68 / 89
祖母について
しおりを挟む
イナにとって母方の祖母は、イナがコンタクトをとったことがある、イナと血が繋がっている人間の中では、最も縁遠い人間に思われた。居間の卓袱台の上にダイレクトメールを発見するまで、下の名前が希和子だという情報すらも失念していたくらいだ。
そんな有り様だから、希和子の死にざまや、死因や、葬儀の詳細を思い出すことなど、夢のまた夢。
木板が軋む音を立てながら二階に上がる。廊下を西に進んだ突き当りの一室は、以前誰かが私室として使用していたらしい雰囲気が漂っている。
クローゼットのドアを開けると、大量の古雑誌が置かれていた。紐で縛るなどの処置は施されずに、裸のままぞんざいに積み上げられている。褪せているとはいえ、枯れた印象の内装とは正反対の色彩豊かな拍子に、イナは惹きつけられた。
部屋の探索はリーフに任せておいて、雑誌をめくってみる。巻頭グラビアに登場する女性は髪型が古くさく、何十年も前に刊行されたものだろうか。掲載されている漫画の絵柄も同じく古い。古めかしい印象に邪魔をされて気づくのが遅れたが、若者向けの雑誌だ。
おばあちゃんが若者向けの雑誌を? 有り得ない。では、家族のもの? ……どうなのだろう。おじいちゃんのことはおばあちゃんに負けないくらい知らないけど、多分、趣味は一般的な高齢者と大きくは変わらないだろうし。
そこまで考えて、お母さんだ、と気がついた。
イナの母親がまだ子どもだったころは当然、両親であるイナの母方の祖父母と生活をともにしていたはずだ。当時母親が愛読していて、親元から離れて生活にするにあたって、引っ越し先に持っていくでも廃棄するでもなく部屋に置いていった雑誌。それが今現在イナの目の前に山積みにされている古雑誌なのだ。
何十年経った今も残されているのは、きっと取るに足らない理由からなのだろう。たとえば、雑誌類のゴミの収集日が引っ越し当日よりもあとだったので、家族に処分を託して旅立った。しかし、託されたほうは存在を失念してしまい、今日に至るまで放置されてきた、といったような。
イナは初めて、この家に四次元的な深みを感じた。観測者である自分の目が届かない場所にも時間が流れていて、それが積み重った結果今があるのだ。仮に自分が今ここで死んだとしても、その瞬間をもって世界も幕を下ろすのではなく、死後もずっと続いていくのだ。
「……いや、死なないけど」
神だし。
興味深い体験ではあったが、イナの心は満たされない。欲しいものはまだ得られていない。雑誌を元あった場所へと放り投げ、部屋の探索を再開する。
そんな有り様だから、希和子の死にざまや、死因や、葬儀の詳細を思い出すことなど、夢のまた夢。
木板が軋む音を立てながら二階に上がる。廊下を西に進んだ突き当りの一室は、以前誰かが私室として使用していたらしい雰囲気が漂っている。
クローゼットのドアを開けると、大量の古雑誌が置かれていた。紐で縛るなどの処置は施されずに、裸のままぞんざいに積み上げられている。褪せているとはいえ、枯れた印象の内装とは正反対の色彩豊かな拍子に、イナは惹きつけられた。
部屋の探索はリーフに任せておいて、雑誌をめくってみる。巻頭グラビアに登場する女性は髪型が古くさく、何十年も前に刊行されたものだろうか。掲載されている漫画の絵柄も同じく古い。古めかしい印象に邪魔をされて気づくのが遅れたが、若者向けの雑誌だ。
おばあちゃんが若者向けの雑誌を? 有り得ない。では、家族のもの? ……どうなのだろう。おじいちゃんのことはおばあちゃんに負けないくらい知らないけど、多分、趣味は一般的な高齢者と大きくは変わらないだろうし。
そこまで考えて、お母さんだ、と気がついた。
イナの母親がまだ子どもだったころは当然、両親であるイナの母方の祖父母と生活をともにしていたはずだ。当時母親が愛読していて、親元から離れて生活にするにあたって、引っ越し先に持っていくでも廃棄するでもなく部屋に置いていった雑誌。それが今現在イナの目の前に山積みにされている古雑誌なのだ。
何十年経った今も残されているのは、きっと取るに足らない理由からなのだろう。たとえば、雑誌類のゴミの収集日が引っ越し当日よりもあとだったので、家族に処分を託して旅立った。しかし、託されたほうは存在を失念してしまい、今日に至るまで放置されてきた、といったような。
イナは初めて、この家に四次元的な深みを感じた。観測者である自分の目が届かない場所にも時間が流れていて、それが積み重った結果今があるのだ。仮に自分が今ここで死んだとしても、その瞬間をもって世界も幕を下ろすのではなく、死後もずっと続いていくのだ。
「……いや、死なないけど」
神だし。
興味深い体験ではあったが、イナの心は満たされない。欲しいものはまだ得られていない。雑誌を元あった場所へと放り投げ、部屋の探索を再開する。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる