切言屋

阿波野治

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美咲の言葉⑥

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 人と意思疎通するのがとにかく怖くて、とてもではないけど人と会話なんてできなかった。あくまでも事務的に、これが必要だからこうしてほしいって、最低限の要望をお母さんに紙で伝えるので精いっぱい。とてもじゃないけど学校に行けるような状態ではなかった。

 自分はおかしい人間なんだ、普通じゃないんだ、異常なんだって、ずっとずっと思っていた。助けてくれる人がいるなら、助けてほしい。だけど、そんなものは机上の空論、絵空事、砂上の楼閣。

 そんな絶望的な気分でいたときに、切言屋という、聞いたこともない仕事をしている人が私を説得することになった。昔テレビで見た、ひきこもりの人を強引に外に引っ張り出す活動をしていた男性のことを思い出して、嫌な気持ちになった。

 でも、切言屋さんの助手だっていうのどかちゃんは、ものすごく大人しい子で、そのうえ理知的で、いい意味で裏切られた。仕事なんだから当たり前、と言ってしまえばそれまでだけど、こんなにも真剣に、私に向き合ってくれる人がこの世界に存在するのかって、本気で感動した。この子になら話してみてもいいかもしれないって、心が揺れた。無関係の他人だからこそ話しやすい、みたいな心理が働いていたような気がする。

 だけど、無理だった。寸前まではいったけど、最後の一線を越えられなかった。そして、私は再び絶望の淵に沈んだ。のどかちゃんが書いた文章を読み返そうとして、指を切って出血してしまったんだけど、その血をわざとメモ用紙に吸わせて廊下に出しておくとか、あのときの私は明らかにおかしかった。病んでいるという意味では、あのときが一番酷かったんじゃないかな。

 精神的に追いつめられていたから、のどかちゃんからボイスメッセージをもらったときは、感動した。泣きそうになった。ああ私、孤独なのは間違いないけど、みんなから見捨てられたわけじゃないんだなって。

 でも、こんな言いかたをするのも心苦しいけど、しょせんは一時しのぎ。感動が一段落すると、初めて自殺を考えたころよりも絶望した。今の生活を一生続けていく覚悟、みたいなものをしはじめた。

 二日間、のどかちゃんは来ないっていう話だったから、そのあいだにいろんなことを考えた。たった二日がとても長く感じられて、やっとのことで約束の月曜日――ようするに今日がやって来た。

 あなたがまた話をしに来てくれたのはうれしかった。だけど、表面的なうれしさっていうか、私なんかと交わした約束を律義に守る奇特な人もいるんだな、くらいの感覚で、高揚感とか感動とは無縁の喜びだった。
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