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「おい、等々力。いつもの朝のダンスやれよ」
教室に入ると五人が待ち構えていて、命じられた。珍しく閉ざされていた教室の戸が開いた瞬間に告げられたので、正真正銘いきなり、という感じだった。
そんな習慣は昨日までなかった。おそらく、今日から始まるのだろう。
「教卓の横だよ。ほら、早く準備」
五人は全員、下卑た笑みを顔に貼りつけている。その手の表情を浮かべるとき、彼らの顔は五つ子のように酷似する。自分の机にスクールバッグを置いてこようとすると、
「さっさとしろよ、このハゲぇ!」
坂本がわたしの肩からスクールバッグをひったくり、床に叩きつけた。その拍子に留め金が外れ、教科書とノートとペンケースが滑り出て扇状に拡散する。弾みでペンケースの蓋が開いてペンが散らばった。昨日と同じだ、と思う。
言われた通りの場所に移動し、黒板に背を向ける。その場で制服と下着を脱ぎ、準備完了。五人のうちの誰なのかは分からないが、スマホで音楽を鳴らし始めた。『世界共産党のテーマ』だ。
『我らは世界共産党
世界の平和を守る党
暴走政権許すまじ
憲法改悪断固阻止――』
「おらぁ、等々力ぃ! もっとジャンプしろよぉ! 乳揺れしねぇじゃねぇか!」
碇がドスが効いた声を飛ばしてきた。とーべ! とーべ! という、三村の合いの手。高井は「とーべ! とーべ!」に合わせて手振りで促す。命令に応じると、五人から誇張された歓声が上がった。
踊り終わると、五人は満足したらしく、自席に帰って行った。服を身に着けていると、
「なんで抵抗しないわけ? 気持ち悪っ」
女子生徒の声。わたしに宛てたというよりも、聞こえよがしの独り言、といった響きだ。
顔を上げると、最前列の席に座る中条さんと目が合った。クラスメイトの女子三人が彼女の机を囲んでいる。薄くメイクを施した顔が歪み、舌打ち。
「うざっ。さっさと自殺しろよ」
他の三人は眉根を寄せ、グループのリーダーに同調してみせた。
服を着終わると、ただちに鞄の中身を回収する。教科書とノートはともかく、ペンはその形状ゆえに遠くまで転がっているものもあった。
中条さんの机の足元にも一本、クリアレッドのシャープペンシルが横たわっている。四つん這いになって拾おうとすると、中条さんが踏みつけた。ぱきっ、という音がした。取り巻きの一人がわたしの臀部を軽く蹴った。
ひびが入ったシャープペンシルを手にしたのと、朝のショートホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴ったのは、ほぼ同時だった。
* * *
体を触られたり、殴られたり、体を触られたり、蹴られたり、体を触られたり、体を触られたり、体を触られたりしているうちに、昼休み時間が近づいてきた。
プランは相も変わらず、画竜点睛を欠いている。場所の選定はすでに済ませた。
では、どうやって誘おう? 五人がわたしに加害行為を及ぼす場所は、主に教室。次点でトイレ。あとは、移動教室のさいには廊下。それくらいのものだ。
チャイムが鳴った。時間が来たのだから、自信を持てなくても手を打つしかない。現時点での最高の一手を。
「おい、等々力!」
レジ袋を机上に出して席を立ったところで、碇の声が飛んできた。
「今日さ、なんか暑くね? お前、今日も弁当なんだろ。優しくて慈悲深い俺たちが、お前の弁当をお茶漬けにしてやるよ。ひっひひ」
お茶漬け、とは、ごはんに尿をかける行為の別称だ。わたしは今までに二回、そのもてなしを受けたことがある。
「さっさと来いよ。楽しい楽しいランチタイムと洒落込もうぜ」
「わたし、今日は外で食べるつもりだから。旧校舎裏で」
「旧校舎裏? なんでわざわざそんなところに行くんだよ」
「誰かと食う約束でもしてんの? んなわけないよな、等々力に限って」
見下したようなにやにや笑いを浮かべての、三村の言葉だ。
「ていうか、俺らの命令無視してどっか行くとか、有り得なくない? 等々力の分際で」
「いや、ちょっと待て」
坂本が右手の人差し指で眼鏡のブリッジを押し上げながら、もう一方の手の掌を他の四人に向け、発言を制した。
「お茶漬けをするんだったらさ、教室よりも外の方がよくね? ほら、教室の中ですると、くせぇじゃん」
「ああ、たしかに。それは言えてる」
「飯は他の場所でも食えるけど、授業は教室で受けなきゃいけないもんな。くせぇの嫌なんだよなぁ。ただでさえ授業がかったるいのに」
「旧校舎裏は人目がないから、思う存分等々力を虐待できるっていうメリットもある」
「いいこと尽くめじゃん」
「じゃ、外行こうぜ」
「おっけい。なんか久々に外で飯食うなー」
「でも、外でお茶漬けしたら、結局臭くならね? 飯、食えなくね?」
「旧校舎裏から移動すればいいだけの話っしょ」
「それもそうだな」
「じゃあ、決まりだな。おーい、等々力、行こうぜ。千利休も切腹するほど美味い茶、俺たちが奢ってやるよ!」
案ずるよりも産むが易し、とはこのことだろう。
