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姉と妹の話①
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千村の遺体は青いビニールシートにくるまれ、ロープで厳重に縛られ、軽トラックの荷台に放り込まれた。漏らした糞便は拭わなかったので、日常的に嗅いでいるにもかかわらず一向に耐性がつかない、不愉快極まる悪臭を我慢しながらの作業となった。
「死体になったら、何か急に重くなった気がする。うんこした後だから、むしろ軽くなってなきゃいけないんだけど」
「当たり前みたいに下品なことを言うな。もうじき晩飯を食おうかって時に」
「あら、食いしん坊」
「あら、じゃねぇよ」
二人とも荷台に乗り、くだらない会話を交わしながらの移動となる。会話の内容があまりにもくだらないせいで、秘密基地で流れた気まずい雰囲気は、半時間も経っていない過去の出来事にもかかわらず、遠い過去の思い出と化していた。シリアスな状況でも平気でつまらない冗談を言う三花の軽薄さに、俺はこれまで眉をひそめてきたが、評価を改める必要があるかもしれない。
軽トラックは猫カフェ『青い霹靂』前の歩道で停車した。事件があった影響だろう、駐車場の出入口に黄色いテープが張られている。
三花はアリッサに運転席で待機するよう命じ、俺には千村の死体を運ぶのを手伝うよう指示を下す。向かう先は、店の正面玄関。
「死体、玄関の前に放置するから。素敵な手紙を添えて」
「手紙? もしかして、三花のお姉さんたち宛?」
「正解。ただし、呼び出す相手はマップスの二人だけどね。挑発に乗ってくれるかは分からないけど」
「待ち伏せしていないかな? 猫カフェの方に一人、カフェレストランの方に一人、みたいな」
「あっ、それはあるかもね。でも、二対一なら撃退できると思うし、心配はしなくてもいいんじゃない? 一か所に二人来てたらちょっと面倒だけど」
「もしそうだったら、どうする?」
「どうするも何も、戦うしかないでしょ。でも、多分大丈夫。不穏な気配は感じないし」
「本当かよ」
遺体を玄関前に置く。誰も襲ってこない。周囲を見回したが、潜んでいる者はいないようだ。
「マジでいなかったね。何か拍子抜け」
「警戒しているみたいだな、向こうも」
「そりゃそうでしょ。だってたった半日で、一人殺害一人重症一人行方不明だもん。で、翌朝になったら、行方不明になっていた仲間も遺体で発見」
「益々警戒するだろうし、誘いには乗ってこないかもしれないな」
「さあ、どうだろう」
トラックに戻ると、三花は市道を走るようアリッサに命じた。飲食店を探すためだ。
最初は店の中で食べる計画だったが、マクドナルドを見つけて予定を変更。ハンバーガーとフライドポテトとコーラをテイクアウトし、再び荷台に乗り込む。
どこか静かな場所に車を停めて、夕空でも眺めながら三人で食事をする。そんな方針を立てていたのだが、食欲をそそる匂いに屈したらしく、いつの間にか三花はチーズバーガーを頬張っている。
「なに先に食ってんだよ。三人で一緒に食べる約束はどうなった」
「アリッサの分を残しておけば、先に食べても問題ないでしょ」
「薄情なやつだな」
そう非難したものの、空腹時に他人の食事風景を目の当たりにしてしまうと、食欲を抑え込むのは難しい。情けなくも四・五分で限界を迎え、フライドポテトに手を伸ばした。
「アリッサの分を残しておけば、先に食べても別にいいよな。残しておけば」
「まあね。アリッサの分さえあればね」
身勝手極まりない会話を交わしつつ、俺たちはジャンクフードを貪り食った。その最中、三花が唐突に、
「お姉ちゃんたちのこと、この機会に話しておこうかな」
「いいけど、何で急に?」
「『獅子の心』でちらっと触れたけど、うちのお姉ちゃん、二人揃ってマジでクズなの。特に一樹はクズ中のクズだから、あたしと妹に何をしてきたのかを聞いたら、同情間違いなしだよ。だから、殺すのに快く協力してくれるだろうな、っていう計算なんだけど」
