再現の再現をリーフに見てもらいたかったからに他ならない。
イナを襲った怪物を倒してくれたり、『トクシマ帰還困難区域』についていろいろと教えてくれたりした返礼、ではない。911の再演は、イナが神となってから実行した破壊の中で、最も派手で大規模なものだった。早い話が、もう一人の自分に自慢したかったのだ。
小さな誤算は、ガラクタを積み上げるために使おうとした力が不発だったことだろう。
テレキネシスの要領で、手を使うことなく縦方向に重ねていってバベルの塔を築く、という青写真を描いていたのだが、可能だったのはせいぜい地面から十センチほど浮かせるか、数秒間低速で引きずるかするくらい。結局リーフに働いてもらい、高さ七・八メートルの塔に妥協した。
その頂点に君臨する、民家の庭に置かれていたものを拝借した、デッキチェアの座面。その上に今、ガラクタ塔を踏破したリーフが腰を下ろした。戦闘的で男性的な要素を持った人物でありながら、古典美の一言が連想されるしとやかな座りかたをしたのは、イナの好みが反映されたからに他ならない。
リラックスした表情が見据えるのは、はるか前方にそびえる高層ビル。昨日イナが911再現ごっこで破壊したのと同じビルだ。ディティールを問わないならば、出現させることと同じく、復活させることもイナは得意としている。だから、創造するのではなく復活させた。
「それじゃあ行くよー」
呼びかけて、イナはビル近くの虚空に眼差しを定める。
その一点に、忽然と旅客機が現れた。ビルに近づきすぎているようにも、余裕を持っているようにも見える位置だ。出現を号砲に、旅客機はビルの側壁へと突き進む。911の映像を既視の者だけが視認可能な、空中に引かれた線をなぞる驀進だ。衝突した瞬間、ビルの近くにいる者だけが感受できる衝撃波めいた風圧を、衝突する前からイナは体感している。体が対象物に吸引される感覚。視界に占める外壁の面積が驚異的な速度で広がり、宇宙空間を連想させる艶やかな黒へと塗り潰され、衝突。脳髄に封じ込められていた爆音が解き放たれ、内から外へ向かって轟く。濛々たる黒煙が、さながら具象化された祝砲のように曇天へと打ち上がる。
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