教室に入ると五人が待ち構えていて、命じられた。珍しく閉ざされていた教室の戸が開いた瞬間に告げられたので、正真正銘いきなり、という感じだった。
そんな習慣は昨日までなかった。おそらく、今日から始まるのだろう。
「教卓の横だよ。ほら、早く準備」
五人は全員、下卑た笑みを顔に貼りつけている。その手の表情を浮かべるとき、彼らの顔は五つ子のように酷似する。自分の机にスクールバッグを置いてこようとすると、
「さっさとしろよ、このハゲぇ!」
坂本がわたしの肩からスクールバッグをひったくり、床に叩きつけた。その拍子に留め金が外れ、教科書とノートとペンケースが滑り出て扇状に拡散する。弾みでペンケースの蓋が開いてペンが散らばった。昨日と同じだ、と思う。
言われた通りの場所に移動し、黒板に背を向ける。その場で制服と下着を脱ぎ、準備完了。五人のうちの誰なのかは分からないが、スマホで音楽を鳴らし始めた。『世界共産党のテーマ』だ。
『我らは世界共産党
世界の平和を守る党
暴走政権許すまじ
憲法改悪断固阻止――』
「おらぁ、等々力ぃ! もっとジャンプしろよぉ! 乳揺れしねぇじゃねぇか!」
碇がドスが効いた声を飛ばしてきた。とーべ! とーべ! という、三村の合いの手。高井は「とーべ! とーべ!」に合わせて手振りで促す。命令に応じると、五人から誇張された歓声が上がった。
踊り終わると、五人は満足したらしく、自席に帰って行った。服を身に着けていると、
「なんで抵抗しないわけ? 気持ち悪っ」
女子生徒の声。わたしに宛てたというよりも、聞こえよがしの独り言、といった響きだ。
顔を上げると、最前列の席に座る中条さんと目が合った。クラスメイトの女子三人が彼女の机を囲んでいる。薄くメイクを施した顔が歪み、舌打ち。
「うざっ。さっさと自殺しろよ」
他の三人は眉根を寄せ、グループのリーダーに同調してみせた。
服を着終わると、ただちに鞄の中身を回収する。教科書とノートはともかく、ペンはその形状ゆえに遠くまで転がっているものもあった。
中条さんの机の足元にも一本、クリアレッドのシャープペンシルが横たわっている。四つん這いになって拾おうとすると、中条さんが踏みつけた。ぱきっ、という音がした。取り巻きの一人がわたしの臀部を軽く蹴った。
ひびが入ったシャープペンシルを手にしたのと、朝のショートホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴ったのは、ほぼ同時だった。
* * *
体を触られたり、殴られたり、体を触られたり、蹴られたり、体を触られたり、体を触られたり、体を触られたりしているうちに、昼休み時間が近づいてきた。
プランは相も変わらず、画竜点睛を欠いている。場所の選定はすでに済ませた。
では、どうやって誘おう? 五人がわたしに加害行為を及ぼす場所は、主に教室。次点でトイレ。あとは、移動教室のさいには廊下。それくらいのものだ。
チャイムが鳴った。時間が来たのだから、自信を持てなくても手を打つしかない。現時点での最高の一手を。
「おい、等々力!」
レジ袋を机上に出して席を立ったところで、碇の声が飛んできた。
「今日さ、なんか暑くね? お前、今日も弁当なんだろ。優しくて慈悲深い俺たちが、お前の弁当をお茶漬けにしてやるよ。ひっひひ」
お茶漬け、とは、ごはんに尿をかける行為の別称だ。わたしは今までに二回、そのもてなしを受けたことがある。
「さっさと来いよ。楽しい楽しいランチタイムと洒落込もうぜ」
「わたし、今日は外で食べるつもりだから。旧校舎裏で」
「旧校舎裏? なんでわざわざそんなところに行くんだよ」
「誰かと食う約束でもしてんの? んなわけないよな、等々力に限って」
見下したようなにやにや笑いを浮かべての、三村の言葉だ。
「ていうか、俺らの命令無視してどっか行くとか、有り得なくない? 等々力の分際で」
「いや、ちょっと待て」
坂本が右手の人差し指で眼鏡のブリッジを押し上げながら、もう一方の手の掌を他の四人に向け、発言を制した。
「お茶漬けをするんだったらさ、教室よりも外の方がよくね? ほら、教室の中ですると、くせぇじゃん」
「ああ、たしかに。それは言えてる」
「飯は他の場所でも食えるけど、授業は教室で受けなきゃいけないもんな。くせぇの嫌なんだよなぁ。ただでさえ授業がかったるいのに」
「旧校舎裏は人目がないから、思う存分等々力を虐待できるっていうメリットもある」
「いいこと尽くめじゃん」
「じゃ、外行こうぜ」
「おっけい。なんか久々に外で飯食うなー」
「でも、外でお茶漬けしたら、結局臭くならね? 飯、食えなくね?」
「旧校舎裏から移動すればいいだけの話っしょ」
「それもそうだな」
「じゃあ、決まりだな。おーい、等々力、行こうぜ。千利休も切腹するほど美味い茶、俺たちが奢ってやるよ!」
案ずるよりも産むが易し、とはこのことだろう。
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