「……ああ。あのときの質問にやっと答えてくれるわけね。お姉さんたちとの間で起きたトラブルの詳細について」
「トラブルなんて昔からしょっちゅうだよ。そのたびに、お互いに腹の中に怒りと憎しみを溜め込んできたわけだけど、これというきっかけがあって爆発したわけじゃない。しょうもないことが原因で言い争っているうちに、『お前ら絶対殺してやるから』『じゃあ殺される前に刺客にお前を殺させる』『じゃあその前にお前らを殺す』『やれるものならやってみろ』――みたいなやりとりが発生して、自分でもよく分からないうちに命を狙われる立場になっていました、みたいな感じだから」
「……そうだったんだ」
三花は残り二口か三口ほどになったハンバーガーを無理矢理口に押し込み、コーラで喉の奥へと流し込んだ。
「さて、何から語ろうかな。一樹も二葉も国宝級のクズだから、悪行をいちいち挙げていたらきりがないんだよね」
「クズ度なら上のお姉さんの方が上、という話だったけど」
「うん。一樹はガチのマジでクズだから。サディストで性欲の塊でサイコパスだからね、あいつは。一樹に比べたら、二葉なんてかわいいもの。一樹の言いなりになってあたしや妹を虐げることで、自分が被害に遭うのを免れているっていう」
「それだけ上のお姉さんがやばいってことか」
「そういうこと。殺したいくらいむかつくっていう意味では同類だけどね」
言葉が途切れる。三花が食事するペースは全く変わっていないが、俺は落ちた。フライドポテトはMサイズを三つ買い、俺と三花でそれぞれ一つずつ食べ、今は本来ならばアリッサが食べる分を二人で分けているのだが、俺があまり食べられないでいる間にどんどん本数が減っていく。人間を殴ったり蹴ったり殺したりすると腹が減るものなのだろうか。
軽トラックの走行音が静寂を阻んでいるのがささやかな救いだったが、赤信号に引っかかってそれもやんだ。三花は油でぎとぎとの指先をペーパーナプキンで拭い、道路にポイ捨てした。その手をフライドポテトの残りへと伸ばす――のではなく、俺の顔をじっと見つめる。「何だよ」と言おうした矢先、
「妹が、一樹にうんこを食べさせられてね」
「死体になったら、何か急に重くなった気がする。うんこした後だから、むしろ軽くなってなきゃいけないんだけど」
「当たり前みたいに下品なことを言うな。もうじき晩飯を食おうかって時に」
「あら、食いしん坊」
「あら、じゃねぇよ」
二人とも荷台に乗り、くだらない会話を交わしながらの移動となる。会話の内容があまりにもくだらないせいで、秘密基地で流れた気まずい雰囲気は、半時間も経っていない過去の出来事にもかかわらず、遠い過去の思い出と化していた。シリアスな状況でも平気でつまらない冗談を言う三花の軽薄さに、俺はこれまで眉をひそめてきたが、評価を改める必要があるかもしれない。
軽トラックは猫カフェ『青い霹靂』前の歩道で停車した。事件があった影響だろう、駐車場の出入口に黄色いテープが張られている。
三花はアリッサに運転席で待機するよう命じ、俺には千村の死体を運ぶのを手伝うよう指示を下す。向かう先は、店の正面玄関。
「死体、玄関の前に放置するから。素敵な手紙を添えて」
「手紙? もしかして、三花のお姉さんたち宛?」
「正解。ただし、呼び出す相手はマップスの二人だけどね。挑発に乗ってくれるかは分からないけど」
「待ち伏せしていないかな? 猫カフェの方に一人、カフェレストランの方に一人、みたいな」
「あっ、それはあるかもね。でも、二対一なら撃退できると思うし、心配はしなくてもいいんじゃない? 一か所に二人来てたらちょっと面倒だけど」
「もしそうだったら、どうする?」
「どうするも何も、戦うしかないでしょ。でも、多分大丈夫。不穏な気配は感じないし」
「本当かよ」
遺体を玄関前に置く。誰も襲ってこない。周囲を見回したが、潜んでいる者はいないようだ。
「マジでいなかったね。何か拍子抜け」
「警戒しているみたいだな、向こうも」
