111 / 113
依頼の終わり③
しおりを挟む
「お言葉だけどね、のどかちゃん」
あえて、そこでいったん言葉を切る。不謹慎な発言を糾弾されるとでも思ったのか、のどかは少し眉根を寄せて父親を見返した。草太朗は底抜けに能天気に微笑して語を継いだ。
「小説って、どの作品もだいたいそんなものじゃないかな。紆余曲折あって、ハッピーエンド。それが基本形だと思う。ようするに、結末よりも過程が大事なわけ。
だから小説の腕を磨くには、その紆余曲折をどう描くかを考えればいい。
たとえば美咲ちゃんの場合で言えば、ハッピーエンドは『美咲ちゃんが部屋を出て、学校へ行って、人としゃべれるようになる』で、紆余曲折は『美咲ちゃんをいかに説得するか』だよね。のどかは美咲ちゃんが話し出すのを待ったけど、パパだったらあれこれしゃべりかけて、なんとかして言葉を引き出そうとしたかな。遼くんだったらかなり熱く語りかけたんだろうって想像がつくし、弥生ちゃんなら愛の鞭って感じで厳しい言葉をぶつけていたかもしれないね。ようするに、主人公の個性とか経験とかによって、筋書きはころころと変わる。
どうすれば自分の個性を活かせるか。いかに自分のためになる経験を重ねていくか。そこのところを考えていくといいかもしれないね。
ど素人がなに創作論語ってるんだよって話だけど、そんなにおかしなことは言っていないんじゃないかな? パパの意見、参考になりそうであれば参考にしてみて」
のどかが大切にしている小説の話だけに、辛辣な言葉が返ってくる覚悟はしていた。それに対して、切言屋らしく上手い言葉を返して、娘の不機嫌が吹き飛ぶような愉快なやりとりに発展することを期待していた。
しかし、のどかは全ての感情を引っ込めて真顔になった。さらにはスマホをジーンズのポケットにしまい、ソファから立ち上がる。
「のどかちゃん、どうしたの?」
「『究極の小説』……。プロットを立てている段階でつまずいていたけど、悪い意味での完璧主義に囚われているのかもしれないって疑っていたけど――もしかしたら、困難から逃げていただけかもしれない」
「つまずき? 完璧主義? 困難? ……どういうこと?」
「こっちの話だから、パパは分からなくていいよ。今から試しに書いてみる」
のどかは自室へと消えた。その静かだが決意が宿った後ろ姿を見て、「パパは知らなくていいよ」という発言の意味が呑み込めた気がした。
「いいね、若いってのは。……そうだろう、はるか」
口角を持ち上げて仏壇の遺影に視線を投げる。今は亡き最愛の妻は、今日も相変わらず上機嫌そうにほのかに笑っている。
あえて、そこでいったん言葉を切る。不謹慎な発言を糾弾されるとでも思ったのか、のどかは少し眉根を寄せて父親を見返した。草太朗は底抜けに能天気に微笑して語を継いだ。
「小説って、どの作品もだいたいそんなものじゃないかな。紆余曲折あって、ハッピーエンド。それが基本形だと思う。ようするに、結末よりも過程が大事なわけ。
だから小説の腕を磨くには、その紆余曲折をどう描くかを考えればいい。
たとえば美咲ちゃんの場合で言えば、ハッピーエンドは『美咲ちゃんが部屋を出て、学校へ行って、人としゃべれるようになる』で、紆余曲折は『美咲ちゃんをいかに説得するか』だよね。のどかは美咲ちゃんが話し出すのを待ったけど、パパだったらあれこれしゃべりかけて、なんとかして言葉を引き出そうとしたかな。遼くんだったらかなり熱く語りかけたんだろうって想像がつくし、弥生ちゃんなら愛の鞭って感じで厳しい言葉をぶつけていたかもしれないね。ようするに、主人公の個性とか経験とかによって、筋書きはころころと変わる。
どうすれば自分の個性を活かせるか。いかに自分のためになる経験を重ねていくか。そこのところを考えていくといいかもしれないね。
ど素人がなに創作論語ってるんだよって話だけど、そんなにおかしなことは言っていないんじゃないかな? パパの意見、参考になりそうであれば参考にしてみて」
のどかが大切にしている小説の話だけに、辛辣な言葉が返ってくる覚悟はしていた。それに対して、切言屋らしく上手い言葉を返して、娘の不機嫌が吹き飛ぶような愉快なやりとりに発展することを期待していた。
しかし、のどかは全ての感情を引っ込めて真顔になった。さらにはスマホをジーンズのポケットにしまい、ソファから立ち上がる。
「のどかちゃん、どうしたの?」
「『究極の小説』……。プロットを立てている段階でつまずいていたけど、悪い意味での完璧主義に囚われているのかもしれないって疑っていたけど――もしかしたら、困難から逃げていただけかもしれない」
「つまずき? 完璧主義? 困難? ……どういうこと?」
「こっちの話だから、パパは分からなくていいよ。今から試しに書いてみる」
のどかは自室へと消えた。その静かだが決意が宿った後ろ姿を見て、「パパは知らなくていいよ」という発言の意味が呑み込めた気がした。
「いいね、若いってのは。……そうだろう、はるか」
口角を持ち上げて仏壇の遺影に視線を投げる。今は亡き最愛の妻は、今日も相変わらず上機嫌そうにほのかに笑っている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~
shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて
無名の英雄
愛を知らぬ商人
気狂いの賢者など
様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。
それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま
幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。
あの素晴らしい愛をもう一度
仏白目
恋愛
伯爵夫人セレス・クリスティアーノは
33歳、愛する夫ジャレッド・クリスティアーノ伯爵との間には、可愛い子供が2人いる。
家同士のつながりで婚約した2人だが
婚約期間にはお互いに惹かれあい
好きだ!
私も大好き〜!
僕はもっと大好きだ!
私だって〜!
と人前でいちゃつく姿は有名であった
そんな情熱をもち結婚した2人は子宝にもめぐまれ爵位も継承し順風満帆であった
はず・・・
このお話は、作者の自分勝手な世界観でのフィクションです。
あしからず!
拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!
FOX4
ファンタジー
王都は整備局に就職したピートマック・ウィザースプーン(19歳)は、勇者御一行、魔王軍の方々が起こす戦闘で荒れ果てた大地を、上司になじられながらも修復に勤しむ。平地の行き届いた生活を得るために、本日も勤労。
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
雨上がりの虹と
瀬崎由美
ライト文芸
大学受験が終わってすぐ、父が再婚したいと言い出した。
相手の連れ子は小学生の女の子。新しくできた妹は、おとなしくて人見知り。
まだ家族としてイマイチ打ち解けられないでいるのに、父に転勤の話が出てくる。
新しい母はついていくつもりで自分も移動願いを出し、まだ幼い妹を含めた三人で引っ越すつもりでいたが……。
2年間限定で始まった、血の繋がらない妹との二人暮らし。
気を使い過ぎて何でも我慢してしまう妹と、まだ十代なのに面倒見の良すぎる姉。
一人っ子同士でぎこちないながらも、少しずつ縮まっていく姉妹の距離。
★第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる