切言屋

阿波野治

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突然の報せ②

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 草太朗はリバーシのアプリを閉じた。
 のみならず、アンインストールまでしてしまう。殺風景なホーム画面がいっそう空虚になる。
 リバーシなどのシンプルなゲームは一からルールを覚える必要がなく、プレイに過度の集中力を必要としないので、ストレスから逃げたいときに頼っている。無意識に頼り、遊んでいる。

 退廃的だな。
 草太朗は我ながらそう思う。

 アプリを端末にインストール済みの状態にしておくことを許さないのは、自己嫌悪ゆえだ。
 なにも考えずに済むはずのプレイ中に、不意に影のように差す自己嫌悪。その感情を一瞬でも抱いたとたん、気持ちは萎え、遊びを中断する。衝動的に、迷いなく迅速にアプリをアンインストールする。しかし時間が経ち、再び耐えがたいストレスを感じると、性懲りもなくアプリストアから同じゲームをインストールしている。

 退廃的なことこの上ない、という自覚はある。あふれんばかりにあると言ってもいい。
 しかし、やめられない。だからこそ、この上なく退廃的だ。救いもなにもあったものではない。

 ただし今回は、自己嫌悪ではなく、のどかからの視線が引き金となった。
 はっとして振り向いたが、彼女の双眸はすでに文庫本に落ちている。現実逃避中の父親を観察していたが、彼の注目が転じられる気配を察して、素早くかつさり気なく視線を戻し、何食わぬ顔で読書を再開したのだろう。観察しているあいだの冷ややかな目つきが脳裏に浮かぶようだ。
 感情表現に乏しいのどかが感情を露わにしたとき、その姿は見る者によくも悪くもショックをもたらす。思わず目を逸らし、見ずに済んでよかった、と思うこともある。逆に一周回って、目に焼きつけておくべきだと思うこともある。

 なににせよ、非生産的な時間を比較的速やかに終わらせられたのはありがたい。
 リバーシはリバーシで遊びたい人間が遊べばいい。草太朗が今やるべきは、仕事について考えること。

 この二日間の遼の働きは見事だった。飲み物と軽食をおごったが、それだけでは足りないほどの働きぶりだった。
 一方で、問題解決に繋がる情報は得られなかったのも事実。過去に遼に言ったように、手がかりがないというのも情報であり、成果の範疇ではあるが、そればかりでは事態は一向に前進しない。
 今までとは大きく違う、なんらかの新たな手を打つ必要がある。
 でも、どんな手を?

 本が閉ざされた音を耳にして、草太朗の思案は途切れる。
 顔を上げると、のどかが文庫本をテーブルに置いて腰を上げたところだった。彼女が音を立てて本を閉じることは、まったくないわけではないが珍しい。視線が重なると、

「トイレ」
 と短く答えて、ソファから遠ざかっていく。
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