「そりゃそうでしょ。だってたった半日で、一人殺害一人重症一人行方不明だもん。で、翌朝になったら、行方不明になっていた仲間も遺体で発見」
「益々警戒するだろうし、誘いには乗ってこないかもしれないな」
「さあ、どうだろう」
トラックに戻ると、三花は市道を走るようアリッサに命じた。飲食店を探すためだ。
最初は店の中で食べる計画だったが、マクドナルドを見つけて予定を変更。ハンバーガーとフライドポテトとコーラをテイクアウトし、再び荷台に乗り込む。
どこか静かな場所に車を停めて、夕空でも眺めながら三人で食事をする。そんな方針を立てていたのだが、食欲をそそる匂いに屈したらしく、いつの間にか三花はチーズバーガーを頬張っている。
「なに先に食ってんだよ。三人で一緒に食べる約束はどうなった」
「アリッサの分を残しておけば、先に食べても問題ないでしょ」
「薄情なやつだな」
そう非難したものの、空腹時に他人の食事風景を目の当たりにしてしまうと、食欲を抑え込むのは難しい。情けなくも四・五分で限界を迎え、フライドポテトに手を伸ばした。
「アリッサの分を残しておけば、先に食べても別にいいよな。残しておけば」
「まあね。アリッサの分さえあればね」
身勝手極まりない会話を交わしつつ、俺たちはジャンクフードを貪り食った。その最中、三花が唐突に、
「お姉ちゃんたちのこと、この機会に話しておこうかな」
「いいけど、何で急に?」
「『獅子の心』でちらっと触れたけど、うちのお姉ちゃん、二人揃ってマジでクズなの。特に一樹はクズ中のクズだから、あたしと妹に何をしてきたのかを聞いたら、同情間違いなしだよ。だから、殺すのに快く協力してくれるだろうな、っていう計算なんだけど」
「……ああ。あのときの質問にやっと答えてくれるわけね。お姉さんたちとの間で起きたトラブルの詳細について」
「トラブルなんて昔からしょっちゅうだよ。そのたびに、お互いに腹の中に怒りと憎しみを溜め込んできたわけだけど、これというきっかけがあって爆発したわけじゃない。しょうもないことが原因で言い争っているうちに、『お前ら絶対殺してやるから』『じゃあ殺される前に刺客にお前を殺させる』『じゃあその前にお前らを殺す』『やれるものならやってみろ』――みたいなやりとりが発生して、自分でもよく分からないうちに命を狙われる立場になっていました、みたいな感じだから」
「……そうだったんだ」
三花は残り二口か三口ほどになったハンバーガーを無理矢理口に押し込み、コーラで喉の奥へと流し込んだ。
「さて、何から語ろうかな。一樹も二葉も国宝級のクズだから、悪行をいちいち挙げていたらきりがないんだよね」
「クズ度なら上のお姉さんの方が上、という話だったけど」
「うん。一樹はガチのマジでクズだから。サディストで性欲の塊でサイコパスだからね、あいつは。一樹に比べたら、二葉なんてかわいいもの。一樹の言いなりになってあたしや妹を虐げることで、自分が被害に遭うのを免れているっていう」
「それだけ上のお姉さんがやばいってことか」
「そういうこと。殺したいくらいむかつくっていう意味では同類だけどね」
言葉が途切れる。三花が食事するペースは全く変わっていないが、俺は落ちた。フライドポテトはMサイズを三つ買い、俺と三花でそれぞれ一つずつ食べ、今は本来ならばアリッサが食べる分を二人で分けているのだが、俺があまり食べられないでいる間にどんどん本数が減っていく。人間を殴ったり蹴ったり殺したりすると腹が減るものなのだろうか。
軽トラックの走行音が静寂を阻んでいるのがささやかな救いだったが、赤信号に引っかかってそれもやんだ。三花は油でぎとぎとの指先をペーパーナプキンで拭い、道路にポイ捨てした。その手をフライドポテトの残りへと伸ばす――のではなく、俺の顔をじっと見つめる。「何だよ」と言おうした矢先、
「妹が、一樹にうんこを食べさせられてね」
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