いかされ

阿波野治

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ケンの要求

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 ダイニングで古川日出男の『サウンドトラック』の下巻を読んでいると、ケンが大あくびをして、大きく伸びをした。目覚めたらしい。しなやかさと、一見相反する物憂さが同居している、そんな挙動だ。

「あっ、いた」

『サウンドトラック』を閉じてテーブルに置き、ケンに向き直る。

「腹減ったな。なんかないの?」
「もう少し、声を小さくしてもらえないかな」
「目くじらを立てるようなこと? 普通のボリュームじゃん。それとも、ぼくが自覚ないだけ?」
「大きすぎる、というほどでもないけど、隣人に存在を悟られたくないから」

 フレデリカさんは、わたしが『サウンドトラック』下巻を読み始めたころに帰宅している。同居人はいないはずなのに「ただいまー」と挨拶したので、分かりやすかった。興味はないので傾聴はしていない。それでも、室内を歩き回る足音、ため息、冷蔵庫のドアを開け閉めする音、などが壁越しに聞き取れた。
 彼女は帰宅後、ただちに食事をとった。音声から判断した限り、それはたしかだ。ただ、帰宅から半時間以上が経った現在、なにをしているのかは定かではない。物音が発生していないため、推測するのは実質的に不可能。

「いいじゃんいいじゃん、細かいことは」

 予想していた通り、ケンは声のボリュームを絞らない。顔に浮かんでいるのは、軽佻浮薄な印象の弛緩した微笑。変えないという対応が、悪意にもとづくものではなく、危機感のなさに起因することを如実に示している。

「ところで、食事は? ぼくの分の夕食」
「ここはあなたの家じゃない」
「あれっ、いっしょに暮らすっていうのはどうなったの?」
「あなたが一方的に決めただけでしょう」
「ぼく、ここで暮らしたいな。きみといっしょに、二人きりで」
「わたしはそうは思わないけど」
「どうしたら折り合えるかな?」
「あなたといっしょに暮らしてもいいと思えるなにかを、あなたがわたしに提供してくれるなら、可能性はゼロではないかもしれない」
「なるほど。じゃあ、これは?」

 口の片端を吊り上げる笑い方をして、自らの股間を指差す。屹立している。セックスをする前に時間を巻き戻したかのように、気力充分だ。

「わたしはセックスでは快感を覚えないから、報酬にはならないわ」
「ああ、それもそうだね。でも、お人形みたいな女とやるの、ぼく的にはすっごく気持ちよかったよ。あらゆる意味で気持ちよかった」
「わたしにメリットがないから、交換条件としては不適当ね」
「えー」

 閃いた。唇を尖らせるケンを見て、ではない。交換条件という、自分が口にした単語が引き金となって。

「交換条件かぁ。きみはなにが好きなの? 甘いチョコレート? ひらひらしたワンピース? きれいな花? きみのこと、もっともっと知りたいな」
「話し合いをしましょう」
「そうだね。それが民主的でいいや。こっちにおいで」

 手招きをされたので、ベッドまで移動する。床に座って相対するか。ベッドの縁に腰かけるか。逡巡したのち、後者を選ぼうとすると、

「膝枕! 膝枕してよ。えーっと、きみの名前は」
「夕映。等々力夕映」
「ユエか。へー、いい名前。じゃあユエ、膝枕っ!」

 わたしはベッドの上で正座をする。ケンは素早い動きで後頭部をのせてきた。歯を見せてにかっと笑う。

「ユエ。話し合い、どこから始める?」
「一つ思いついたんだけど。交換条件」
「あっ、そうなんだ。じゃあ、おっぱい出して」
「どうして?」
「吸うから、ユエのおっぱい。女に膝枕してもらいながらおっぱいを吸ったら、マジで気持ちいいから。それに手コキが加われば最高だね。交換条件についてきみが話すだけなら、ぼくの口は必要ないだろ? だから、吸いたいし、手コキしてもらいたいんだ」
「説明には、そんなに時間はかからないと思うけど」
「いいから、おっぱい」

 シャツを脱ぎ、ブラジャーを外す。

「やっぱユエのおっぱい、まるっこくてかわいいなー。ちっちゃいけど」

 小さいせいで乳首がケンの口まで届かない。上体を前傾させると、すぐさま吸いついてきた。赤ん坊ように吸うのと、乳首を舌先で弾くように弄ぶのと。二つの行為が反復される。次第に乳首が硬化していくのが分かる。
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